君と煌めく青春を取り戻す

倉辻 志緒

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【煌めきLEVEL/MAX】

*旅行一日目の夜

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「皆、まだ戻ってないのかな? って、福島さんと裕貴君かな? ホテルの外にいるよ」
「行ってみる?」
 ホテルに戻って来るとホテルのロータリーから階段で下に降りて、海辺付近の散歩コースになっている場所に福島さんと裕貴君がいるのが見えた。近寄ってみると……対馬さんはその奥にいて、ただ海を眺めていた。
「対馬さん……!」
 私は対馬さんに駆け寄り、話をかける。
「あ、カナちゃん。おかえり。どこに行ってきたの?
「笹かま屋さんとか、読者プレゼントのお土産探ししたりしてました」
「そっか……」
 対馬さんはどことなく、素っ気が無い。いつもみたいにニコニコな笑顔を私には向けてくれない。
「俺、先に部屋に戻ってるね」
 対馬さんは私にヒラヒラと手を振って、ホテルに向かって歩き出した。それを見ていた福島さんはニヤニヤしながら、私に近付く。
「対馬さん、先生がヒロ君に盗られたみたいで面白くないんですよ。だから拗ねてるだけなんです」
「そ、そんな事ないですよ……多分……」
「対馬さん、先生に対して極度のブラコンですからね。まぁ、それ以上の感情もあるのかもしれないけど……」
「……? それ以上の感情……??」
「はい、多分、恋愛感情抱いてたんじゃないか、と。……あれ? 気付いてませんでしたか?」
「……あ、はい。そんなことは思ってもいませんでしたから」
 福島さんは「まずいな、余計なことを言っちゃったかなぁ……」とブツブツ言いながら、慌てながら先にホテルの方に歩いて行った。
 対馬さんは私のことを好きなの?
 今まで一番近くにいてくれた男性だったのに、気付かなかった。
 海辺の波が私の胸の高鳴りをかき消す様に音を立てている。一人ポツンと残された私に気付いた裕貴君が、「カナちゃんって、もしかして漫画家さん?」と聞いてきた。
 私とヒロ君は、ストレート過ぎる問いに思わず目を丸くする。
 裕貴君にも勿論、まだヒロ君にだって正体を明かしたはずはないのに……一体どうして知っているの……?
「福島さんが会った時からずっと先生って呼んでるし、奏でる心でカナミって書くんでしょ? だとしたら、海大がいつも読んでる漫画の作者と共通するな、って思っただけなんだけどね! で、福島さんにも聞いてみたけどはぐらかされたから、コレは絶対そうだなって確信した。だから、カナミちゃんに直接聞いてみたんだ」
「あ、えっと……」
 私は返答に困り、喉に言葉が詰まる。漫画家だと正体を明かせたら、どんなに楽だろう。この二人が私の正体を言いふらすことはしないだろうけれど、私はヒロ君がどう思うかが怖かった。
 私が少年漫画を描いている事を軽蔑したりしないだろうか……? 小説や漫画は自分の全てをさらけ出して書(描)いているからこそ、正体がバレた時には恥ずかしいのだ。
 中でも高校時代の同級生には絶対に知られたくない。仲良くもないのに利用されたり、馬鹿にされたりもするかもしれない。
 自分が漫画を描いていることを誇りに持っているが、他人に知られる事はまた別なこと。
「カナミちゃん……俺も知ってたよ。ずっと言い出せなかったけど……だから、こないだ漫画を見かけた時に何気に促してみたんだけどね」
 ヒロ君にもバレていた。本屋さんで見かけた時、わざと促して来たんだ。けれども、私は曖昧にしてしまった。
 ………もう終わりだ。
 鼻っから信じてなかったかもしれないけれど、わがまま令嬢の設定も必要なくなった。
 ヒロ君にどう思われているのか知るのが怖いから、逃げ出したい。
「カナミちゃん、いや……奏心先生、いつも面白い漫画をありがとう。大好きで全巻持ってるのも本当だし、今度良かったら……サイン下さい!」
「本当に大好きだもんな、海大。最新作を読むためだけに漫画雑誌も買ってるしな。まさかの知り合いの可愛い女の子が描いてるとは驚きだった!」
 ヒロ君と裕貴君は私のことを軽蔑する所か、私に褒め言葉を与えてくれる。拍子抜けした私は笑顔が溢れた。
 漫画って凄いんだな。大好きな人にとってはストーリーが重要だから、描いている人がどうこうとか、関係ないんだ。私の頭の中が知られているみたいで恥ずかしいから、知り合いには知られたくない秘密だったのだけれども……知られたからこそ、引っ込み思案な私自身を思いっきりさらけ出せた気がする。
「あの……私の素性はバラさないで欲しいです……」
 私は小さな声で二人にお願いをした。
「当たり前じゃん!」
「可愛い女の子が描いているだなんて、誰にも教えたくない!」
 すぐに返答が返って来た。ヒロ君も裕貴君も親しみやすくて好きだなぁ。高校時代に二人に逢えていたら、また違った人生が歩めていたのだろうか……?

