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第5章 魔術師の正体
第37話
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――ふと気が付くと、リーフは花を摘んでいた。見えるその手は小さい。
「こんにちは」
声を掛けられリーフは顔を上げた。
そこには、薄緑色したローブを着た紫色の髪の魔術師が立っていた。
彼の後ろには草原が広がり、家がぽつんぽつんと見える。そして、その先には豊かな森林が広がっている。
「こんにちは!」
まだ八歳のリーフは、無邪気に挨拶を返した。
「ここにチェチーリアさんは、いるかな?」
「おばあちゃんだよ! こっち!」
「リーファー、その人誰?」
リーフが、自分の家へ向かおうとすると声が掛かった。
「あ、シリル。おばあちゃんを訪ねて来た人だよ! きっと王都から私達を迎えに来てくれた人だよ。迎えに来るって言っていたよね?」
その言葉にシリルは、嬉しそうに頷いた。
「能力は、有効に使わないとな」
「え? 能力? きゃ!」
ぼそりと呟いた魔術師の言葉に、リーフが振り向こうとした時に体がふらりと浮いた。
「あ、何すんだよ!」
魔術師は、右の脇にリーフを左の脇にシリルを抱きかかえた。
「降ろせよ! お前、誰なんだ! 俺を迎えに来た奴じゃないな!」
「いや、迎えに来たんだよ。ただ目的は違うがな」
そう魔術師は言った。
リーフには、よくわからなかったが、迎えに来ると言っていた人物じゃない事はわかった!
「子供達をどこに連れて行くつもりだ!」
「お父さん! うわ~ん……」
魔術師が飛び立とうとした時に、サッと魔術師の前に父親が立った。
リーフは、父親の顔を見て泣き出す。
「孫を離せ!」
そう聞こえたと同時に魔術師は、前に倒れそうになった。そして、その拍子に二人は前に放り投げられる。慌てて二人を父親と後に来た母親がキャッチした。
チェチーリアが、魔術師の背中に風の刃を放ったのだ!
魔術師は静かに振り返りチェチーリアを睨み付けたかと思うと、上空へ浮き上がり無造作に火の玉を繰り出した!
森や建物が次々と燃え広がって行く!
「何をする!」
父親が驚いて叫んだ!
そして、三人は慌てて火の玉に水の玉を当てるも相手の威力が強く、消滅させられず対処しきれない。
「お母さん」
消火活動をする母親に、リーフはしがみついた。
村人も慌てて逃げ出して来た。と言っても流行病で亡くなり、その後結局次々と村を出て行き今や五家族しかいない。
しかも家族と言っても独り身の者が三軒に、老夫婦が一軒とリーフ達の家族の十人だけだ。
この十人では、燃え広がったこの炎を消すのは不可能に近い。
「何があった!」
「わからないが、子供達を狙っている!」
リーフの父親と同じぐらいの年齢の男が聞いた。
「その子達を渡せ。でなければ、全て燃やすまでだ!」
魔術師のその言葉に、村人達はリーフとシリルを見た。
「これだけ燃やされれば、我々では手の施しようがない。取りあえず逃げよう!」
村人の一人がそう言うと、皆一斉に走り出す!
母親がリーフを抱き、父親がシリルの手を引いて、火が燃え移っていない森の中へ逃げ込んだ!
子供達を生きて捕らえたいならば、入った森には火を放たない。そう思ったからだ。
予想通り、火は放たれなかった。
「チェチーリアさん、お願いがあります。私達が囮になりますので、二人を連れ別に逃げて下さい。大勢で移動しては、居場所がばれます」
「いや、しかし……」
「お願いします!」
父親が森に入ってすぐに、チェチーリアに頭を下げて言った。
迷うチェチーリアだが、村人全員が賛同した為、二人を連れて別行動をする事にした。
「さあ、行こう」
チェチーリアがリーフとシリルの手を取る。
「嫌だ! お父さんとお母さんも!」
「泣いてはダメ! いい? 後で落ち合うから」
リーフが泣きながら訴えるも、母親がそうなだめる。
「嫌だ!」
「俺がつている。だから泣かないで!」
大泣きを始めたリーフの頭をシリルは、優しく撫でた。
「俺が迷いの霧を出しますので、あの場所で!」
「わかった。お互い無事であいましょう」
父親の言葉にチェチーリアは頷くと、まだ泣くリーフを抱きかかえ、シリルと一緒に森の奥へ逃げる。
それを確認して父親が、迷いの霧を辺りに放つと、森一帯は霧に包まれた。
「おかあ……うー」
叫ぼうとしたリーフの口をシリルが塞いだ。
驚いて見ると、シリルも目に涙をいっぱい溜めて囁く。
「少しだけ我慢して……」
「ごめんよ。二人共……」
チェチーリアもボソッと呟いた。
リーフは、泣くのを我慢するも涙は自然にあふれて来る。
