庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
45 / 67
第6章 選択の真実

第45話

しおりを挟む
 オルソがシリルやチェチーリアを襲う理由もなく、ダミアンも自分の息子を殺そうとはしないだろう。ウリッセも昨日言っていた様に、自分の娘を巻き込むはずがない。
 ゴーチェは、城に来てから連絡を取った形跡もなく、シリルに何かした様子もない。
 アージェは、皆の目の前で魔獣を召喚した事から魔術師のマスターではない。
 リーフも自分の家族を襲う事などないだろうし、七年前は八歳だ。

 こうなると魔術師達の目的を知りたいところだった。
 今のところ、思いつかないのだ。
 魔獣であるヘリムを連れ去った理由や、シリルを二年も手元に置いてこちら側に、手渡した事。何か事を起こすとしても、シリルは未だ目を覚ましていない。
 そしてフランクの剣を奪った事だ。
 ヘリムを殺そうとして奪ったとしても、それは何故か。
 元の姿になったヘリムには用がないからなのか、それとも剣の用途は違う事だったのか。
 だがそれも逃げる為に使い、魔術師の手を離れた。
 これだけは、相手の意図しない事だろうと皆は思っていた。

 「でも何かしっくりこないと言うか……」

 アージェがボソッと言う。
 そして、腕の中で寝ているヘリムに目を落とす。

 「そうです! 召喚師は、このヘリムさんの存在をどうやって知ったのでしょうか? ほとんど城の中に居た彼を……」
 「城の中に入った事がある者なのか? しかし警備の騎士と魔術師以外は、儀式以外の時は、ほとんど近づかない場所だ」

 アージェが言うと、ゴーチェが続けて発言する。
 皆もハッとした。
 魔術師が村を襲う前に、ヘリムを捕らえに城に来ていた。召喚師が知らなければ、命令出来ない事だ!

 「なるほど。召喚師には魔獣の声が聞こえると言っていたな。独り言でも呟いた声をその者が聞いた。そうなれば相手は、魔術師として城の警備にあたっている者なのか? しかし……十年以上前に勤務していた事になるな」

 ロイがそう言って考え込む。
 召喚師は、元々魔術師だ。相手は魔術師として生活していた事になる。
 十二年前に捕らえられたのだからその時に勤務していた者。だいぶ昔の為、調べるのは大変そうだ。

 リーフも引っかかっている事があった。

 (召喚師には魔獣の声が聞こえる。なんだっけ? 何か大切な事を……)

 ヘリムの声をアージェも聞けたという事だ。そこに行きあたると、疑問が浮かぶ。
 ヘリムは、犬の時にアージェの前で話さなかったか?
 そう考えてリーフは気づく!
 
 「あぁ!!」

 つい声を上げたリーフを全員が驚いて振り向く。

 「どうしました?」
 「どうしましたじゃない! 知っていたんですよね? ヘリムからリボンがほどける前から僕が召喚師だったて事を!」

 立ち上がり、横に居るアージェにリーフは叫んでいた。
 ヘリムは、アージェの前で散々言葉を発していた。しかも、作戦中止だとも言っていた!
 何か策を講じていた事は、アージェも気が付いたはずだ。だがアージェは、気づかないフリをしていたのだ!

 「何を言っています。先に騙したのはあなたの方ではありませんか。それにヘリムさんも私に聞こえるのを知っていて、話していたと思いますが?」

 それを聞きリーフは、目を丸くする。
 よく考えればそうだ。
 ヘリムは、この国の召喚師の仕組みを知っていた。ならばアージェが召喚師だとわかって話していた事になる。

 「酷い。騙すなんて……」
 「どっちがです? あなただってヘリムさんをそのままゲージに入れようとしてませんでしたか?」
 「………」

 俯いたままリーフは、答えられない。
 そうだった。知らないふりをして、ゲージに入れてしまおうとしたのだったと思い出す。

 「これ二人共……」
 『何だ煩いなぁ……』

 詳しく事情を知らない皆は、二人の言い合いを驚いて見ていた。
 オルソが声を掛けると同時に、ヘリムが目を覚ます。

 「おや、目を覚ましましたか?」

 アージェが、ヘリムを見て言った。

 『うん? 何故また犬になっている!』
 「この方が運ぶのに便利だからです」
 「もしかして、会話をしているのか?」

 ダミアンが驚いた様にアージェに聞いた。

 「はい。目を覚ましたようです」
 「だったら元の姿に戻って頂いても宜しいか? 私達には聞こえない」
 「わかりました」

 ダミアンに言われ、アージェはヘリムを床に降ろし、リボンをほどいた。
 一瞬にしてヘリムは、犬から人間の姿に変わる!
 それを始めて目にした他の者は、息をのんだ。
 わかっていても驚いたのだ。
 その中で一人、ムッとしてリーフは、ヘリムを見ているのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...