君と煌めく青春を取り戻す

倉辻 志緒

文字の大きさ
上 下
4 / 25
【煌めきLEVEL/02】

*私のお仕事

しおりを挟む
 例えば、俺様彼氏に天然ちゃんとか、イケメン御曹司にモデルとか……考えれば考える程にネタと成りうる関係は存在する。 
 そして、それがどんな風に動いて、どんな風な関係になっていくかで面白みが生まれる。 
 ついに私の元にも、面白みという現実がやってきたのだ。

「えーっ、ヤダッ!! ヤダヤダヤダッ!!」
「ヤダって言ってもねぇ、日に日に人気は増えてて仕事量も多くなってるし、アシスタント使おうよ? ね?」
「うぅ……」
 ヒロ君との別れを惜しむ間もなく、漫画家は仕上げなければいけない仕事はやってくる。 
 一日丸々の休みは昨日が久しぶりで、締め切りが遅れそうになれば担当さんが催促に来る。 
 私はデビューして一年しか経過していないが、両親の知り合いの不動産からマンションの一角を借りている。
 十七歳という年齢だが、両親が週に最低でも一回は様子を見に来るというのが条件で、セキュリティの高いマンションにて仕事場も兼ねて一人暮らしをさせてもらっている。
 初めての連載が大人気となり、コミックスは現在七巻まで発売になった。 アニメ化の話も進んでいる。マンションの契約者は父親だが、支払いは自分でしている。
 ヒロ君に教えた“奏心―カナミ―”とはセカンドネーム、すなわちペンネームだ。

「カナちゃんもさ、いくら俺と担当見習いの福島が手伝ったって、大変になってきてるでしょ? だからさぁ……」
 この人は私の担当さんの対馬 望さんといって、デビュー当時からお世話になっている。 
 担当見習いの福島さんとはゲームや漫画が大好きな女性で、元々は漫画家志望だったらしい。 私の唯一、信頼出来る方々だ。

「確かに二週間に一度、原稿あげるのは辛いんですけど、今の生き甲斐だから。体調崩さない限りは大丈夫ですよぉ!!」
「だからぁ、それが心配なんだって!!」
 対馬さんは私のことを見ながら、不安げに言葉を投げてくる。
「えっとぉ、第二部からは新キャラ出したいなって思っていて、こんなキャラなんですが?」
「おっ、いいじゃん!! って、そうじゃなくて真面目に聞いて!!」
「はぁ~い」
 私は上手くごまかせたと思ったのだが、対馬さんには通用しないようだ。
 対馬さんは二十六歳な大人の男性で、お兄ちゃん的存在でもある。 話しやすくて、気さくで人として好き。
 会った当初は緊張していたけれど、色々と話していく内に信頼して、“本当の私”を全て知っている人だ。

「それでね、編集部の俺宛に電話がきたんだ」
「もう募集したんですかぁ?」
「募集はまだしてないよ。カナちゃーん、隠しても無駄だからね。自分で募集してたくせに!!」

 ん? 自分で募集?
 アシスタントなんて募集してないよ?
 ま、まさか……まさか、まさか!! 

「何とかヒロ君だったかな? 男の子だったよ。カナちゃんから紹介されたって……」

 う、う、うわぁ!! 
 ヒロ君、電話をくれたんだね。 

「カナちゃん、顔赤いけど? ヒロ君って何者?」

 あ、あ、あ、どうしよう!! 
 ヒロ君との繋がりが出来ちゃった!! 
 行き先を考えるとドキドキし過ぎて、心臓が破裂しそう。
 確信犯でありながらも、こんなにもドキドキしてる私は確実に恋をしてしまったんだと実感する。 
 ヒロ君にまた会える、そう思うだけで仕事がはかどる気がするよ。 

「カナちゃん、人の話を聞いてないでしょ?とりあえずまぁ、ヒロ君とやらに背景を二枚お願いしたからっ。明日、早速、面接に来るよ」
 背景二枚?
 対馬さん、そんな事を言っちゃったの?
 マズイよ、それは……。 
「対馬さぁん、ヒロ君には昨日、街でバッタリ会ってバイト探してたから、家政婦さんやってもらおうと思ったんです。何かね、良さげな人だったから……」
 私は対馬さんにならハッキリと物事を言えるから、伝えたい事をキチンと伝える事ができた。
 対馬さんは驚いた顔をして、消しゴムかけをしていた原稿の上に消しゴムをポロッと落とす。 