 ──二人に正体がバレていて漫画家だとカミングアウトをした後、ホテルの中に入った。
 夕食はバイキング会場で、対馬さんがお酒を飲みすぎてヘロヘロになっている。無事に部屋まで送り届け、私は福島さんと一緒に大浴場の温泉に浸かっていた。
「対馬さん、大丈夫ですかね……?」
「大丈夫ッスよ! ただの酔っ払いです」
 私と福島さんが一緒の部屋で、ヒロ君と裕貴君が一緒の部屋、対馬さんが一人部屋だ。対馬さんを皆で送り届けたが、布団に横にならせるとすぐに寝てしまっていた。
 心配だから、ヒロ君と裕貴君の二人に対馬さんの部屋の鍵を預け、様子を見てくれるように頼んだ。
「多分、ヤケ酒でしょうね」
「ヤケ酒……?」
「もう、対馬さんの気持ちをバラしてしまったから言いますけど……、先生がヒロ君と仲良くしている姿を見たくなかったのかもしれません。単なるヤキモチからのヤケ酒、かと」
 海が一望出来る露天風呂。海を眺めながら話す福島さんは何だかいつもとは雰囲気が違う。薄明かりの下、どことなく切なげな表情を見せる福島さん。
 もしかして、福島さん……!
「福島さんってもしかして……対馬さんを好きですか?」
「先生、私の話をちゃんと聞いてます?」
 福島さんが答えをはぐらかした。
「ちゃんと聞いてますよ。私、誰かに好かれる事なんて中々ないから、対馬さんがもしも好きになってくれたのなら純粋に嬉しいです。でも、残念ながら恋愛感情は抱いた事がないんです。対馬さんは私を窮地から救ってくれた人ですけど。最初からお兄ちゃんみたいに接してくれたから、どちらかと言えばお兄ちゃんですね」
 福島さんは私を見ては、両頬を両指でつねってきた。
「……ふ、あが、」
 私の両頬をつねり、それがどんな意図でそうしたのかは分からなかったが、満足したのか指を離して語り出した福島さん。
「先生は可愛くて女の子らしくてズルいです。私なんて……対馬さんに女として見られてないですもん。対馬さんに編集の仕事を教わって一緒に行動したりしてますけど、対馬さんの目線は常に先生なんです。それを分かってはいるのですが、好きな気持ちって止められないですよ」
「……わ、分かりますよ、ソレ。わ、私も……ヒロ君のことが好きですが、ヒロ君には別の好きな人がいるみたいなんです。優しくされると余計に好き、になっちゃう……けど、私に恋心は抱いてないな、って思う」
 対馬さんが私を好きかどうかはさておき、恋する福島さんは綺麗。普段、オタク街道まっしぐらな福島さんだけれども、元々が色白の目鼻立ちパッチリの美人さんだから、素顔も本当に綺麗なんだよね。本人は美人さんだと自覚してないみたいだけれど……
「お互いに報われない恋をしてるんですね。あの二人には私的にはBLでも良いかなぁ……なんて思ってますけども!」
「え……?」
「ヒロ君と裕貴君ですよぉ! イチャイチャしてるのを見てるといても立ってもいられなくなる! 脳内はBL変換まっしぐらですよね!」
「……た、確かにどちらも美少年ですからね」
「そうでしょ、そうでしょ!」
 福島さんはBL(ボーイズラブ)も大好き。先程までの恋する福島さんはどこに行ってしまったのか……
 でも、漫画以外のことで福島さんとお近付きになれたのは正直に嬉しい。今までは自分以外の誰かと温泉に入る事もなかったし、友達もいなかったから話す相手もいなかった。
 高校に行けなくなってからは中学時代の友達とも疎遠になった。他人と話す事さえも苦痛に思えて、"こう言ったら、こう言われるんじゃないか"とか"皆はどうせ、私を嫌いなんだとか"──そう思い始めたらキリがなくなる程、深みにはまって暗い闇へと落ちて行った。
 そんな時に出会ったのが漫画担当の対馬さんだった。初めは接するのが怖くて仕方なかったが、優しいお兄ちゃんみたいな存在が私の心を溶かしてくれた。それから連載を持つようになってから、福島さんに出会う。福島さんは年下の私を(漫画を?)尊敬していると言い、ぐいぐいと私の領域に入って来た。次第に二人と一緒に居るのが当たり前になり、現在に至る。
「私、のぼせちゃいそう! 先に上がりますね」
「あ、私も上がります……!」
 福島さんの後を追いかけて、私も湯船から出た。口には出さないけれど、福島さんって美人さんなだけじゃなくて、スタイルもめちゃくちゃ良いんだよね。こんなパーフェクトな人を世の中の男性がマークしてないだなんて、不思議でしかない。
「先生、じろじろ見すぎです……!」
「わ。わ、……ご、ごめんなさい……!福島さんってスタイル良いなって思って……」
「あー、それですか。私、たまーにですけど、コスプレとかしてるんで。体型維持するのが大変なんすよ」
「そうなんですね……! 今度、良いダイエットとか教えてください!」
「んー、先生は逆にもう少し肉付き良くした方が良いですよ。男は多少、ムチムチの方がグッときますから!」
 ……ん? 福島さんは私の身体をジロジロ見ながらニヤニヤして笑っているけれど、それは誰目線なの?
 私は以前、ぽっちゃりしていたから、引きこもり中に痩せた。あの時はとりあえず、何にも喉に通らなかったからなぁ。
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