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【奏心/BLACK TURN】
*高校クライマックス
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茜ちゃんがいなくなって机はあるものの、教室の隅に移動された。
私は心に穴が空いたようで、授業中も上の空。
明日になれば、茜ちゃんが『おはよっ』って笑って来てくれると心の奥底で信じていて、残像が頭から離れなかった。
「ミヒロちゃん、茜ちゃんのこと知ってたの?」
一時間目の数学の授業が終わった後の短い休み時間の時だった。
椅子に座り上の空でボンヤリとしていた私の前で、琴音ちゃんは私の机を両手で叩きながら責め立てた。
「知ってるなら何で教えてくれなかったの? うちらグループでしょ?」
「そうだよ、ミヒロだけ知ってるなんておかしいよ!」
「だいたいさぁ、妊娠とかって有り得なくない? あの子、可愛いからって裏で何してるのか分からない子だったよねー!」
琴音ちゃんとその取り巻きの女の子たちが私を囲んで、それぞれに言いたいことを口に出してくる。
「違う、妊娠してない! 茜ちゃんは妊娠なんてしてないよ! 病気だったんだよ!」
琴音ちゃんの取り巻きの女の子たちも私を取り囲み責め立てたので、私は"病気"だったと主張した。
「しかもさぁ、ジュン君のことを騙して妊娠したとかって最低だよ! 皆、最初はジュン君狙いだったのに抜けがけしちゃって……茜って見た目とは裏腹に腹黒いし、姉妹揃ってビッチだよね!」
「そうだよねぇ、茜ってそーゆー子だったんじゃない? 付き合いがなくなって良かったわー」
この子達は何を言ってるの?
茜ちゃんは病気だって言ってるじゃない!
しかも姉妹揃ってって何?
私には茜ちゃんは、恋してキラキラしている女の子に見えていた。第一、妊娠なんて事実じゃないんだから言わないで!
茜ちゃんの悪口はこれ以上言わないで!
ガタッ………!
私は思い切り立ち上がり、「これ以上、茜ちゃんの悪口は言わないで! 茜ちゃんは本当に良い子なの! あんたたちとは違うんだからっ!」と言ってしまった……
怒りが収まらずに発してしまった言葉には重みがあり、周囲をざわつかせたのと同時に私を囲んでいる子たちへの反抗心だと捉えられた。
「ミヒロちゃん、今の言葉でよーく分かったわ。今までそーゆー風に思っていたんでしょ?もう、ミヒロちゃんなんて友達じゃないから。もう話しかけて来ないでね?」
琴音ちゃんが鬼の形相の様な顔をして私を睨みつけながら、言い放つ。
琴音ちゃんの取り巻き達も睨みつけながら、
「……デブが調子のんじゃねーよ!」とかブツブツと言いながら去って行く。
解放された私は自分が少し震えていたことに気付いた。
怖かった……
でも、茜ちゃんが大好きだから守りたかった。
今はもう、茜ちゃんはいないけれども……茜ちゃんをこれ以上、誹謗中傷してほしくないの。
人の噂話や悪口ばかりのあの子たちと居るくらいなら、一人でいる方がマシだと思い始めていた。
──がしかし、一人でいることがこんなにも孤独だなんて今は知ることが出来なかった。
二時間目の社会科の授業が始まり集中しようとしていたが、私の後ろ側の席からカサカサと紙切れの擦れる音がした。
先生が説明しながら黒板に記載している時やタブレットを通じてスクリーンに資料を映し出している時に限って、クスクスと声を押し殺しながら笑う様子や紙切れをクラスで回している様子が確認出来た。
紙切れは明らかに私を避けて回覧されていて、ヒソヒソ話をしているクラスメイトもいる。
「ちゃんと聞いてるのか? 手紙回して遊んでるんじゃないだろうな? 貸しなさい!」
先生もヒソヒソ話に気付いたらしく、怪しい素振りを見せた生徒に駆け寄り、教科書で軽く頭を叩き、小さな紙切れを取り上げた。
「何が書いてあるんだ?」
先生がクシャクシャに丸められた小さな紙切れを広げて、声に出して読みあげる。
「嫉妬してるデブスが……近藤……」
近藤………?
