庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
25 / 67
第3章 彼らの関係

第25話

しおりを挟む
 はぁっと、アージェ、オルソ、フランク三人揃ってため息をする。
 まさか偶然が重なり、リーフがヘリムのマスターになってしまうなど誰が思うだろうか。

 「悪いが騎士団の館に来てもらう事になる。少なくともマスターの君を置いて、どこかに逃亡するという事はないだろうからな」
 「そうですね。三日後には召喚の能力を封印する事になっているのですから、リーフさんを奪いに来るでしょうね」

 オルソが言うと、頷いてアージェが言った。
 リーフを連れ出しに来たところと捕まえる予定らしい。

 「お布団が無駄にな……」

 ドンドンドン!

 アージェが語っていると、またもや扉を強く叩く音が聞こえ、バンッと勢いよく扉が開いた!

 「アージェさん! 森を教えて下さい!」
 「え? ウリッセさん……」

 驚くアージェに近づくと肩をガシット掴みは早くと急かす。そうとう焦っている様子だ。
 アージェは困惑する。

 「何の話ですか?」
 「ウリッセさん。それじゃアージェもわからない。落ち着いて!」
 「ダミアン。何があった?」

 ウリッセをなだめたのは、後から入って来たオルソの親友ダミアンだ。
 オルソは、ダミアンに問う。
 ウリッセは、四十前後に見える男性で、やわらかい黄緑色の柳色の髪と瞳でフードがついた濃い緑色のローブを着ている。一方ダミアンは、くすんだ青みの緑色のビリジアンの髪に瞳で、フランクと同じ服装だった。マントと剣があれば、全く同じ姿だ。

 「彼の娘が行方不明になった」
 「なんだと!?」

 ダミアンの返答に、オルソだけでなく全員が驚いた。

 「ナディアちゃんが? で、森とは?」

 アージェが質問をすると、ウリッセは肩から手を離した。

 「犬がいなくなった森です! どこですか?」
 「え? 何故その話を?」
 「そんな事は、今はどうでもいい! どこです!」
 「ちょっと待ってください!」

 またウリッセに肩を掴まれ、流石のアージェも困り顔だ。
 犬が居なくなったというのが森だと教えた相手は一人。イサルコだ!
 リーフは、ピーンときた。

 「もしかしてその子は、イサルコさんの犬を探しに?」
 「そうです! ネリーちゃんと一緒に!」
 「リーフさん! 勝手に依頼の情報を……。え? そこに向かわれたのですか?」

 ウリッセは頷いた。
 どうしてそうなったかわからないが、犬が森で居なくなったという嘘を信じて探しに向かったらしい。
 その事に気づいたアージェも驚いている。

 「僕、探しに行って来ます!」
 「ダメです! それに、あなたには関係ないでしょう!」
 「何を言っているんですか! 僕とあなたで招いた事ではないですか! それにもう少しで日が暮れます。悠長な事はしてられません! 森の探索は、日が落ちるまでが勝負です! なので、先に行っています!」

 そういうと、アージェが止めるもリーフは、皆が唖然としている中、扉に向かって走り出した。

 「お待ちなさい!」

 リーフは、開けっ放しの扉から外に出ると、森へ飛んでゆく。
 オルソ達もハッとするが、既に遅い。
 今、リーフを一人にしてはいけなかったのだ。

 「まずいですね……」

 フランクがそう呟いた。

 「もうどうして、こうなるのです!」

 ため息交じりにアージェが言う。
 飛べない彼らには、リーフを追えない。

 「で、今出て行った子は誰だ?」

 ダミアンの問いにオルソとフランクそして、アージェは目配せしあう。

 「私の研究の手伝いに入って頂いた子なのですが……。それより、犬の件は、誰からお聞きになったのでしょうか?」
 「それより早く追わないと!」
 「飛べない私達には、彼は追えません。ですが私が場所を把握しております。話して頂けますね?」

 犬は魔獣だった!
 その犬を探しているイサルコと、接点がある事になる。

 「だったら移動しながら!」

 気が気じゃないウリッセがそう言う。

 「そうだな。俺達が乗って来た馬車の中で話を聞こう」

 オルソがそう言うと、全員頷いた。
 外に出ると、馬車の運転席に座る少年にオルソが声を掛ける。

 「悪いが、我々だけで目的地に向かう。君はここから一人で騎士団の館に戻ってくれないか?」
 「え? はい! 了解しました!」
 「彼を返すのですか? では、ちょっとお待ちを!」

 今回はもしかしたら、魔獣が絡んでいるかもしれない事から少年の身の危険を考えての事だ。
 タイミングがよすぎると思ったフランクの判断だ。
 アージェは五分程すると戻って来て、少年に封筒を手渡した。

 「これを団長に渡して下さい。もしかしたら急いだ方が宜しいかもしれないので。それとこれは、馬車代です。お金を持ち合わせていないでしょう? くれぐれも置き忘れに注意して下さいね」
 「はい! ありがとうございます! では!」

 お金と封筒を握りしめ、少年は足早に去って行った。
 彼に渡したのは、イサルコの報告書だ。こう立て続けに事が起こると、手渡す暇もなさそうだったので、彼に託したのである。

 「お待たせしました。では参りましょうか」

 フランクが運転席に座り御者を務め、他の者は馬車に乗り込んだ。
 そして、馬車は森に向けて出発した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

我儘女に転生したよ

B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。 性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。 夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。 でも、息子は超可愛いです。 魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...