君と煌めく青春を取り戻す

倉辻 志緒

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【煌めきLEVEL/01】

*誕生日のネックレス

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 自分の沸き上がってきた感情を押し殺して、店内を巡る。
 始まりかけた淡い恋は、まるで小学生の初恋のように何もすることが出来ないままに終わるだろう。
 今、この瞬間だけでもヒロ君といられたならば……私の心に残る一日となる。
 だから、まだ側にいさせてね?

「彼氏も彼女も可愛いペアだね」
「高校生かな?」

 ヒロ君の後ろをついて行くと店内にいた二十代後半くらいのカップルが、こちらを見ながらヒソヒソ話をしている。彼の耳には言葉が届いていないかもしれないけれど、私は一語一句拾ってしまった。
 ヒロ君の年齢は分からないが、きっと私と変わらないくらいか少しだけ上の大学生くらいだろうなと思う。
 可愛いペアだなんて言われると、私の心の中がザワザワする。
 ヒロ君のことは何も知らないけれど、私にとっては特別に人になりそうだ。

「わぁ、コレ……綺麗」
 店内を見渡していると目についたのは、誕生石のネックレス。 
 キラキラと輝く、透き通る桃色のピンクトルマリンは私の誕生石だ。 
 私は綺麗で可愛いと思うけれど、ヒロ君の彼女はどういうのを好むのかなぁ?

「ピンクトルマリン……十月……」
 ヒロ君は呟きながら、ガラスケースの中のジュエリーを見つめる。 
「そちら、新作の誕生石シリーズなんですよ。お出ししましょうか?」
 私達の様子を伺い、店員さんがすかさず駆け寄る。
 満面の笑みを浮かべる店員さんに断りを入れられず、ケースから出して貰うことにした。 
 女の子の憧れである、“お姫様”のティアラにちりばめられた誕生石。
 本当に可愛いすぎる!! 
 価格もそれほど背伸びしなくても購入できるくらいだ。
「つけてみましょうか?」
 店員さんが有無を言わせずに次の行動に出て、私の首にネックレスを通す。 
 鏡で確認すると……女の子っぽくて可愛い!! 
 お店の中の照明の明かりが、ネックレスに反射してキラキラ光る。
 欲しいな、コレ。 

「コレ、下さいっ!!」
 鏡で見れば見るほどに可愛くて、つい声を張り上げていた。 
 お金、持ってきた現金で何とか足りそうだし……買っちゃおうっと。
 店員さんにネックレスを外してもらい、持ち帰りの準備を頼んだ。 
 そういえば……私のネックレスを買いに来たわけじゃなかった。 

「ご、ごめんなさい!! つい、自分の……」
 ふと我に返り、ヒロ君に慌てて謝る。 
「いや、大丈夫だよ。……カナミちゃんが元気を取り戻したから、良かった」
 ヒロ君はクスクスと笑ってるけれど、そんな言葉は反則だよ。 
 胸が高鳴り、キュンって締め付けられる。
 恋をしちゃいけないのに、恋に発展しちゃうのかな。 
 ただ仲良くなりたい……、そんなのは嘘だ。 
 恋をしたいのに、お別れが怖くて逃げてる、ただの言いわけだった。 
 繋ぎ止める“何か”があれば良いのにな。

 その後、ヒロ君は何故かプレゼントを買わなかった。 
『買わなくて、良いのですか?』と聞いたら、ニッコリ笑って頷いただけ。
 私達は店員さんから品物を受け取り、ジュエリーショップを後にした。

「……つけて帰ったら?」
 上質な小さい紙袋に入っているネックレスを指差してヒロ君は言った。 
「あ、いえ、今日は……」
「そう? 似合うのに……」
 ヒロ君、その言葉と笑顔は反則だよ。 
 初めて会ったのに、胸が締め付けられて痛いよ。 
 一緒に歩いているけれど、もう帰り道なんだよね?
 柔らかだった春風が、夕方になった今は冷たく感じられた。 
「肌寒くなって来たね」
「……はい」
 会話が途切れてしまい、もうお別れの時間だと気づかされる。
 泣きたくないのに涙が込み上げてきて、今にも零れてしまいそう。

