庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
10 / 67
第2章 騎士の正体

第10話

しおりを挟む
 リーフは、研究所の前に着くと、大きく息を吸って、はぁっと吐き出す。
 ヘリムを一旦地面に置き、研究室の扉をノックする。

 トントントン。

 「リーフです。戻りました」

 リーフは扉を開け、ヘリムを背中から持ち上がる。

 「遅かったですね? どこで油を売っていたのです?」

 リーフは、アージェの言葉にドキリとする。

 「すみません。少し、森で休んでいました……」

 リーフの言い訳を聞き、アージェは、はぁっとため息をつくと言った。

 「では、その犬をこちらへ」

 信じていはいないが、これ以上追及するつもりはないようだ。

 「はい」

 リーフは両手でだらんと下げた状態で持っていたヘリムをそのまま胸の位置まで持ち上げた。

 「あなた、もしかして……」
 「え?」
 「犬は、お嫌いですか?」
 「に、苦手です……」

 リーフは、何がバレたとドキドキするが違い安堵した。
 普通なら両手で胸に抱く者が多いが、リーフは嫌そうに持っている様に見えた。

 『なんだよ、そのオリ! 結界付きじゃないか!』
 「え?」

 突然しゃべったヘリムに驚いて、リーフはヘリムを落としてしまう!
 アージェには、「ワン!」と吠えただけにしか聞こえなかっただろうから、余程嫌いだと思ったに違いないが、ヘリムは何故かリーフの後ろに隠れた!

 「ちょっと何隠れてるの!」

 ボソッとヘリムにリーフは言う。

 「おや、苦手なのに懐かれておりますね。仕方がありません。リーフがそのゲージに入れて下さいませんか?」

 アージェは、スッと彼の後ろにあるゲージを指差した。
 先ほどヘリムが言っていたオリだ!
 ヘリムは嫌だと言わんばかりに、ジッとリーフの目を見つめる。その為、チラッとリーフがアージェを見れば、あちらもジッとリーフを見ていた。

 仕方なしにリーフは、ヘリムに手を伸ばす。

 『待て! あのオリは結界付きだ! あれでは元に戻れない!』

 きゃんきゃん吠えるヘリムを無視し、リーフは捕まえようとする。
 リーフにしてみれば、犬のままでいてもらった方がいい! 知らないフリして、逃げられる!

 『だからちょっと待てって! 作戦中止だ!』

 ヘリムは四本の足をバタつかせ、暴れて抵抗する!

 「そんなに嫌ですか?」

 そう言って見かねてアージェがヘリムに近づいた時だった!
 ヘリムの姿が歪み、人の形を取った!
 片方をリボンの先を長くしたままだったので、ヘリムが踏んで解いたのだ!

 「ったく。待てって言ってるのに……」

 この場で人間に戻るとは思っていなかったリーフは驚く。

 「あぁ、リボンがほどけちゃった……」
 「リボンですか……」

 ついでたリーフの言葉に、アージェがジロッと睨む。咄嗟に自分の口を押えるも遅い。
 人間になったヘリムを見てもアージェは、驚いた素振りはなく、床に落ちているリボンを拾った。

 「これがほどけると、こうなると知っていたと言う事で宜しいですか?」

  そしてアージェは、拾ったリボンを掲げ、リーフに質問をした。問いかけ方は優しく語りかけてはいるが、目が笑っていなかった!
 怒っている! そうリーフは思った。

 「ごめんなさい。実は、森の中で少し遊んでいたら、リボンがほどけて……」
 「こういう状況になったと……」

 アージェが続けた言葉に、リーフは頷いた。

 「まあ、逃げ出さなかっただけマシですか……。まったく余計な事を。しかし困りましたね」

 アージェは、腕を組み、人間の姿になったヘリムを見て言った。
 リーフが思っていた通り彼は、ヘリムが人間だった事を知っていた様子だ。

 「あの……この人は何をして犬にされていたんですか?」

 リーフは、思い切って聞いてみた。
 もう犬が人間だったと知れたのだから、答えてくれるかもしれない。そう思った。

 「犬にされた経緯などは知りませんが、この者は人間ではなく魔獣でしょう」
 「え!?」

 リーフの問いに驚く回答をアージェは返してきた!
 ヘリム自身が言っていた通り魔獣だという。
 魔獣は、召喚師が召喚すると言われている。現代に召喚師がいないとされているのに何故そうなるのだと、リーフはあんぐりとする。

 「普通の犬が、エメラルドグリーンの瞳であるわけがありません。私も自分自身で見るまで、半信半疑でしたが、魔獣だったようですね」

 アージェも犬だったヘリムの瞳がエメラルドグリーンで、更に人間の姿になった事から魔獣だと確信したらしかった。
 つまり犬ではないかもしれないと、思っていただけだったらしい。

 「あの、ヘリムをどうするのですか?」

 どうやらリーフがリボンをほどいた事で、完全に封印が解け、ヘリムが魔獣だとアージェが確信に至ってしまった。
 もしかしたら魔獣ではないかもしれないヘリムは、魔獣として殺されるかもしれない。そう、リーフの頭によぎった!

 「ヘリムと言う名ですか……。先ほどから大人しいですが、そのまま大人しくしているのならすの姿でも構いませんが、一緒に来て頂きます」

 ヘリムは、頷いた。
 アージェは、ヘリムをはやりどこかへ連れて行く気らしい。そして、それにヘリムは従うようだ。

 「あ、じゃ、僕は……」
 「勿論、当事者なのですからあなたも来て頂きます!」

 アージェは、やはりリーフを逃がしてはくれない様だ。

 (僕は、巻き込まれただけなのに……。って、アージェさんは、魔獣が怖くないのかな? 魔術師でもないのに、どうする気なんだろう?)

 このままだと、自分も殺されるのではないかと思うリーフだが、ふとアージェを見て疑問が浮かんだ。
 ヘリムは、魔術が使えるようだった。
 封印するゲージを用意していた事から、きっとそれは想定内済みだったのだろう。だが人間の姿を取ったヘリムをそのままにしておくのだろうか?
 抵抗したらすべがない。マジックアイテムを他に用意しているって事だろうか?

 どこにマジックアイテムがあるのだろうと、ちらちらとリーフは周りを伺う。

 「諦めなさい。逃げれはしません」

 周りを伺うリーフが、逃げ出そうとしてると思ったアージェがそう言った。

 「え!? あ、そうじゃなくて……。えっと、アージェさんは、魔獣が怖くないんですか?
 「騎士が怖がってどうします」

 何を当たり前の事をという顔をして、アージェはリーフの質問に答えた。
 騎士は、魔獣に対応できるって事だろうかと、リーフは驚く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

処理中です...