近藤とは茜ちゃんのことだと思う。そうするとデブスとは私の事か。先生が途中で読み上げるのを止めたが、内容は容易に想像出来る。
「誰が授業中に書いたんだ? 名乗り出なさい!」
先生が怒鳴り散らす。そんなことを言った所で誰も名乗り上げるわけもないが……
放課後、担任の後藤先生に職員室へと呼び出された。後藤先生は授業中に回された紙切れを広げて、困った顔をしている。
「紙を見せてもらえますか?」
「……良いけど、鵜呑みにするなよ」
後藤先生は新卒の先生で生徒達とも友達感覚で仲が良い。私は歳が近過ぎるし、何より琴音ちゃん達と仲が良いから、この先生はあまり好きではない。嫉妬とかではなく、同じ分類に見えてしまうのだ。
"嫉妬しているデブスが近藤の妊娠を否定している。モテない奴のひがみって怖っ!"と書いてあった。
「先生……、茜ちゃんは卵巣のう腫という病気です。それなのに何で……皆から非難されるんですか? 産婦人科に行っただけで妊娠って何なんですか?」
「広沢に言って良いか分からないけどな、近藤の姉は他校だったが高二の時に妊娠して学校を辞めてるんだ。それから、噂が膨らんでしまって、近藤にも悪影響が出てしまったんだ」
だから、さっき、姉妹揃ってビッチだとか言ってたんだな。そんなのってないよ。お姉ちゃんが妊娠したとしても、茜ちゃんは茜ちゃんだよ。
「先生も今の事態を重く見てるから、厳重注意する」
「……はい、分かりました」
次の日、朝のホームルームにて昨日の紙切れの件を後藤先生が注意したが、結果的に逆効果になってしまった。
その後、高校一年生のまとめの小テストがあった。休み時間も話す人がいなくなり、参考書を見たりして過ごしている内に、勉強が頭の中に入っていた為、学年一になったのだ。
順位がトップ三十まで廊下に張り出された。
紙切れの事を厳重注意された琴音ちゃんと取り巻きは面白くなく、今度はスマホで回覧をまわしていた。
私を見てはクスクスと笑うクラスメイト。
それだけではなく、外履きのスニーカーが捨てられていて中履きのシューズで帰った時もあった。そんな私に気付いた保健室の湯沢先生が車で送迎してくれたが、その様子を見ていた取り巻き達が琴音ちゃんに伝えた。
それからは目に見えるいじめはなくて、言葉による暴力だった。
本当には仲間になんて入れないくせに、クラスで班分けされると琴音ちゃんたちと必ず一緒にされる。先生が見えない所でネチネチと言葉の暴力が始まる。
『コイツがお似合いじゃねー?』
『松下とミヒロちゃん、お似合いじゃーん!文化祭委員に推薦します!』
三年生にならないと進路別にクラス分けしないので、二年間は琴音ちゃん達と一緒だった。同じくイジメ対象の眼鏡で目立たない松下君が私と一緒に文化祭委員に推薦された。これも嫌がらせに過ぎなかった。
私は精神的に耐えきれず、ホームルーム中に机で吐いてしまった。
『キャーッ! 汚っ!』
クラスメイトが騒ぎ立てる。後藤先生が片付けをしてくれて、保健室へと連れて行かれた。
「広沢……イジメに合ってるんじゃないのか?担任に言いにくいなら、私に言いなさい」
「ありがとうございます……」
私は泣きながら、湯沢先生に今までのことを話した。後藤先生も嫌がらせのことは知っているのだが、あのグループにはPTA会長をしている保護者がいて、その方に伝わるのが怖くて琴音ちゃんたちに注意できないのかもしれない。
以前、紙切れ問題の時に少しだけ注意をしたら、後藤先生は精神的に追い詰められるくらいに逆に問いただされたようだ。大人の事情も分からなくはないが、私自身はもうどうすることもできず、大人に頼るほかないのに……
