庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
2 / 67
第1章 出会い

第2話

しおりを挟む
 祖母は魔術師証を持っていた為、リーフを養うぐらいなら稼げていたのだが、その祖母が先日なくなった。
 ここは魔術師の国。魔術を使えても証が無ければ、リーフが魔術が使えようとも仕事の依頼がこない。それほど魔術師証はこの国では、なくてはならない物だった。

 リーフは、祖母に村から出るな、王都にも行くなと言われていた。どうしてなのかは、聞かされていない。祖母から十五歳になったら話すと言われていたが、病に倒れてからすぐになくなった為、話す時間がなかったのだろう。結局何も聞いていなかった。
 なので決死の覚悟で、王都に出て来たのである。

 「あぁ、せめて記憶が戻らないかな……」

 そう言うとリーフは、左手に持っていた年季の入った緑色の巾着を胸の前で、ギュッと握り目を閉じた。

 リーフには、二年前以前の記憶がなかった。怖い目にあったからだと聞いていた。だが全くないわけでもなく、シリルという兄がいた事や、二年前までは違う村に居た事をぼんやりと覚えてはいた。

 そして二年前に祖母は言った。『男として過ごしてほしい』と――。
 そうリーフは、本当は少女なのだ。二年間男の子として過ごして板についた振る舞いで、今のところバレてはいない。魔術師証も無事? 男として発行になっていた。

 問題はそこまでさせられた理由だけど、記憶がないのでわかりようもなく、祖母の意思に従うしかない。それで魔術師証も男として受けたのだった。

 とここまではよかった。全財産を持って王都に来て、試験を受けたらスッカラカン。リーフが思っていたより試験料がかかった。

 「飛んで帰るかな……。半日あればきっと着くよね? でもすぐに仕事がないと、帰っても生活ができない……。はぁ……」

 またリーフは、魔術師証を眺めつつ深いため息をついた。
 魔術を使って帰る事は出来る。だがお金がないので生活出来ないのである。だが魔術師証を持ってないと仕事がこない。

 「こうなったらここで仕事を探すしかないかな?」

 そう呟くもどこに行けば仕事を受けられるかわからない。そしてまた一つため息。

 「ねえ見て! 研究所で人員募集しているわ!」
 「あら本当! あ、でも男性のみだって……」
 「なーんだ。あぁ、アージェさんと一緒に研究できるかもと思ったのに!」

 女性達の会話に、リーフは顔を上げ反応した。
 がばっと立ち上がり辺りを見渡す。彼女達の居場所は、すぐにわかった。
 近くにある建物前にいた。リーフは小走りでそこに向かう。

 建物はどちらかというと新しいが、他の建物同様に蔦が壁にはっていた。グラディナの多くの建物は、このように蔦が壁にはっている建物が多い。

 彼女達はリーフと目が合うと、じっとりとリーフを見てクスクスと笑いながら去って行った。
 リーフはどう見ても王都に住んでいるように見えない。よれよれの服装で、色も緑色ではなくグレーだった。緑色なのは髪と瞳。ただし見方よっては青色にも見えるシーグリーン色。

 しかしリーフは、そんな事は気にせず、彼女達が立ち去った場所に立つ。そこには扉があり看板がついていた。
 『王国付属研究所』と一段目に書いてあり、その下には『請負屋』と書いてある。

 「請負? 研究依頼でも? 僕にはそっちはできないけど……」

 そう呟くと、彼女達が見ていただろう張り紙に目をやった。


        急募!
     魔術師の男性の方
 (魔術師証をお持ちの方は即採用)


 「魔術師! しかも魔術師証を持ってれば即採用!!」

 リーフはこれを逃してなるものか! とこれに飛びついた!
 扉をガンガンと叩く。

 「はい。そんなに叩かなくとても聞こえますよ」

 そう言って扉は開かれた。
 そこから現れた人物をリーフはポカーンとして見ていた。

 この国に一番多い深緑の髪に整った顔つき。切れ長の瞳も深緑色。年齢はリーフより少し上ぐらいに見える。
 長身で勿論、緑色のローブ。いや前が開いていて、そこから見える腰には剣を下げている。ローブではなくマントだ。
 そうするとこの彼は、魔術師ではなく騎士なのかもしれない。

 ラパラル王国には、王国付属の魔術師団と騎士団があり、魔術師は緑のローブを騎士は緑のマントを着用している。国章を確認せずともすぐに、ラパラル国の者だとわかる。

 (こんなきれいな人、初めて見た)

 リーフは、こういう人を美形というのだろうと惚けていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...