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第5章 魔術師の正体
第36話
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「怖い目に遭いましたね。よく無事で……」
暫く抱きしめられ離された時は、涙は止まっていたが顔が凄く火照っていた。
リーフは、俯いて涙を拭く。
「……もしかして、あなたが言っていたおばあさんって」
アージェが、ハッとしてリーフに聞いた。それに、そうだと頷く。
リーフがリーファーならその祖母はチェチーリアになると、アージェも気が付いたのだ。
「そうですか。残念です。その事は、オルソさんには?」
「お話しました。かなりショックを受けている様子でした」
それを聞き、アージェはそうだろうと頷いた。っと突然クルッとリーフに背を向けた。
「あぁ。私は本人に何を話して……」
リーファーだと知らずに、本人の話をした事に気づき恥かしくなったのだ。
「す、すみません。わざと隠していた訳じゃなくて、まさか僕もこんな流れになるなんて……」
リーフはそう謝るも、出会った時の事を考えれば不思議な感じだ。
あまり人を寄せ付けない感じだったアージェだが、今目の前にいる彼は二年前の様ににこやかにほほ笑んでいた。
「しかし、あなた達には騙されました」
そうほほ笑むアージェに、怒った様子はない。
逆にその笑顔にリーフは、ドキッとする。
「だ、騙されたって……僕が、リーファーだったって事ですか?」
リーフは、火照る顔を伏せ聞いた。何故か直視出来ない。
「そうですね。本当は男だったなんて、二年間も騙されました。魔術師証を取得した時に、明かすつもりだったかもしれませんが、ちょっと度が過ぎます」
「え?!」
驚いてリーフは、アージェの顔を見た。
先ほどと同じく微笑んでいる。騙した事にも怒っている様子はない。そして本気で言っている様だった。
アージェからすれば、魔術師証を男として取得しているのだから目の前の姿が本当のリーファー。つまり本当は男性で、リーフと言う名だったと解釈したのだ。
まさか性別まで偽って、取得しているとは夢にも思っていないのだろう。
(どうしよう……。でも女性嫌いなんだよね?)
「い、色々ありまして……」
そう言ってリーフは誤魔化した。
ここで女性だと明かし、色々弁解するのも大変だ。
オルソがいる時に、話す事にしたのだった。
「まああなたの意思ではないでしょうから許しましょう。それで、お聞きしたいのですが、村に戻ろうとしていたのは、あの魔術師に追われていたからですか?」
リーフがリーファーならそれが理由ではないかと、アージェは思い聞いた。それにリーフは頷く。
「今回、襲われたのは僕だと思っていたんだけど、違ったみたいです」
アージェは、真面目な顔つきで頷いた。
「では、その魔術師と今回でケリをつけましょう。あなたもシリルも怯えて暮らさなくてもいいように!」
「そうなればいいんですけど……」
「大丈夫です! あなたがヘリムのマスターならあの魔術師を捕らえる事が出来るでしょう!」
アージェの言う通り、本当にそうだったのなら可能性はある。ただ今日の会議の様子を見れば、この中に内通者がいると各々思っているようだった!
ハッキリ言って、今は皆が疑心暗鬼になっている。
相手の次の目的もわからない。
剣を奪い、シリルを使って何を起こす気なのか。
「そもそも魔術師は、何をしたかったのでしょうか? 剣もシリルも何かの目的をなす為に手に入れたんですよね? シリルに至っては七年前から追いかけていた……」
「そうですね、余程の事なのでしょう。そのシリルを手放した。いや、送り込んで来た。となれば、何か仕掛けて来るつもりなのは確かでしょう」
リーフの問いに、決戦は近いとアージェは言った。
「さて、私は戻りますね。今日はゆっくり休むといいでしょう」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
アージェは、にっこりほほ笑んで、静かに部屋を出て行った。
リーフは、ポフンとベットに腰掛ける。
(ヘリムは本当に僕をマスターにしたのだろうか?)
そうでなければ、ロイが言ったようにフランクがブレスレッドをすり替えた事になり、内通者という事になる。
しかし、思ったよりヘリムは弱かった。それは言い伝えの為、確証があるものではないと、オルソは言っていた。
ヘリムのマスターがリーフで、あの強さが彼の強さであれば、あの魔術師に勝てるかどうかわからなくなる。
「って言うかもしかして、マスターの強さによって魔獣の強さが変わるって事ないよね?」
急にリーフは不安になる。もしそうならば、マスターがいる魔獣が弱く感じるのも納得がいく。
(でもそれは、記憶を覗いたからわかって……あ、その前か契約したの……。うん? 待てよ……)
リーフが思い出した記憶の中に、魔術師がいた!
という事は、リーフがシリルと繋がりがある事をあの時知ったはずなのに、何も言わなかった!
ヘリムは、あの魔術師の元にシリルと一緒に居たと言っていた。あれが本当なら何故教えてくれなかったのだろう。
それともロイが言う様に嘘?