「お、俺の知らないカナちゃんがいる……!」

 一生懸命してくれていた消しゴムかけの作業も手が止まる程、驚くのも分かる。 
 今まで一定の人としか付き合いをしていない私が見ず知らずのヒロ君とやらに電話番号を教えて、家政婦として招き入れようと言うのだから――

「昨日は対馬さんに会わなかったから、追々話そうとは思ってたんだけどね……あの、その、……事後報告でごめんなさい」

 対馬さんは開いた口が塞がらないみたいな感じにポカンと口を開けたままだった。 
 それも、仕方ないかなぁ。 
 もう長年の付き合いだし、色々と見抜かれてるし……ね。 

「成長したね、カナちゃん……」
「対馬さん……?」
 対馬さんは私の頭を優しく撫でた。 
 撫でている手があまりにも温かくて優しかったから、お兄ちゃんがいたらこんな感じかな? と想像してしまう。 
 私は頼れる兄弟も姉妹もいない一人っ子で両親しか見方がいない子供だった。いや、両親しか見方がなくなってしまった子供だったからが正しいか。
 今こうして、対馬さんのお兄ちゃんのような温もりに包まれるのが好き。 

「……で、ヒロ君とやらに明日会った時に俺はどうしたら良いの??」
「あ、そっかぁ……明日なんだよね」
 ヒロ君が面接に来るのは明日。
 あれ? ちょっと待って……。 
 漫画家ってどうなの?
 しかも、少年漫画ってどうなの?
 少女漫画ならともかく……バリバリ戦いモードの少年漫画ってどうなのよー!?
 し、知られたくない現実かも。

「カナちゃん? 顔固まってるけど大丈夫なのー?」
「つ、対馬さぁんっ!! どうしよう……少年漫画を書いてるだなんて恥ずかしいっ……!」
 私は両手で頭を押さえながら、対馬さんに心の内をぶつけた。 
 対馬さんはパニック状態の私を見て、クスクスと笑っていた。 
 私だって、夢見る乙女になる時もあるもん!! 
 戦いシーンばかりを頭の中でイメージしている訳ではなくて女の子らしい“乙女ちっく”な想像もしたいんだもの。 
 ヒロ君にはバイトをして稼いだお金でプレゼントをあげたいくらいに大好きな彼女がいるから、叶わない恋だって分かっているつもり。 だからこそ、頭の中でだけは恋をしていたいの。
 ご主人様と家政婦さん、そんな関係でも一緒に居られるだけで幸せだ。
 恋をしたいけれど、多くは望まない。傷付くのが怖いから――

「カナちゃんさぁ……恋をしてるみたいだね。だからヒロ君に接触出来たんだね」
 フッと笑う仕草をしたかと思うと、悩んでる私の頭を再度、撫でてきた対馬さん。 
 優しかった手は次第に髪の毛をグリグリと掻き回し、私が『やめて』と声を出そうとした時に背中に衝撃が走る。 

「……いたぁっ!!」
 対馬さんに背中を平手で叩かれたのだ。 
 ジンジンと痛みが集中して、手のひらの紅葉が出来ているかと思うほど。
「カナちゃんが嫌ならさ、漫画家だって事は隠せばいーじゃない?ね?」
「……う、うん」
 背中に衝撃を与えるように叩いたくせに、ヘラヘラと笑っている対馬さんに少し苛立ちを感じた。 
 ……対馬さんの馬鹿っ!!
「カナちゃんが嫌ならさ、良いとこのお嬢様の一人暮らしって事にしといたら? ご飯作りや買い物だけなら、バレないでしょ?掃除は部屋に入るから危ないけど。明日、面接に来たらさ、適当に誤魔化しておくからね」
「対馬さん!」
 その手があったか。けれども、良いとこのお嬢様とはどうして?
「さてと、原稿、原稿!! ちゃちゃっとやっちゃいましょうねー、カナちゃん」
「……はぁい」
 ヘラヘラ笑っていた対馬さんは、長々と話した後に柔らかに笑った。その後に消しゴムを持って、下書き消しを再開した。
 対馬さんは私自身のことを親身になって聞いてくれて、いつも助け船を出してくれる。
 それに原稿と向き合い、下を向いている対馬さんの顔は睫毛が長く目立ち、女の子顔負けの綺麗さ。 
 本当のお兄ちゃんだったら、皆に自慢しちゃいたい。心からそう思うよ。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

