君と煌めく青春を取り戻す

倉辻 志緒

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【海大/BLACK TURN】

*運命共同体

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「潤兄、聞きたいことがある」
 自宅に帰ると潤兄が先に帰宅していた。潤兄が嫌な気持ちになるかもしれないけれど、茜ちゃんが妊娠したと言うのが事実かどうかを知りたい。
 両親も帰って来てないから、聞くのには良いチャンスだ。
 潤兄はスマホから音楽を聞いていたがイヤホンを外し、「うん、いいよ。大体は想像がついてるけどね」と言った。
 潤兄が座っているソファーの隣に腰を下ろした。潤兄は「久しぶりだな、二人でソファーに座るの。春休み以来かな?」と言って、穏やかに笑った。潤兄の笑顔が少しだけ見れて嬉しかった。
「今日、同じ学校の先輩だと思うんだけど、茜ちゃんについて聞かれたんだ」
 潤兄は冷静に答えた。
「……そう。もしかして、男子二名?」
「うん、それに女子三人」
「多分、俺とケンカした二人組。海大、怪我したりしなかったか? 悪かったな、巻き込んでしまって」
 潤兄は俺の頭をグリグリと撫で回した。もう子供じゃないのに! と思いながら、潤兄を見ると目に涙が溜まっていた。
「なっさけないことに両腕押さえ付けられて、ケンカもできなかった。でも、勝てそうになかったから、しなくて良かったけどね。友達が警察官を呼んできてくれて、無事に済んだ」
「そっか、友達に感謝だな。無事で良かった……」
 潤兄の目から涙が零れ落ちた。
「ごめんな……」って、か細い声で謝って。
 俺は潤兄に謝って欲しかったんじゃないんだ。真実を知りたいだけなんだ。何から話して良いのか分からずに今日の出来事を話してしまったけれど……
「違うんだ、謝ってほしいわけじゃない! 俺も……真実が知りたかっただけなんだ! 茜ちゃんは……茜ちゃんと潤兄はっ……!!」
 俺は立ち上がり、潤兄の目の前で少しだけ大きな声で問いかけた。
「自分自身でも頭の中で整理が出来なくて、海大にも両親にも話せなかったんだ。
 まだ、整理できてないけれど、……聞いてくれる?」
 俺は黙ってうなづいて、再びソファーに座った。いつの間にか、潤兄の涙は止まっていて、口元だけ微笑んだ。
「潤兄が話せる範囲で教えてくれたら、俺も嬉しい」
「海大にずっと黙っててごめん。実は……茜ちゃんは学校を辞めたんだ。その後は行方知らずで俺も会ってない」
「学校……辞めたんだ……?」
 茜ちゃんが見つからなかったのは学校を辞めていたせいだった。思い起こせば、茜ちゃんは同じ学校に通うことを楽しみにしてくれていたから、俺を真っ先に探してくれたはずなんだ。もしも学校にいたら、真っ先に会いに来てくれた。ミヒロちゃんと言う、親友を連れて──
「……何で学校を辞めたの?」
「茜ちゃんは……卵巣のう腫と言う病気だったみたいなんだ。体調が悪くなり、ご両親が来るまでの時間、一緒に病院に付き添いしたこともあった」
「もしかして、それが原因で……妊娠させたって疑われたの?」
「……かもしれないな。茜ちゃんは本当に辛そうだったし、俺も心配だったから、後悔はしてないよ」
「うん、俺が潤兄の立場でもそうすると思う」
 俺は潤兄を信じる。
 たった一人の兄弟だし、潤兄が嘘をついてるとは思えない。
「こんなことを言うのも何だけど……その、やましい事はしたことはないんだ。全くって言えば嘘になるけど……妊娠に繋がるようなことは何も、してない」
 潤兄は俺から目を逸らして、少し照れながら言ってた。
 想像するからにキス以上はしてないんだと思う、多分……
 確かに産婦人科に二人で行ったところを目撃されれば、妊娠など疑われても仕方ないけれど……病気だって分かってるのに何で?
「茜ちゃんは病気だったんだろ? 潤兄も診察の付き添いだとはっきり言えば良かったのに」
「そうだよな、でも……茜ちゃんのご両親が学校内でも秘密にして下さいって言ったみたいなんだ。だから、俺も秘密を守った」
「潤兄……」
 潤兄が不憫で仕方なかった。
 確かに病気を明かせば、茜ちゃんは偏見なので目で見られたり、興味本位に根掘り葉掘り聞かれたりするかもしれない。ご両親は茜ちゃんを守りたかったのは分かる。
 けれども、こんなにも茜ちゃんを思って尽くしていた潤兄はどうでも良かったのか?
 診察まで一緒に付き添って勘違いされて、妊娠したとか根も葉もない噂を流されて、ケンカに巻き込まれて、停学にまでなって……
「悔しいよ……俺は凄く悔しい……! なん、で潤兄が辛い思いしなきゃいけないの」
 子供の頃みたいに悔し涙がボロボロと溢れた。
 潤兄は「海大が泣くことじゃないよ」と言い、背中をさすってくれた。
 自分自身が知りたくて確認した事実だったのに、悔しくて切なくてやるせなくなった。
 潤兄が一人で抱えていたのに、俺は何もしてあげられなかった。
 その後も茜ちゃんからの連絡はなく、時が過ぎた。
 いつの日か茜ちゃんに会える日を夢見て、俺は学校生活を堪能した。潤兄も少しずつ、以前の生活を取り戻し、笑顔を見せてくれるようになった。
 落ち着きを取り戻した潤兄はトップクラスの国立大学を再び目指すと宣言した。両親に負担をかけたくないと言って、国立大学しか受験しないことにした潤兄。
 停学処分になったこともあったが、先に手を出したのは潤兄ではなく、その他は品行方正、成績優秀だった為に緩和されたのかな?俺にはその辺の事はよく分からない。

 その直後から、自宅に嫌がらせの無言電話などが頻繁に来たり、注文していない出前が時々、届くようになった。両親は警察に相談したが、犯人は特定できなかった。
 嫌がらせは段々とエスカレートして、ポストに生ゴミを入れられたり、自宅の柵にペンキをかけられていたり、ついには父が駅前から歩いて帰宅中に金属バットのようなもので後頭部を殴られた。
 入院してしばらく働けなくなった父の代わりに母が昼夜とパートを掛け持ちしていた。俺も潤兄もバイトをして、家計の足しにした。
 その後、父は回復したが以前の様に営業の仕事は出来なくなっていて、近くの工場の事務パートで働く事になった。家のローンも残っていたが、大半が父の給料を当てにしていたので売りに出す事になる。家族全員で団地へと引越しが決まった。

 俺も高校の奨学金制度を利用して通っていた。ある日、母は嫌がらせと仕事の掛け持ちがストレスになり、書き置きを残していなくなった。
 ただ、一言、"ごめんなさい"とだけの書き置きがあっただけ……
 自宅を売却したお金は手付かずで残してあり、書き置きと通帳と印鑑が置かれていた。

 何処にいるのかも分からない。
 俺の心も次第にボロボロになっていった。
 唯一、裕貴だけが救いだった。裕貴と一緒にいる時は嫌な事は忘れられたんだ。
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