湯沢先生は私を優しく抱き寄せてくれた。先生からはふんわりと良い香りが漂ってくる。
それからは担任の後藤先生と両親にも相談し、保健室登校になった。私は厳格な父を持つ、一人っ子で説得するのには時間がかかったが、学校に行かないよりはマシだろうと判断された。
高校一年の十二月、保健室登校中に勉強していた時のことだった。今日は湯沢先生が保健指導の時間があり、不在の時は別の先生が交代で見に来てくれていた。そして、どの先生も不在の時にガラッと扉が開き、私は髪の毛を引っ張っられ保健室のベッドに連れて行かれた。
『こっち来なよ!!』
『媚び売って、サイテー』
琴音ちゃんと取り巻きと知らない男子が二名居た。
「えー、近藤ちゃんの友達にしては可愛くないじゃん!」
「顔見なきゃへーきでしょ?」
男子が私のスカートをまくりあげ、両腕は琴音ちゃん達に押さえつけられた。声を出したいのに口も塞がれて出せない。
誰か、誰かー!!
足をバタバタさせたら、またも押さえつけられた。
怖い、怖いよ……
誰か、助けて……!!
『湯沢先生、いるー? 怪我したー』
あ、誰か来た。話し声が複数人みたいだった。
『ヤバいよ、行こっ! じゃあね、ミヒロちゃん。お大事にね!』
琴音ちゃんたちはバタバタと慌てて、保健室を出て行った。私は震えた指で、まくりあげられたスカートを直し、ボタンを外されたブラウスを直す。
はぁっ、はぁっ……
息が苦しく、空気が吸えない。私はバタリとベットから床下に崩れ落ちた。大きな音に気付いた誰かが先生を呼んできてくれて、呼吸が落ち着いた。
「広沢、ごめんな。今日は保健指導で行かなきゃ行けなかったから……」
私は過呼吸を起こしていた。一人で帰ることができずに母が迎えに来てくれた。
私は学校に行けなくなった。今日は頑張ろうと思い、駅まで行くのだが電車を待っている間に過呼吸をおこしたり、吐き気を催してしまい、そのまま帰宅する日々が続いて保健室登校さえも出来なくなった。
担任の後藤先生は男性だったし、琴音ちゃんの味方をしているようで、真実を話すのが怖くて拒否をした。家族以外の人では唯一、保健室の湯沢先生とは話をすることができた。
部屋からも出れなくなった私に手を差し伸べたのは、厳格な父だった。
引きこもり気味な私に今流行りの漫画を全巻買ってきてくれたのだった。漫画は小学生の時に取り上げられて以来、読んだ事がなく夢中で読んだ。
漫画って、やっぱり面白いんだ。
小学生の頃、漫画を取り上げられた原因は、夢中になり過ぎて勉強をおそろかにして中学受験に失敗したからだった。
初めてお小遣いで揃えた、その頃の流行りの漫画だった。漫画を見ながら模写をするのも好きだった。漫画を読んで絵を書いたりしていたから、「勉強の妨げになる」と言って取り上げられたのだ。
それなのに、現在は当時読んでいた漫画も全巻買ってきてくれたのだった。いつの間にか完結していた大好きな漫画は相変わらず面白かった。
冒険という壮大な世界。
以前の感情を思い出し、ノートに絵を殴り書きした。物語を箇条書きして、キャラクターを作ったりしていた。
「心優、母さんとも話し合ったんだが、父さんは厳しくし過ぎたようだ。自分の好きなことをしなさい」
しばらく日数が経過して、父が私の部屋の扉の前でそう呟いた。それからは漫画の道具を揃えて描いてみることにした。案外、素質があったらしく、漫画賞に応募したら二回目にして新人賞を頂けた。
私はそのまま、高校を辞めたのだった……
私は心に穴が空いたようで、授業中も上の空。
