庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

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第1章 出会い

第6話

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 犬から人間になったヘリムを唖然として見つめていたリーフは、ハッとする。
 何も気づかなかったフリをして、そのまま返そうとしていたのに、余計な事をしてしまった!

 何か犬にさせられていた原因があったに違いないが、リーフには関係ない! 逃げられる前に何とかしなくては!

 とリーフは、手に握っていたリボンに目を落とした。

 このリボンを首に巻けば、犬に戻るのでは?
 いや、今試せるのはそれしかない!

 リーフは、チラッとヘリムを見た。

 「驚かせてごめん。大丈夫だって。危害は加えないから。それより助けてくれたお礼をしたい。何か望みはないか?」

 逃げる所か、恩返しがしたいとヘリムは言い出した!

 「もう一度、犬に戻って! 僕は仕事で犬を連れ出しに来ただけで、あなたを犬として連れて帰らないとお金が貰えないんだ」

 犬に戻ってとだけ言えばいいものをつい何も考えずに素直に全部言ってしまった!
 素直に言ったが、戻って欲しい理由は違う所にあった。何事もなく終わらせたい! それが本音だった。

 「わかった。犬には戻るけど、他にはないのか?」

 ヘリムは逃げ出すかと思ったが、素直に受け入れると言う。

 (この人、一体何で犬になっていたんだろう?)

 あの豪邸からは逃げ出したかったようだが、別に人間に戻りたい訳でもなさそうだ。助けた恩からリーフの願いを聞こうとしているのか。だが、他にはないかと聞いてきている。
 リーフは意味がわからなかった。

 「に、逃げ出さないの? せっかく人間に戻れたのに。ボシェロさんという人の所じゃないけど、また犬に戻され捕まるよ」
 「それは問題ない。そのリボンの封印は解けてるから、自分でほどける。犬にされても今度は自分の意思で戻れるから」
 「え……」

 リーフは何やらやってしまったらしい。
 やはりリボンは、ほどいてはならなかった!
 今すぐにリボンをして犬に戻しアージェに引き渡そうと、リーフは身構える。

 「大人しくしててね。僕も手荒にしたくないから」
 「だから犬には戻るって。それに君の力じゃ俺を捕まえられない。俺は魔獣だ」
 「え?」

 魔獣と言う言葉に驚いた。
 魔獣がいたとしても昔の話。それに魔獣は、召喚師が呼び出すと言われている。現代に召喚師は存在しない。

 「何なの一体? 魔獣なんてあり得ない! 召喚師だって存在しない時代なのに! 人をからかうのもいい加減にしてよ! そんな嘘ばっかり言っているから犬にされたんでしょう!」

 ついリーフは叫んでいた。協力するように見せかけて、逃げ出す気かもしれない。
 キッとリーフは、ヘリムを睨む。

 「酷い言われようだな。君が知らないだけで召喚師は存在する! まあ俺は、はぐれ魔獣だけどな。いわゆるマスター不在って事だ」

 あくまでも魔獣だとヘリムは言い張る。

 さてどうしようかとリーフは考える。このまま捕まえられなかったと言い張るか? いやボシェロ家が、犬がいなくなったと言い出せば、リーフが連れ出したのは明白だ。だとしたら、このまま逃げ出す? だがこれもまた無理だった。村の名前をアージェに告げている。

 「どうしよう!」
 「そんなに悩まなくても。まあお金を増やせって言われてもできないが」
 「え? 何言って……」
 「何って、俺に何を頼もうかと悩んでいるんだろう?」
 「………」

 リーフは、大きなため息をついた。
 ヘリムをどうしようと考えていたが、当の本人は呑気な事を言う。もしかしたら本気で自分は魔獣だと思っているのかもしれない。

 という事は、逃げる気がないという事になるのではないか?
 だとしたら、適当に頼んで犬になってもらおう!

 そういう結論にリーフは達した。

 「えっと、さっきはごめんね。酷い事いったよね。それでもし出来そうなら、記憶を戻してもらおうかな」
 「記憶?」

 リーフは頷く。勿論、全く期待などしていない。

 「僕は二年前以前の記憶がないんだ。というか、自分に関する事が飛んでいる感じかな? だから曖昧な記憶しかなくて」
 「わかった。ではそこに座って」

 ヘリムは頷くと、地面を指さした。
 本気で記憶を戻す事が出来ると思っている。つまりは自分自身を魔獣だと思い込んでいる。

 リーフは言われた通りその場に座った。

 「一気に戻すと混乱すると思うから少しだけ。あ、その前に、マスターになってくれないか?」

 そっとリーフの右手を手に取ると、そうヘリムは言った。
 手を握られると思っていなかったリーフは驚くも頷く。早く終わらせたい。

 「宜しくな。マスター」

 リーフは、その台詞を聞き終えた頃には、意識を失っていた。倒れ込むリーフをヘリムは抱きかかえる。

 「では、見てみようか……」

 ヘリムは優しく、リーフに話しかけた。
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