庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
16 / 67
第2章 騎士の正体

第16話

しおりを挟む
 無事にシリルを保護出来た事に皆、安堵していた。
 と突然、片膝を付きシリルを抱きかかえていたフランクが、オルソにシリルを手渡すと立ち上がった。

 「オルソさん、彼をお願いします」

 そう言うとフランクは、突然森に向かって走り出した!

 「どちらへ!?」
 「人影が見えた! 深追いはしない。様子を見て来る!」

 アージェが問いかけると、フランクは走りながらそう答えた。そして、森の中へ消えていった。

 「人影って……。火の玉を投げて来た相手ではないでしょうか?」
 「そうだな……」

 アージェの言葉にオルソも同意見だと頷く。
 最初の火の玉は、馬車の横からの攻撃だった。
 シリルは、火の玉の直後、前方に現れ氷の刃を放っていた。もう一人いたと考える方が自然だ。
 現にシリルは、一度も火系は使ってこなかった。

 「シリルを操っていた者かもしれません。彼はどう見ても自我を持って行動しているようには見えませんでした。私も追ってみます。ここを宜しくお願いします」
 「アージェ!」

 アージェもまた、フランクを追いかけ、森の中へ消えて行った。

 「いかなくてもいいのか? その子は俺が見ていてやるけど」
 「いや逆に君達やシリルがいる以上、誰かはここに残らねばならない……」

 ヘリムの申し出にそうオルソは返し、小さくため息をつく。
 リーフは、もう一人はあの二年前襲ってきた魔術師なのではないかと思った。あの魔術師は、先ほどの様に火の玉で攻撃してきていた。
 だがなぜ連れ去ったシリルを使って襲ったのかがわからない。
 シリルは、男のフリをしているリーフはともかく、オルソやアージェにも反応を示さなかった。アージェの言う通り、操られているとリーフは思った。

 (胸騒ぎがする……)

 あの魔術師は、チェチーリアでも敵わなかった相手。
 しかも追いかけて行った二人は、術を無効化出来る剣を持っているとはいえ、水で火の玉を小さくしなければ、あの火の玉は消滅させられない。
 不安を胸にリーフ達は、二人が入って行った森を見つめるしかなかった。
 だが森から戻って来たフランクは、左腕に怪我をしている様子だった!

 「フランク! その怪我は!」

 驚いてオルソが声を上げた。
 フランクの左腕は、肘から下の衣服は焦げ、皮膚は赤くなっていた!

 「大丈夫です。少し火傷を……」
 「少しではありません! すぐに手当てしないと!」

 フランクは、額に汗しており凄く痛そうだ。
 アージェは、フランクの言葉にそう返し、フランクを連れて馬車に向かおうとする。

 「あの僕、少しなら癒す事が出来ますけど……」
 「なんですって! それ、本当ですか!」

 リーフの言葉に、バッと振り向きアージェが問う。
 魔術師の大半の者は、癒しの術が使えない。なのでアージェは、信じられないという顔つきだ。

 「本当に出来るのですか?」

 もう一度聞くアージェにリーフは頷く。

 「では、お願いしてもいいかな?」

 オルソがそう言うと、リーフは頷いてフランクに近づく。

 「失礼します」

 リーフは、フランクの左腕に触れるか触れないかくらいの位置をキープし、ゆっくりとスライドさせていく。
 フランクの顔つきも和らいでいった。

 「ありがとう。凄い物だな。あんなに痛かったのが嘘のように引いた」

 リーフは首を横に振る。

 「戻ったら医者に診てもらうか、僕より優れた魔術師に診てもらってください」
 「あぁ。そうするよ。ありがとう」
 「あなたが他の人に浮遊の術を掛けられないのに、受かった理由がわかりました。そういう事だったのですね。水が得意で治癒が出来る。何故魔術師団に入らなかったのですか? 勧誘は受けたでしょう?」