明日になれば、茜ちゃんが『おはよっ』って笑って来てくれると心の奥底で信じていて、残像が頭から離れなかった。
「ミヒロちゃん、茜ちゃんのこと知ってたの?」
一時間目の数学の授業が終わった後の短い休み時間の時だった。
椅子に座り上の空でボンヤリとしていた私の前で、琴音ちゃんは私の机を両手で叩きながら責め立てた。
「知ってるなら何で教えてくれなかったの? うちらグループでしょ?」
「そうだよ、ミヒロだけ知ってるなんておかしいよ!」
「だいたいさぁ、妊娠とかって有り得なくない? あの子、可愛いからって裏で何してるのか分からない子だったよねー!」
琴音ちゃんとその取り巻きの女の子たちが私を囲んで、それぞれに言いたいことを口に出してくる。
「違う、妊娠してない! 茜ちゃんは妊娠なんてしてないよ! 病気だったんだよ!」
琴音ちゃんの取り巻きの女の子たちも私を取り囲み責め立てたので、私は"病気"だったと主張した。
「しかもさぁ、ジュン君のことを騙して妊娠したとかって最低だよ! 皆、最初はジュン君狙いだったのに抜けがけしちゃって……茜って見た目とは裏腹に腹黒いし、姉妹揃ってビッチだよね!」
「そうだよねぇ、茜ってそーゆー子だったんじゃない? 付き合いがなくなって良かったわー」
この子達は何を言ってるの?
茜ちゃんは病気だって言ってるじゃない!
しかも姉妹揃ってって何?
私には茜ちゃんは、恋してキラキラしている女の子に見えていた。第一、妊娠なんて事実じゃないんだから言わないで!
茜ちゃんの悪口はこれ以上言わないで!
ガタッ………!
私は思い切り立ち上がり、「これ以上、茜ちゃんの悪口は言わないで! 茜ちゃんは本当に良い子なの! あんたたちとは違うんだからっ!」と言ってしまった……
怒りが収まらずに発してしまった言葉には重みがあり、周囲をざわつかせたのと同時に私を囲んでいる子たちへの反抗心だと捉えられた。
「ミヒロちゃん、今の言葉でよーく分かったわ。今までそーゆー風に思っていたんでしょ?もう、ミヒロちゃんなんて友達じゃないから。もう話しかけて来ないでね?」
琴音ちゃんが鬼の形相の様な顔をして私を睨みつけながら、言い放つ。
琴音ちゃんの取り巻き達も睨みつけながら、
「……デブが調子のんじゃねーよ!」とかブツブツと言いながら去って行く。
解放された私は自分が少し震えていたことに気付いた。
怖かった……
でも、茜ちゃんが大好きだから守りたかった。
今はもう、茜ちゃんはいないけれども……茜ちゃんをこれ以上、誹謗中傷してほしくないの。
人の噂話や悪口ばかりのあの子たちと居るくらいなら、一人でいる方がマシだと思い始めていた。
──がしかし、一人でいることがこんなにも孤独だなんて今は知ることが出来なかった。
二時間目の社会科の授業が始まり集中しようとしていたが、私の後ろ側の席からカサカサと紙切れの擦れる音がした。
先生が説明しながら黒板に記載している時やタブレットを通じてスクリーンに資料を映し出している時に限って、クスクスと声を押し殺しながら笑う様子や紙切れをクラスで回している様子が確認出来た。
紙切れは明らかに私を避けて回覧されていて、ヒソヒソ話をしているクラスメイトもいる。
「ちゃんと聞いてるのか? 手紙回して遊んでるんじゃないだろうな? 貸しなさい!」
先生もヒソヒソ話に気付いたらしく、怪しい素振りを見せた生徒に駆け寄り、教科書で軽く頭を叩き、小さな紙切れを取り上げた。
「何が書いてあるんだ?」
先生がクシャクシャに丸められた小さな紙切れを広げて、声に出して読みあげる。
「嫉妬してるデブスが……近藤……」
近藤………?
