白薔薇の聖女

紫暮りら

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21 晩餐会兼自己紹介

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 いくら月に照らされていたとはいえ暗闇に慣れた目には眩しい光に目を細める。
 ようやくそれに慣れると、ゆっくり辺りを見渡した。

 見渡す限りの白。床も、壁も。
 来ている服さえも皆白ベースなのだからとにかく白としかいいようがない。
 幸い天井は高く、夜というのもあって色までは判別がつかなかった。

 部屋に沿って中央に置かれた長テーブル。沢山の見たこともない食べ物が並べられている。既に数人が座っており、色々な表情を浮かべながらこちらを見ていた。
 そこの、いわゆる誕生日席にニーネに案内されるがまま座る。
 私を座らせると先に座ったレイとルゥ同様、ニーネまで自席に座ってしまい一気に孤独感に襲われた。
(どうしよう。)
 口を噤んだまま時は流れる。

「…これが今回の聖女?」
 最初に口を開いたのは長い銀髪をさらりと垂らした美人の少女。
「は~いはい、ナナ、そんなに睨まないでくださ~い。聖女様、よくぞいらっしゃいました~ありがとうございます。」
 ぺこりと頭を下げたのは眼鏡の似合う小柄な少女。
「それにしても~私はすこし怒っているのですよ~わかってますよね、皆さん。」

「…な~んで4人足らないんでしょうか~?」
 眼鏡をクイッと持ち上げながら辺りを見渡す姿はかわいらしく、醸し出される緊張を緩和していた。

「来ねぇよ。」
「…はい?」
「あいつらは来ない。」
 そう気だるそうに言ったのはあの近侍だった。そちらを向くと目が合ってしまい、盛大に舌打ちをされる。
 トゥーシェは困惑したように動きを止めたが、直ぐに気を取り直し「でも全員参加ですよぉ~?」と笑う。
「…だからなんだ。」
 元々静かだった箱の中はさらに静まり返る。
「もううんざりだろ、お前も。」

 唖然とするトゥーシェを他所に「帰る」と言い放ち出口へ向かったグレーを、私に一番近い右の席に座っていた青年が引き止める。
「待て、フォルト。」
「……なんだよ。」
「座れ。」
「…お前、兄だからって調子に乗るなよ。俺は帰る。」
「いいから座れ!」
 突然の怒鳴り声に空気が固まる。
 そんなふうに怒鳴られても彼は帰るだろうと思ったが、驚いたことに予想は外れ、ぶすっとした顔で席に着いた。
 それにしても…
 あのグレーの名前はフォルトというのか。
 また、教えて貰ってしまった。
 場違いな悲しみと申し訳なさが渦巻く。

「…ありがとうございます、ワーゲスト。」
「ん。」
 どうやら右目を隠した青年はワーゲストというらしかった。

「それでは!人数が少し足りませんが晩餐会をはじめましょう~…とその前に、自己紹介をさせていただきます、聖女様。」
 立ち上がって私の横にたち、またぺこりと頭を下げる。

「はじめまして、私は戦闘番号2番 トゥーシェ。主に秘書としての役割を担っています。」
「では、ほかの皆さんも私が順に紹介しますね。」
 慣れているのか、他の誰も声を上げずに紹介が始まる。
「聖女様の向かって右側、一番手前に座っているのは戦闘番号1番 ワーゲスト。ここで一番最初に生まれた聖騎士です。」
「私を飛ばして、戦闘番号3番……は不在ですね~では次~」
「戦闘番号4番 フォルト。貴方様の近侍に当たります。何かありましたら彼になんでも言いつけてください~」
 おい!というフォルトを放置し、トゥーシェは紹介を進める。
「…えーと、現在いる戦闘勢力はこれだけですね。では向かって左側、守護勢力の紹介に移ります~」

「守護番号7番 ナナ。銀髪が綺麗な美人さんです~」
 ナナは、ここに来て最初に口を開いた少女だった。眉をひそめ、じとっと私を見てくるが何も言わない。

「守護番号8番……は居ないのですか、珍しいですね~」
 不思議そうに言っていることから、本当に珍しいのだろう。
「守護番号9番 ニーネ。もうご存知かもしれませんが、彼女は主にメイドとして活動してもらっています~」
 ニーネが丁寧にお辞儀をし笑顔を見せてくれる。それだけでとても安心した。
「彼女とは上手くやれているようで何よりです~」
 トゥーシェが意味ありげにフォルトを見ると彼が鼻を鳴らす音が聞こえた。

「守護番号10番 ダレン。」
 紺と言ってもいいくらいの深い蒼の髪に同じ色の瞳。
「基本無口の大人しい子です~」

「守護番号11、12番のレインとルゥエ。双子です。彼らには主に庭園の手入れを担当してもらっています~」
 レイとルゥが笑う。ルゥに至っては手まで振っているのだからトゥーシェはここまで打ち解けたのかと驚いたようだった。

 一通りの紹介が終わり、「さて。」と手を合わせるトゥーシェ。
「聖女様もお疲れのことでしょうし、いただきますかぁ~」
 そう言って席につき、各々スプーンやらフォークやらを持ち食べ始めようとするのを慌てて静止した。まだ私は何も言えていない。

「ま、待ってください!」
「…なんですか~?」
 スプーンを口元まで持ち上げた所を止められ、若干煩わしそうなトゥーシェの姿に余計申し訳なさは増し、急いで椅子の横に立ち上がる。

「わっ、私も自己紹介しとかなきゃと思って……あの、ロゼと言います。聖女様と呼ばれるのは、その、慣れないのでロゼでいいです。これからよろしくお願いします。」
 そう言って深く頭を下げる。こうすることが今までの無礼をお詫びする一番の方法だと思っての行為だった。

「…わかりました。では私はロゼ様とお呼びすることにしますね~」
 そう言うとスープを啜りはじめた。
 ほかの面々も興味無さそうに食べ始める。

 私の誠意は無意味だったのか…そう思ったが仕方ない。
 食卓を見ていると、そういえば朝からりんごしか食べてなかったことを思い出し、鼻をくすぐるいい香りが脳を刺激しお腹がなる前に食べようとフォークを握った。
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