三人は魔術師から逃げきれた。
遠くに見える森は炎に包まれ、自然豊かだった村を炎が飲み込んで行くのをリーフ達は、ただ眺めている事しか出来なかった――。
「こんにちは」
声を掛けられリーフは顔を上げた。
そこには、薄緑色したローブを着た紫色の髪の魔術師が立っていた。
彼の後ろには草原が広がり、家がぽつんぽつんと見える。そして、その先には豊かな森林が広がっている。
「こんにちは!」
まだ八歳のリーフは、無邪気に挨拶を返した。
「ここにチェチーリアさんは、いるかな?」
「おばあちゃんだよ! こっち!」
「リーファー、その人誰?」
リーフが、自分の家へ向かおうとすると声が掛かった。
「あ、シリル。おばあちゃんを訪ねて来た人だよ! きっと王都から私達を迎えに来てくれた人だよ。迎えに来るって言っていたよね?」
その言葉にシリルは、嬉しそうに頷いた。
「能力は、有効に使わないとな」
「え? 能力? きゃ!」
ぼそりと呟いた魔術師の言葉に、リーフが振り向こうとした時に体がふらりと浮いた。
「あ、何すんだよ!」
魔術師は、右の脇にリーフを左の脇にシリルを抱きかかえた。
「降ろせよ! お前、誰なんだ! 俺を迎えに来た奴じゃないな!」
「いや、迎えに来たんだよ。ただ目的は違うがな」
そう魔術師は言った。
リーフには、よくわからなかったが、迎えに来ると言っていた人物じゃない事はわかった!
「子供達をどこに連れて行くつもりだ!」
「お父さん! うわ~ん……」
魔術師が飛び立とうとした時に、サッと魔術師の前に父親が立った。
リーフは、父親の顔を見て泣き出す。
「孫を離せ!」
そう聞こえたと同時に魔術師は、前に倒れそうになった。そして、その拍子に二人は前に放り投げられる。慌てて二人を父親と後に来た母親がキャッチした。
チェチーリアが、魔術師の背中に風の刃を放ったのだ!
魔術師は静かに振り返りチェチーリアを睨み付けたかと思うと、上空へ浮き上がり無造作に火の玉を繰り出した!
森や建物が次々と燃え広がって行く!
「何をする!」
父親が驚いて叫んだ!
そして、三人は慌てて火の玉に水の玉を当てるも相手の威力が強く、消滅させられず対処しきれない。
「お母さん」
消火活動をする母親に、リーフはしがみついた。
村人も慌てて逃げ出して来た。と言っても流行病で亡くなり、その後結局次々と村を出て行き今や五家族しかいない。
しかも家族と言っても独り身の者が三軒に、老夫婦が一軒とリーフ達の家族の十人だけだ。
この十人では、燃え広がったこの炎を消すのは不可能に近い。
「何があった!」
「わからないが、子供達を狙っている!」
リーフの父親と同じぐらいの年齢の男が聞いた。
「その子達を渡せ。でなければ、全て燃やすまでだ!」
魔術師のその言葉に、村人達はリーフとシリルを見た。
「これだけ燃やされれば、我々では手の施しようがない。取りあえず逃げよう!」
村人の一人がそう言うと、皆一斉に走り出す!
母親がリーフを抱き、父親がシリルの手を引いて、火が燃え移っていない森の中へ逃げ込んだ!
子供達を生きて捕らえたいならば、入った森には火を放たない。そう思ったからだ。
予想通り、火は放たれなかった。
「チェチーリアさん、お願いがあります。私達が囮になりますので、二人を連れ別に逃げて下さい。大勢で移動しては、居場所がばれます」
「いや、しかし……」
「お願いします!」
父親が森に入ってすぐに、チェチーリアに頭を下げて言った。
迷うチェチーリアだが、村人全員が賛同した為、二人を連れて別行動をする事にした。
「さあ、行こう」
チェチーリアがリーフとシリルの手を取る。
「嫌だ! お父さんとお母さんも!」
「泣いてはダメ! いい? 後で落ち合うから」
リーフが泣きながら訴えるも、母親がそうなだめる。
「嫌だ!」
「俺がつている。だから泣かないで!」
大泣きを始めたリーフの頭をシリルは、優しく撫でた。
「俺が迷いの霧を出しますので、あの場所で!」
「わかった。お互い無事であいましょう」
父親の言葉にチェチーリアは頷くと、まだ泣くリーフを抱きかかえ、シリルと一緒に森の奥へ逃げる。
それを確認して父親が、迷いの霧を辺りに放つと、森一帯は霧に包まれた。
「おかあ……うー」
叫ぼうとしたリーフの口をシリルが塞いだ。
驚いて見ると、シリルも目に涙をいっぱい溜めて囁く。
「少しだけ我慢して……」
「ごめんよ。二人共……」
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リーフは、泣くのを我慢するも涙は自然にあふれて来る。
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