 ほら、笑え。 
 泣くな、泣くな。 

 上を向いて、にこっとするだけで良いんだから。 

 ポロリ。
 頬を伝う、僅かな冷たい液体は……涙。 
 一緒にエビグラタンを食べて、ヒロ君が私に気遣いながら話してくれて、 開き出した私の心。 
 恋心になる前に消さなければいけない気持ち。 
 そして何よりもヒロ君とは今日限りで会えない寂しさ。 
 全てが重なり流れ出した涙。 

「……カ、ナミちゃん?」
 ヒロ君が慌てふためく。 
 目を丸くして、目が泳ぎ始めて空を見上げて、長く息を吐いた。 
「誰だって、嫌だよな。知らない人の好きな人へのプレゼント選びなんて……ごめん、本当にごめんなさい!!」
 ヒロ君が深々と頭を下げて私に謝る。

 違う、違うの。 
 そうじゃないのに言葉が出ない。
 ヒロ君は、私が唯一、初対面で打ち解けられた人だから、寂しいの。 
 もっと知りたかったの。 
 知りたかっただけなのに。いつも私から人が離れて行くね。 
 そういう役回りなんだろうな、私は……。 
 繋ぎ止める言葉も出ずに勇気もない。
 ただ泣いて、ひたすら困らすだけの子供と同じ。 
「ご、めん……本当にごめん!!」
「……え?」
 どうしたら良いのか分からずに立ち尽くしてしまった私を覆い隠すように、ヒロくんの腕が私を包む。
 男の子にしては、華奢に見えるヒロ君の胸に頭をフワリと押さえられて、私は身動きが出来なかった。 
「泣くほど……嫌だったんだよな。自分勝手な行動を無理強いして悪かった……」
 ヒロ君は頭を優しく撫でてくれて、落ち着くまで抱き締めてくれていた。 
 何だか心地好くてジュエリーショップの前で公衆の面前だと言うことも、関係性も、彼女の事も忘れてしまう位だった。 
 胸の鼓動が跳ね上がり、うるさい程にヒロ君に響いていただろう。 
 ヒロ君に触れられるのは全然嫌じゃなかった。抱き締められると安心する、初めて知った温もり。
 このまま、時が止まれば良かったのに現実は甘くない。 

「……帰ろうか?」

 胸に頭を埋めていて、閉じていた目を開ける。 
 ヒロ君の一言で、今の瞬間は夢だったかのように現実に引き戻された。
 ボンヤリと周りを見渡せば、横目で見る人達や足早に通り過ぎて行く人達。 
 決して私達だけの世界ではなかったこと、夢ではなかったのだと思い知らされる。 

「ごめん、無意識に抱きしめてた」
 ヒロ君の身体が私から離れて、温もりは次第になくなっていった。

 “さよなら”だね、ヒロ君。 
 神様、最後に私に勇気をください。
 少しだけで良いから。

 確実に“さよなら”が近づいてるのに、自分からは何も話せなくてもどかしくて仕方ない。
 何で、こんなに引っ込み思案の意気地なしの性格なんだろう?
 自問自答ばかりが頭に浮かんで、ヒロ君との会話が何も浮かばない。 本当に駄目だな、私は。 
「じゃあ、今日は有難う……」
 もう泣きたくないよ。 
 強くなりたい。 
 今度、もしも会えたなら、“運命”だと思う事にするよ。 
 そしたら、まずは友達にならせて。 
 友達の次は恋しても良いですか?
「あ、ちょっと待って……ヒロ君、バイト探してたでしょ? ココに電話してみて。結構、高い時給だから……あ、怪しいバイトじゃないから……」
 私はバッグから手帳を取り出して、そそくさとメモを書いてから破き、ヒロ君に渡した。
「サンキュー。今日は本当に有難う。迷惑かけてごめんな」
 帰り際もヒロ君が申し訳なさそうに謝るから、私は首を横に振った。 
 もう謝らないでよ。 
 私はデートみたいで楽しめたよ。 
 いつかまた会えますように……祈ってるよ。 
 バイバイ、“好きになりかけた人”──

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