リーフは、怖くなってきた。何が本当で何が嘘なのか……。
ヘリムが魔術師の味方でなかったとしても自分達の味方でもないかもしれないと思った。
彼は何かを隠している! リーフは、直感的にそう思った。
リーフは、ごろんとベットに横になり布団を頭まで被った。
チェチーリアに会いたい。リーフはそう思う。
「おばあちゃん、会いたいよ……」
自分が本当の孫でなくても、ずっと育ててくれていた。リーフには、思いではこの二年間しかない。
自分の両親もどうしているのかわからない。
シリルも目が覚めたらどういう状況になるかわからない。
(独りぼっちになったんだ……)
リーフは、泣きながら眠りについたのだった――。
暫く抱きしめられ離された時は、涙は止まっていたが顔が凄く火照っていた。
リーフは、俯いて涙を拭く。
「……もしかして、あなたが言っていたおばあさんって」
アージェが、ハッとしてリーフに聞いた。それに、そうだと頷く。
リーフがリーファーならその祖母はチェチーリアになると、アージェも気が付いたのだ。
「そうですか。残念です。その事は、オルソさんには?」
「お話しました。かなりショックを受けている様子でした」
それを聞き、アージェはそうだろうと頷いた。っと突然クルッとリーフに背を向けた。
「あぁ。私は本人に何を話して……」
リーファーだと知らずに、本人の話をした事に気づき恥かしくなったのだ。
「す、すみません。わざと隠していた訳じゃなくて、まさか僕もこんな流れになるなんて……」
リーフはそう謝るも、出会った時の事を考えれば不思議な感じだ。
あまり人を寄せ付けない感じだったアージェだが、今目の前にいる彼は二年前の様ににこやかにほほ笑んでいた。
「しかし、あなた達には騙されました」
そうほほ笑むアージェに、怒った様子はない。
逆にその笑顔にリーフは、ドキッとする。
「だ、騙されたって……僕が、リーファーだったって事ですか?」
リーフは、火照る顔を伏せ聞いた。何故か直視出来ない。
「そうですね。本当は男だったなんて、二年間も騙されました。魔術師証を取得した時に、明かすつもりだったかもしれませんが、ちょっと度が過ぎます」
「え?!」
驚いてリーフは、アージェの顔を見た。
先ほどと同じく微笑んでいる。騙した事にも怒っている様子はない。そして本気で言っている様だった。
アージェからすれば、魔術師証を男として取得しているのだから目の前の姿が本当のリーファー。つまり本当は男性で、リーフと言う名だったと解釈したのだ。
まさか性別まで偽って、取得しているとは夢にも思っていないのだろう。
(どうしよう……。でも女性嫌いなんだよね?)
「い、色々ありまして……」
そう言ってリーフは誤魔化した。
ここで女性だと明かし、色々弁解するのも大変だ。
オルソがいる時に、話す事にしたのだった。
「まああなたの意思ではないでしょうから許しましょう。それで、お聞きしたいのですが、村に戻ろうとしていたのは、あの魔術師に追われていたからですか?」
リーフがリーファーならそれが理由ではないかと、アージェは思い聞いた。それにリーフは頷く。
「今回、襲われたのは僕だと思っていたんだけど、違ったみたいです」
アージェは、真面目な顔つきで頷いた。
「では、その魔術師と今回でケリをつけましょう。あなたもシリルも怯えて暮らさなくてもいいように!」
「そうなればいいんですけど……」
「大丈夫です! あなたがヘリムのマスターならあの魔術師を捕らえる事が出来るでしょう!」
アージェの言う通り、本当にそうだったのなら可能性はある。ただ今日の会議の様子を見れば、この中に内通者がいると各々思っているようだった!
ハッキリ言って、今は皆が疑心暗鬼になっている。
相手の次の目的もわからない。
剣を奪い、シリルを使って何を起こす気なのか。
「そもそも魔術師は、何をしたかったのでしょうか? 剣もシリルも何かの目的をなす為に手に入れたんですよね? シリルに至っては七年前から追いかけていた……」
「そうですね、余程の事なのでしょう。そのシリルを手放した。いや、送り込んで来た。となれば、何か仕掛けて来るつもりなのは確かでしょう」
リーフの問いに、決戦は近いとアージェは言った。
「さて、私は戻りますね。今日はゆっくり休むといいでしょう」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
アージェは、にっこりほほ笑んで、静かに部屋を出て行った。
リーフは、ポフンとベットに腰掛ける。
(ヘリムは本当に僕をマスターにしたのだろうか?)
そうでなければ、ロイが言ったようにフランクがブレスレッドをすり替えた事になり、内通者という事になる。
しかし、思ったよりヘリムは弱かった。それは言い伝えの為、確証があるものではないと、オルソは言っていた。
ヘリムのマスターがリーフで、あの強さが彼の強さであれば、あの魔術師に勝てるかどうかわからなくなる。
「って言うかもしかして、マスターの強さによって魔獣の強さが変わるって事ないよね?」
急にリーフは不安になる。もしそうならば、マスターがいる魔獣が弱く感じるのも納得がいく。
(でもそれは、記憶を覗いたからわかって……あ、その前か契約したの……。うん? 待てよ……)
リーフが思い出した記憶の中に、魔術師がいた!
という事は、リーフがシリルと繋がりがある事をあの時知ったはずなのに、何も言わなかった!
ヘリムは、あの魔術師の元にシリルと一緒に居たと言っていた。あれが本当なら何故教えてくれなかったのだろう。
それともロイが言う様に嘘?
リーフは、怖くなってきた。何が本当で何が嘘なのか……。
ヘリムが魔術師の味方でなかったとしても自分達の味方でもないかもしれないと思った。
彼は何かを隠している! リーフは、直感的にそう思った。
リーフは、ごろんとベットに横になり布団を頭まで被った。
チェチーリアに会いたい。リーフはそう思う。
「おばあちゃん、会いたいよ……」
自分が本当の孫でなくても、ずっと育ててくれていた。リーフには、思いではこの二年間しかない。
自分の両親もどうしているのかわからない。
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リーフは、泣きながら眠りについたのだった――。
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