庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
24 / 67
第3章 彼らの関係

第24話

しおりを挟む
 「ただいま」

 リーフが扉を開け、三人で中へ入って行く。

 「おかえりな……そちらの二人はどなたでしょう? 依頼人ですか?」
 「いえ……。お、お手伝いをしてくれた方で……」
 「手伝って頂いたのですか? しかも女性に?」

 アージェは明らかに怒っている。声のトーンが低い。顔はまだ、怒り顔ではないが無表情だ。

 (だから嫌だと言ったんだ)

 「ご、ごめんなさい。一応断ったのですが……」
 「アージェさん。彼を叱らないであげて……」

 ドンドンドン!
 女性の一人がアージェに話しかけた時、強く扉がノックされた。

 「リーフは無事か!」

 そして、返事を待たずにそう言ってオルソが入って来た。驚いていると、続いてフランクも入って来る。

 「無事ですが。……申し訳ありませんが、先輩方がいらっしゃったので、お引き取り願いませんか? お手伝いありがとうございました」

 心のこもってなさそうな礼を言って、アージェは頭を下げた。リーフも慌てて下げると、彼女達は渋々残念そうに部屋から出て行った。

 「全く、女性をたぶらかせて手伝わせるとは……」
 「な! そんな事してません! あの人達は、アージェさんのファンの方です!」
 「それをわかっていて、連れて来たのですか?!」
 「え!?」
 「アージェ! リーフも断り切れなかったのだろう」
 「次はきちんと断って下さい!」
 「………」

 オルソが肩を持ってくれたが、何となく理不尽さを感じるリーフだった。

 「すまないなリーフ。女性が絡むとこうなのだ」

 オルソは溜息をつきそう言った。

 (女性が絡むと? って! もしかしてアージェさんって女性嫌い?!)

 考えれば心当たりがある。
 性別は関係ない仕事だったのに、募集は男性だった。
 オルソが言っていた、アージェに女性だとバレると……という意味はこれだったのだ!
 アージェにリーフがリーファーだと知られれば、女性だったのかと毛嫌いされる恐れがあったからだった。

 「で、リーフさんがどうかしましたか?」
 「いや、リーフさんではなく、ヘリムさんが姿を消しました」

 アージェの問いに、フランクが答えると、アージェもリーフも驚いた。
 逃げる素振りなどなかった。

 「確かブレスレットを……」
 「彼には聞かなかったようですね」

 またアージェの問いに、フランクが答えると、何故か三人はリーフを見た。
 その目はまるで、原因はリーフだと言わんばかりだ。

 「え? な、何ですか?」

 リーフは、たじろき聞く。
 嫌な予感がひしひしとしてくる。

 「あなた、彼と契約を結びましたね? つまり、今はあなたがマスター」
 「魔獣は、マスターを得る事で、本来の力を発揮出来ます。彼は、マスターはもうこの世にいないと言っていました。もしマスターが不在ならば、あのブレスレットは有効だったはずなのです」

 リーフにアージェが問い、フランクがマスターと魔獣の関係を説明した。

 (だからマスターになってと言ったのか!)

 ゴーチェの言う通りなら、ヘリムはリボンをほどいた事によりリーフが召喚師の能力を持っていると気が付いた。
 事情を知らなさそうなリーフをそそのかし、マスターにした。

 「どうなのだ?」

 オルソが優しく聞いた。

 「……犬に戻って欲しかったので、マスターになって欲しいと言われてなりました。何も知らなくて……。ごめんなさい」

 三人は一斉にやっぱりという顔つきになった。
 リーフの召喚の能力を封印すると言った時に、止めたヘリムの態度を見て、疑ってはいたのだろう。

 「全くあの食わせ者が。何が召喚師でない者に、儀式を行うとどうなるかだ。召喚師だとわかっていての台詞じゃないか!」
 「えぇ、本当に。マスターが死んだと聞かされて油断しました」

 オルソに続き、フランクも悔しそうに言った。

 「やはり確認をするべきでした」

 そしてアージェがそう呟く。

 「ところでリーフさん。体が異常に疲れたりとかは、ありませんか?」

 アージェにそう問われ、マスターになると自分に何か起こるのかと不安になった。

 「ありませんけど。あの、今更なんですが、マスターになったら何か体に害があるんでしょうか?」
 「害はありません。ですが契約した魔獣と魔力が共有になります」
 「え? それだけですか?」

 アージェが、脅す様な聞き方をしてきたので、長らくマスターになったりすると害があるのかとリーフは懸念していたが安堵する。

 「それだけですかって。わかっておりますか? 魔獣が膨大な魔力を使えば魔力が無くなり、いざ使いたい時に使えない状態になるかもしれません。私達は騎士です。魔力が無くなったとしても問題はありませんが、魔術師であるあなたは違うでしょう?」

 アージェにそう言われ、リーフはハッとする。
 仲良く使う分には問題ないが、好き勝手に使われたら困る状態になる。
 そして、だから召喚師を選んだ者は、騎士なんだと納得した。

 「彼は一体、自分本来の力を手に入れて何をする気なのだ?」
 「わかりませんが……。リーフさん、彼は何か言っていませんでしたか?」

 オルソが呟くと、アージェがリーフに問う。
 だがリーフは、聞いていないと首を横に振った。
 そもそもついでの様に、マスターになってくれと言われ承諾した。
 魔獣にとっては、マスターがいるのといないのとでは、大違いのなずなのにそんな風には見えなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...