庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
35 / 67
第5章 魔術師の正体

第35話

しおりを挟む
 用意された部屋は、五階だった。窓がなくアージェの事務所より広いのに、ベットがポツンと一つだけ。そして、驚く事に城自体に結界が施されていた!
 あのヘリムが捕らわれていた離れと一緒だった。

 リーフは、王都に来てからロクな事がないと思うも、それは全て今日一日の事だ。
 やっぱり来ない方がよかったかもしれない。そう思いながらベットにごろんと身を預ける。
 しかし来なければ、オルソやアージェの事も思い出せなかった。シリルにも会えなかっただろう。

 「良かったのか。悪かったのか……」

 リーフは呟く。
 トントントン。
 控え目にノックが聞こえ、リーフは上半身を起こす。

 「はい?」

 一体誰だろうと、扉を開けるとそこにはアージェが立っていた。
 まさか彼が訪ねて来るとは思わなかったリーフは驚く。

 「少し宜しいですか?」
 「え? あ、はい。どうぞ……」

 あまり気は進まないが招き入れる。

 「体調はどうですか? 疲れてはいませんか?」

 その質問に、リーフは目をぱちくりとする。
 わざわざそんな事を聞きに来たのかと驚いた。
 巻き込んだで悪かったと思っている事は、馬車の移動中の話を聞いていて知っていたが、ここまで気にしているとは思っていなかった。

 「大丈夫です。えっと、アージェさんは大丈夫ですか?」
 「私は大丈夫です」

 私は……オルソは大丈夫じゃないのかもしれない。
 リーフはそう思うと、シリルが気になった。

 「あの、その……シ、シリルさんの具合はどうなのでしょう?」
 「会わせて頂けないのでわかりません」

 そう返したアージェは、悲しい顔をしていた。

 「オルソさんもですか?」
 「やはりあなたは、オルソさんから二人の関係を聞いたのですね」

 リーフは頷いた。
 オルソがリーフと二人で残った時に、話を聞いたのかと聞いたのだった。聞けるのはその時しかないからだ。

 「オルソさんとアージェさんの関係も聞きました」
 「私達のもですか!? 何故、そこまで!」

 リーフが言うと、アージェは驚いて言った。
 アージェが言う事はもっともだ。リーフがリーファーでなければ、話す必要がない内容だ。疑問に思っても不思議はない。

 「オルソさんてアージェさんのおじいちゃんですよね? オルソさんって呼んでいるから聞いて驚きました」
 「騎士は、親兄弟であっても名で呼ぶ事になっています。ですので私達が、親族だと知らない者の方が多いです」
 「そうなんだ……」

 聞かれもしなければ、わざわざ言う事でもない。
 それに、ずっと仲違いをしていたのだからあまり仲良くも見えなかっただろう。

 「あなたはどう思います? ヘリムさんの事を……」
 「え?」

 どうと言われてもリーフは困った。
 そもそも魔獣の事も召喚師の事もよく知らない。
 未だに、何故自分をマスターに選んだかさえよくわからなかった。

 「よくわからないです。僕を召喚師だと気が付いてマスターにしたとしても、何故僕なのか……。ヘリムは城に居たと言っていました。ならば、騎士が召喚師だった事を知っていたはずです。なのに何故、僕を選んだのか……」
 「それは私も思います。不思議でなりません」

 そこまで言われれると、リーフも凹む。

 「すみません……」

 言い過ぎたと謝りながらアージェは、ジッとリーフを見つめる。

 「えっと……」
 「す、すみません」

 アージェは、慌てて顔を背けた。

 (ま、まさかと思うけど、アージェさんって!)

 男の人が好きの対象の人なのかと、リーフはドギマギする。女だとバレたらそれこそ殺されそうだ。

 「ある人に、面影が凄く似ているものですから……」
 「え?! 似ているって……」

 どうやらリーフの勘違いだったようだ。

 「と言ってもその方は、女性なのですけどね」
 「………」

 その女性は、リーファーの事だろう。似ているとは思っていたんだとリーフは驚いた。

 「あ、誤解なさらないでくださいよ。別に想い人ではありませんので」
 「………」

 きっと凄く驚いた表情をリーフがしていたからだろう。アージェはそう言った。

 「シリルの妹です。二年前に一度お会いしただけですが……。あの子は今どうしているのでしょうか?」

 そう言ったアージェの顔は、憂いを帯びた表情だった!

 「一緒にいなくなったんですか?」
 「ええ、そうです。シリル達の祖母と一緒に……。もしシリルがあの魔術師に捕まっていたのなら二人の行方も知っているかもしれないのです。早く聞いて助け出さなければと思っていたのですが、陛下達は違う様です」

 そう言ってアージェは、顔に影を落とす。
 リーフは、いたたまれなくなった。オルソと約束はしたが、アージェはシリル達の事を嫌ってはいない。そう感じた。

 「た、大切な人達なんですね……」

 でも言い出せない!
 まるで確認をするように聞いていた。

 「大切ですか。どうでしょう? どちらかと言うと憎らしい相手です。彼らのせいで私は、一時期誰も信じられなくなりました。って、私が子供だっただけですが。憎らしい相手だったのに、会って話せばシリルは真っ直ぐて妹思い。リーファーは無邪気で素直そうな子でした……」

 そう語るアージェの目には、きらりと光るものがあった。
 そして胸元からペンダントを取り出し握りしめる!

 「私は、その日を境に彼らと仲良くしたいと思っておりました。そしてプレゼントを差し上げたのです。なので彼らとの想い出は、その日しかなく……」

 リーフは気が付けば、涙を流していた。
 アージェが握りしめるそのペンダントは、リーフの胸からちぎり取られ魔術師が放り投げたペンダントだった!
 アージェは、大切に持っていたのだ!

 「結局、役に立たなかった……。もしかしたら二人は、魔術師がシリルをよこした時に……」

 アージェの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。彼はそれを慌てて拭く。

 「すみません。話していたら感極まって……」
 「生きています……」
 「え? そうですね。まだ希望はあります……」

 リーフは、首を思いっきり振った。そうすると、涙が飛び散る。
 アージェは、大泣きしているリーフに驚く。

 「僕がリーファーです。ちゃんと生きています! アイテムも役に立ちました! それがなければ、僕はここにいません!」
 「何を言って……。え? 私、彼女の名前言いましたか?」
 「言ってません。ずっと言い出せなくて……」
 「ほ、本当に……リーファーなのですか? 生きて……よかった!」

 頷き答えるリーフをアージェは抱きしめた!
 そっくりなリーフが言うのだ。アージェも間違いないと思ったのだ。
 リーフは、アージェのまさかの行動に固まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...