庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
52 / 67
第7章 開けてはいけない扉

第52話

しおりを挟む
 召喚をしてみたい! そう言い出したのは、アージェが八歳の時だった。
 それなりに魔術も剣術も出来るアージェは、召喚にも興味津々だった。
 お願いした相手はオルソ。アージェは、おじいちゃんっ子だったのだ。だから将来は、オルソと同じ召喚師の道を選ぶ事を既にこの時に決めていた。

 この話をオルソは、当時の団長に話し、ガッドに話を通してもらったのだ。
 ほとんどの者が魔術師を選び、召喚師を選ぶ者がいなかった。魔術を使えるのに使えなくなるからだ。しかも騎士になれば、王都から自由に出られなくなる。
 だいたいの者は、親に自由がなくなると言われ、魔術師を選んでいた。
 フランクを最後にずっと召喚師になった者はいない。

 召喚の許可がおりたアージェは、ガッド、騎士団長、オルソ、それにダミアンから聞いてフランクも見守る中、期待を胸に召喚する。

 「いでよ! 召喚の扉! 我が名はベランジェ! ここに契約を願う!」

 手を掲げ、教えて貰った台詞をアージェは叫ぶ。
 魔法陣から扉が出現し、その扉が光り輝き真ん中からかぱっと開くと、エメラルドグリーンの光が二つ見える。
 扉から長い黒髪に黒いローブの男が出現した! スクランだ。

 アージェ以外は、体を強張らせる。本当に召喚など出来ると思っていなかったからだ。だから何も対処方法を考えてはいない!

 「見て! おじいちゃん! 出来たよう!」

 アージェだけが、嬉しくて舞い上がっている。
 スクランは、フッと立ち尽くす四人に振り返った。
 全員、剣に手を掛けた。

 「物騒だな。それで斬りかかってくるつもりか? 大丈夫だ。魔獣は、マスターの味方だ。しかし驚いたな。こんな小さな子供に呼び出されたのは初めてだ。芯の強い子だな」

 そう言うと、片膝を地面につけスクランは屈んだ。

 「ベランジェと言ったか。私に何を望む」
 「ベランジェ! こっちへこい!」

 オルソが慌てて呼ぶも嫌だと、アージェは首を横に振る。

 「暫くこの世界に呼ばれないと思っていたが、召喚はすたれたのか?」

 膝をついたままスクランは、四人に聞いた。

 「他の国の事はわからないが、我が国では許可なく召喚は出来ない」

 スクランの質問に、ガッドが答えると、なるほどと頷く。

 「ベランジェ。次に呼ぶ時は、どうしてもの時にした方がよさそうだ。その時は、力をかそう」

 察したのかスクランはそう言うと、立ち上がった。
 不思議そうな顔をするもアージェは頷く。

 「では。また会えるのを楽しみにしている」

 そうアージェに言うとスクランは、右手を掲げる。

 「召喚の扉よ。私を元の世界へ導け!」
 「あ、待って!」

 スクランが帰るんだとわかったアージェがそう言うも、魔法陣から扉が出現し、真ん中からかばっと開くと、スクランの体が光が包まれる。そして、扉の中に吸い込まれるように消え、ぱたんと扉は閉じ消えた。
 アージェは、茫然としている。
 直ぐに立ち去った事により三人は安堵する。
 だがフランクは違った。

 「あの、私にも召喚をさせて下さい!」

 その言葉に、三人は驚く。

 「ならん! いいか。今日の事は外には漏らさないように!」

 そう言うと、ガッドはその場を去って行く。

 「ダミアンには、オルソから召喚はできなかったと伝えておくように」
 「え? 父さんにも内緒ですか? どうして!?」
 「わからないのか? 今の我々には、魔獣に対して対抗する術がない! 何かあったらどうする? 召喚が本当に出来れると知れれば、我々だって狙われる可能性がある! いいな。私達が黙っていればただの騎士だ!」

 フランクは愕然とする。
 確かに魔術を捨て、騎士を選んだ。でもフランクは、騎士を選んだのではなく、召喚師を選んだのだ。
 他の者は、召喚など信じていなかったが、フランクはアージェの様に、最初から信じていた。

 「オルソ。ベランジェにも言って聞かせる様に! 出来ないようであれば、魔術師になるように言え」
 「え!? わ、わかりました。きちんと伝えます」

 アージェは、もう召喚が出来ないんだという事だけはわかった。だが、何故ダメなのかはわからなかった。
 召喚師になりたいアージェは、オルソと約束を交わすのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

我儘女に転生したよ

B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。 性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。 夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。 でも、息子は超可愛いです。 魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...