シン・おてんばプロレスの女神たち ~衝撃のO1クライマックス開幕~

ちひろ
青春
 おてんばプロレスにゆかりのOGらが大集結。謎の覆面レスラーも加わって、宇宙で一番強い女を決めるべく、天下分け目の一戦が始まった。青春派プロレスノベル『おてんばプロレスの女神たち』の決定版。

おれは農家の跡取りだ! 〜一度は捨てた夢だけど、新しい仲間とつかんでみせる〜

藍条森也
青春
藤岡耕一はしがない稲作農家の息子。代々伝えられてきた田んぼを継ぐつもりの耕一だったが、日本農業全体の衰退を理由に親に反対される。農業を継ぐことを諦めた耕一は『勝ち組人生』を送るべく、県下きっての進学校、若竹学園に入学。しかし、そこで校内ナンバー1珍獣の異名をもつSEED部部長・森崎陽芽と出会ったことで人生は一変する。  森崎陽芽は『世界中の貧しい人々に冨と希望を与える』ため、SEEDシステム――食料・エネルギー・イベント同時作を考案していた。農地に太陽電池を設置することで食料とエネルギーを同時に生産し、収入を増加させる。太陽電池のコストの高さを解消するために定期的にイベントを開催、入場料で設置代を賄うことで安価に提供できるようにするというシステムだった。その実証試験のために稲作農家である耕一の協力を求めたのだ。  必要な設備を購入するだけの資金がないことを理由に最初は断った耕一だが、SEEDシステムの発案者である雪森弥生の説得を受け、親に相談。親の答えはまさかの『やってみろ』。  その言葉に実家の危機――このまま何もせずにいれば破産するしかない――を知った耕一は起死回生のゴールを決めるべく、SEEDシステムの実証に邁進することになる。目指すはSEEDシステムを活用した夏祭り。実際に稼いでみせることでSEEDシステムの有用性を実証するのだ!  真性オタク男の金子雄二をイベント担当として新部員に迎えたところ、『男は邪魔だ!』との理由で耕一はメイドさんとして接客係を担当する羽目に。実家の危機を救うべく決死の覚悟で挑む耕一だが、そうたやすく男の娘になれるはずもなく悪戦苦闘。劇団の娘鈴沢鈴果を講師役として迎えることでどうにか様になっていく。  人手不足から夏祭りの準備は難航し、開催も危ぶまれる。そのとき、耕一たちの必死の姿に心を動かされた地元の仲間や同級生たちが駆けつける。みんなの協力の下、夏祭りは無事、開催される。祭りは大盛況のうちに終り、耕一は晴れて田んぼの跡継ぎとして認められる。  ――SEEDシステムがおれの人生を救ってくれた。  そのことを実感する耕一。だったら、  ――おれと同じように希望を失っている世界中の人たちだって救えるはずだ!  その思いを胸に耕一は『世界を救う』夢を見るのだった。  ※『ノベリズム』から移転(旧題·SEED部が世界を救う!(by 森崎陽芽) 馬鹿なことをと思っていたけどやれる気になってきた(by 藤岡耕一))。   毎日更新。7月中に完結。

アンサーノベル〜移りゆく空を君と、眺めてた〜

百度ここ愛
青春
青春小説×ボカロPカップで【命のメッセージ賞】をいただきました!ありがとうございます。 ◆あらすじ◆ 愛されていないと思いながらも、愛されたくて無理をする少女「ミア」 頑張りきれなくなったとき、死の直前に出会ったのは不思議な男の子「渉」だった。 「来世に期待して死ぬの」 「今世にだって愛はあるよ」 「ないから、来世は愛されたいなぁ……」 「来世なんて、存在してないよ」

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

不良in文芸部

湯殿たもと
青春
不良が文芸部に入って新しく生まれ変わろうとします。 「ロボットの時代」の続編です。注意。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...