近藤とは茜ちゃんのことだと思う。そうするとデブスとは私の事か。先生が途中で読み上げるのを止めたが、内容は容易に想像出来る。
「誰が授業中に書いたんだ? 名乗り出なさい!」
先生が怒鳴り散らす。そんなことを言った所で誰も名乗り上げるわけもないが……
放課後、担任の後藤先生に職員室へと呼び出された。後藤先生は授業中に回された紙切れを広げて、困った顔をしている。
「紙を見せてもらえますか?」
「……良いけど、鵜呑みにするなよ」
後藤先生は新卒の先生で生徒達とも友達感覚で仲が良い。私は歳が近過ぎるし、何より琴音ちゃん達と仲が良いから、この先生はあまり好きではない。嫉妬とかではなく、同じ分類に見えてしまうのだ。
"嫉妬しているデブスが近藤の妊娠を否定している。モテない奴のひがみって怖っ!"と書いてあった。
「先生……、茜ちゃんは卵巣のう腫という病気です。それなのに何で……皆から非難されるんですか? 産婦人科に行っただけで妊娠って何なんですか?」
「広沢に言って良いか分からないけどな、近藤の姉は他校だったが高二の時に妊娠して学校を辞めてるんだ。それから、噂が膨らんでしまって、近藤にも悪影響が出てしまったんだ」
だから、さっき、姉妹揃ってビッチだとか言ってたんだな。そんなのってないよ。お姉ちゃんが妊娠したとしても、茜ちゃんは茜ちゃんだよ。
「先生も今の事態を重く見てるから、厳重注意する」
「……はい、分かりました」
次の日、朝のホームルームにて昨日の紙切れの件を後藤先生が注意したが、結果的に逆効果になってしまった。
その後、高校一年生のまとめの小テストがあった。休み時間も話す人がいなくなり、参考書を見たりして過ごしている内に、勉強が頭の中に入っていた為、学年一になったのだ。
順位がトップ三十まで廊下に張り出された。
紙切れの事を厳重注意された琴音ちゃんと取り巻きは面白くなく、今度はスマホで回覧をまわしていた。
私を見てはクスクスと笑うクラスメイト。
それだけではなく、外履きのスニーカーが捨てられていて中履きのシューズで帰った時もあった。そんな私に気付いた保健室の湯沢先生が車で送迎してくれたが、その様子を見ていた取り巻き達が琴音ちゃんに伝えた。
それからは目に見えるいじめはなくて、言葉による暴力だった。
本当には仲間になんて入れないくせに、クラスで班分けされると琴音ちゃんたちと必ず一緒にされる。先生が見えない所でネチネチと言葉の暴力が始まる。
『コイツがお似合いじゃねー?』
『松下とミヒロちゃん、お似合いじゃーん!文化祭委員に推薦します!』
三年生にならないと進路別にクラス分けしないので、二年間は琴音ちゃん達と一緒だった。同じくイジメ対象の眼鏡で目立たない松下君が私と一緒に文化祭委員に推薦された。これも嫌がらせに過ぎなかった。
私は精神的に耐えきれず、ホームルーム中に机で吐いてしまった。
『キャーッ! 汚っ!』
クラスメイトが騒ぎ立てる。後藤先生が片付けをしてくれて、保健室へと連れて行かれた。
「広沢……イジメに合ってるんじゃないのか?担任に言いにくいなら、私に言いなさい」
「ありがとうございます……」
私は泣きながら、湯沢先生に今までのことを話した。後藤先生も嫌がらせのことは知っているのだが、あのグループにはPTA会長をしている保護者がいて、その方に伝わるのが怖くて琴音ちゃんたちに注意できないのかもしれない。
以前、紙切れ問題の時に少しだけ注意をしたら、後藤先生は精神的に追い詰められるくらいに逆に問いただされたようだ。大人の事情も分からなくはないが、私自身はもうどうすることもできず、大人に頼るほかないのに……