 アージェに問われ、リーフは俯く。

 「……そうですね。でも僕は村に戻るつもりだったので……なので治癒が出来る事は言わないで下さい」

 リーフは、そう小さく呟くように答えた。

 ラパラル王国は、森多き国の為、水が得な魔術師は優先的に合格にする。
 そして、魔術師団に入団させて確保しようとするのだった。その為リーフの時もかなりしつこかった。
 一旦入ったら村には帰れない。そう思ったリーフは、何とか断り逃げて来たのだ。

 「わかりませんね。どうして誰もいない村に戻ろうとするのです? 魔術師団に入れば、最低限の衣食住は確保されるのですよ。それに治癒が出来るなら将来を約束されたも同然なのに……」

 アージェは、リーフの言動にため息交じりに言った。

 「そう言うなアージェ。リーフにも色々事情があるのだろう」

 そうオルソが言う。
 オルソが言う様に、言えない事情がリーフにはある。
 しかも襲った目的が自分ならチェチーリアが言った通り、王都には来るべきではなかったと、リーフは大きく後悔していた。

 「まあいつでも入団出来ますからいいですが……。それより、魔術師が戻ってこないとも限りません。すぐに騎士団の館に向かいましょう」

 アージェの台詞にリーフはホッとする。
 このまま魔術師団の館に連れて行かれたらどうしようかと思っていたのだった。

 先ほどとは違い、アージェ、シリル、オルソと座り、向かい側にフランク、ヘリムそしてリーフと座った。
 シリルは、オルソにもたれ掛かり、まるで心地良く寝ている様だった。

 そのシリルを見てリーフは思う。
 シリルはこの二年間、どこにいたのだろうか?
 あの恐ろしい魔術師に何をされたのだろう?
 シリルの態度から記憶を消されているのは確か。
 リーフの事も忘れているかもしれない。

 でもどうして自分を狙うのか。
 その前にどうやってリーフがリーファーだとわかったのか……。

 (もしかして試験を受けたからバレた?)

 オルソから貰った紹介状を使ったからバレたのではないか? そうリーフは思いつく。
 そうなると、リーファーがオルソから紹介状を貰ったのを知っている人物が、あの魔術師の仲間となる。

 チラッとリーフは、オルソを見ると彼は、優しくシリルを見つめていた。
 彼ではない。そうリーフは思う。
 そうなると、アージェなのだろうか?
 アージェを盗み見れば、オルソとは逆に険しい顔つきで、シリルを見つめていた。
 気を付けた方がいいかもしれない。そうリーフは思った。

 (そう言えば、オルソさんとおばあちゃんの関係って?)

 二人はどこで知り合ったのだろうか?
 火事がどうのこうのと言っていた。何となく古くから知り合いなのかもとリーフは思う。
 またシリルを見た時のオルソは、かなり動揺していた。ただの知り合いの孫にあそこまで動揺するだろうか?
 色々考えれば考える程、疑問が増えて行くばかりだ。
 リーフ達はその後は、襲われる事もなく無事に、騎士団の館に到着したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的
ファンタジー
魔法仕掛けの古い豪邸に残された6歳の少女「ノア」 そこに次々と召喚される男の人、女の人。ところが、誰もかれもがノアをそっちのけで言い争うばかり。 もしかしたら怒られるかもと、絶望するノア。 でも、最後に喚ばれた人は、他の人たちとはちょっぴり違う人でした。 魔法も知らず、力もちでもない、シャチクとかいう人。 その人は、言い争いをたったの一言で鎮めたり、いじわるな領主から沢山のお土産をもらってきたりと大活躍。 どうしてそうなるのかノアには不思議でたまりません。 でも、それは、次々起こる不思議で幸せな出来事の始まりに過ぎなかったのでした。 ※ プロローグの女の子が幸せになる話です ※ 『小説家になろう』様にも「召還社畜と魔法の豪邸 ~召喚されたおかげでデスマーチから逃れたので家主の少女とのんびり暮らす予定です~」というタイトルで投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...