庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
6 / 67
第1章 出会い

第6話

しおりを挟む
 犬から人間になったヘリムを唖然として見つめていたリーフは、ハッとする。
 何も気づかなかったフリをして、そのまま返そうとしていたのに、余計な事をしてしまった!

 何か犬にさせられていた原因があったに違いないが、リーフには関係ない! 逃げられる前に何とかしなくては!

 とリーフは、手に握っていたリボンに目を落とした。

 このリボンを首に巻けば、犬に戻るのでは?
 いや、今試せるのはそれしかない!

 リーフは、チラッとヘリムを見た。

 「驚かせてごめん。大丈夫だって。危害は加えないから。それより助けてくれたお礼をしたい。何か望みはないか?」

 逃げる所か、恩返しがしたいとヘリムは言い出した!

 「もう一度、犬に戻って! 僕は仕事で犬を連れ出しに来ただけで、あなたを犬として連れて帰らないとお金が貰えないんだ」

 犬に戻ってとだけ言えばいいものをつい何も考えずに素直に全部言ってしまった!
 素直に言ったが、戻って欲しい理由は違う所にあった。何事もなく終わらせたい! それが本音だった。

 「わかった。犬には戻るけど、他にはないのか?」

 ヘリムは逃げ出すかと思ったが、素直に受け入れると言う。

 (この人、一体何で犬になっていたんだろう?)

 あの豪邸からは逃げ出したかったようだが、別に人間に戻りたい訳でもなさそうだ。助けた恩からリーフの願いを聞こうとしているのか。だが、他にはないかと聞いてきている。
 リーフは意味がわからなかった。

 「に、逃げ出さないの? せっかく人間に戻れたのに。ボシェロさんという人の所じゃないけど、また犬に戻され捕まるよ」
 「それは問題ない。そのリボンの封印は解けてるから、自分でほどける。犬にされても今度は自分の意思で戻れるから」
 「え……」

 リーフは何やらやってしまったらしい。
 やはりリボンは、ほどいてはならなかった!
 今すぐにリボンをして犬に戻しアージェに引き渡そうと、リーフは身構える。

 「大人しくしててね。僕も手荒にしたくないから」
 「だから犬には戻るって。それに君の力じゃ俺を捕まえられない。俺は魔獣だ」
 「え?」

 魔獣と言う言葉に驚いた。
 魔獣がいたとしても昔の話。それに魔獣は、召喚師が呼び出すと言われている。現代に召喚師は存在しない。

 「何なの一体? 魔獣なんてあり得ない! 召喚師だって存在しない時代なのに! 人をからかうのもいい加減にしてよ! そんな嘘ばっかり言っているから犬にされたんでしょう!」

 ついリーフは叫んでいた。協力するように見せかけて、逃げ出す気かもしれない。
 キッとリーフは、ヘリムを睨む。

 「酷い言われようだな。君が知らないだけで召喚師は存在する! まあ俺は、はぐれ魔獣だけどな。いわゆるマスター不在って事だ」

 あくまでも魔獣だとヘリムは言い張る。

 さてどうしようかとリーフは考える。このまま捕まえられなかったと言い張るか? いやボシェロ家が、犬がいなくなったと言い出せば、リーフが連れ出したのは明白だ。だとしたら、このまま逃げ出す? だがこれもまた無理だった。村の名前をアージェに告げている。

 「どうしよう!」
 「そんなに悩まなくても。まあお金を増やせって言われてもできないが」
 「え? 何言って……」
 「何って、俺に何を頼もうかと悩んでいるんだろう?」
 「………」

 リーフは、大きなため息をついた。
 ヘリムをどうしようと考えていたが、当の本人は呑気な事を言う。もしかしたら本気で自分は魔獣だと思っているのかもしれない。

 という事は、逃げる気がないという事になるのではないか?
 だとしたら、適当に頼んで犬になってもらおう!

 そういう結論にリーフは達した。

 「えっと、さっきはごめんね。酷い事いったよね。それでもし出来そうなら、記憶を戻してもらおうかな」
 「記憶?」

 リーフは頷く。勿論、全く期待などしていない。

 「僕は二年前以前の記憶がないんだ。というか、自分に関する事が飛んでいる感じかな? だから曖昧な記憶しかなくて」
 「わかった。ではそこに座って」

 ヘリムは頷くと、地面を指さした。
 本気で記憶を戻す事が出来ると思っている。つまりは自分自身を魔獣だと思い込んでいる。

 リーフは言われた通りその場に座った。

 「一気に戻すと混乱すると思うから少しだけ。あ、その前に、マスターになってくれないか?」

 そっとリーフの右手を手に取ると、そうヘリムは言った。
 手を握られると思っていなかったリーフは驚くも頷く。早く終わらせたい。

 「宜しくな。マスター」

 リーフは、その台詞を聞き終えた頃には、意識を失っていた。倒れ込むリーフをヘリムは抱きかかえる。

 「では、見てみようか……」

 ヘリムは優しく、リーフに話しかけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【R18】ハメられましたわ!~海賊船に逃げ込んだ男装令嬢は、生きて祖国に帰りたい~

世界のボボ誤字王
恋愛
「婚約破棄だ、この魔女め! 役立たずめ! 私は真実の愛を見つけた!」  要約するとそんなようなことを王太子に言われた公爵令嬢ジョセフィーナ。  従妹のセシリアに黒魔術の疑いをかけられ、異端審問会に密告されて、とんとん拍子に海に沈められそうになった彼女は、自分が何かの陰謀に巻き込まれたのだと気づく。  命からがら、錨泊していた国籍不明の船に逃げ込むも、どうやらそれは海賊船で、しかも船長は自分をハメた王太子に瓜二つだった! 「わたくしには王家を守る使命がございますの! 必ず生き残って、国に帰ってやりますでげすわ!」  ざまぁありです。(教会にはそれほどありません) ※今気づいたけど、ヒーロー出るまで2万字以上かかってました。 (´>∀<`)ゝゴメンね❤

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...