湯沢先生は私を優しく抱き寄せてくれた。先生からはふんわりと良い香りが漂ってくる。
それからは担任の後藤先生と両親にも相談し、保健室登校になった。私は厳格な父を持つ、一人っ子で説得するのには時間がかかったが、学校に行かないよりはマシだろうと判断された。
高校一年の十二月、保健室登校中に勉強していた時のことだった。今日は湯沢先生が保健指導の時間があり、不在の時は別の先生が交代で見に来てくれていた。そして、どの先生も不在の時にガラッと扉が開き、私は髪の毛を引っ張っられ保健室のベッドに連れて行かれた。
『こっち来なよ!!』
『媚び売って、サイテー』
琴音ちゃんと取り巻きと知らない男子が二名居た。
「えー、近藤ちゃんの友達にしては可愛くないじゃん!」
「顔見なきゃへーきでしょ?」
男子が私のスカートをまくりあげ、両腕は琴音ちゃん達に押さえつけられた。声を出したいのに口も塞がれて出せない。
誰か、誰かー!!
足をバタバタさせたら、またも押さえつけられた。
怖い、怖いよ……
誰か、助けて……!!
『湯沢先生、いるー? 怪我したー』
あ、誰か来た。話し声が複数人みたいだった。
『ヤバいよ、行こっ! じゃあね、ミヒロちゃん。お大事にね!』
琴音ちゃんたちはバタバタと慌てて、保健室を出て行った。私は震えた指で、まくりあげられたスカートを直し、ボタンを外されたブラウスを直す。
はぁっ、はぁっ……
息が苦しく、空気が吸えない。私はバタリとベットから床下に崩れ落ちた。大きな音に気付いた誰かが先生を呼んできてくれて、呼吸が落ち着いた。
「広沢、ごめんな。今日は保健指導で行かなきゃ行けなかったから……」
私は過呼吸を起こしていた。一人で帰ることができずに母が迎えに来てくれた。
私は学校に行けなくなった。今日は頑張ろうと思い、駅まで行くのだが電車を待っている間に過呼吸をおこしたり、吐き気を催してしまい、そのまま帰宅する日々が続いて保健室登校さえも出来なくなった。
担任の後藤先生は男性だったし、琴音ちゃんの味方をしているようで、真実を話すのが怖くて拒否をした。家族以外の人では唯一、保健室の湯沢先生とは話をすることができた。
部屋からも出れなくなった私に手を差し伸べたのは、厳格な父だった。
引きこもり気味な私に今流行りの漫画を全巻買ってきてくれたのだった。漫画は小学生の時に取り上げられて以来、読んだ事がなく夢中で読んだ。
漫画って、やっぱり面白いんだ。
小学生の頃、漫画を取り上げられた原因は、夢中になり過ぎて勉強をおそろかにして中学受験に失敗したからだった。
初めてお小遣いで揃えた、その頃の流行りの漫画だった。漫画を見ながら模写をするのも好きだった。漫画を読んで絵を書いたりしていたから、「勉強の妨げになる」と言って取り上げられたのだ。
それなのに、現在は当時読んでいた漫画も全巻買ってきてくれたのだった。いつの間にか完結していた大好きな漫画は相変わらず面白かった。
冒険という壮大な世界。
以前の感情を思い出し、ノートに絵を殴り書きした。物語を箇条書きして、キャラクターを作ったりしていた。
「心優、母さんとも話し合ったんだが、父さんは厳しくし過ぎたようだ。自分の好きなことをしなさい」
しばらく日数が経過して、父が私の部屋の扉の前でそう呟いた。それからは漫画の道具を揃えて描いてみることにした。案外、素質があったらしく、漫画賞に応募したら二回目にして新人賞を頂けた。
私はそのまま、高校を辞めたのだった……
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