庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)

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第1章 出会い

第3話

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 リーフの目の前にいる人物は、ニッコリ微笑んだ。

 「……中にどうぞ」
 「し、失礼します」

 リーフはハッとして、お辞儀をして建物中に入った。

 中は思ったより狭く、目の間に二人掛けのソファーがローテーブルを挟んで設置してある。

 「そこへ」

 手前のソファーに通され、リーフは腰を下ろす。目の前のソファーに、男性も腰を下ろした。
 彼の後ろの壁側には、机だけが設置してあり、ティーセットが置いてあった。
 すぐ右手の壁には扉があり『立入禁止』とプレートがつけてある。ここから先が研究室なのだろう。

 「で、今日はどのようなご依頼でしょうか」
 「依頼……?」

 リーフは一瞬意味がわからなかったが、お客だと思われていると気が付き慌てて否定する。

 「いえ、お客ではなく、張り紙の募集を見て。……魔術師証も持っています」

 先ほどまで眺めては溜息をついていた、魔術師証を男性に手渡す。

 「それは失礼しました。拝見します」

 男性は受け取ると、マジマジと見る。そして、魔術師証に目線を落としたまま呟くように言った。

 「リーフさんとおっしゃるのですね」
 「はい」

 それにリーフは、緊張気味に頷き答える。

 「え? これ今日発行されたものですか?」

 男性は発行日を見て驚いた様子を見せると、頷くリーフにすまなそうな顔をして魔術師証を返してきた。

 「申し訳ありませんが……」
 「え? 何でですか? 魔術師証もちゃんとあるのに!」
 「そうなのですが、私が求めている者は、すぐに仕事が出来る方なのです。今すぐにやって頂きたい仕事がありまして……。申し訳ありません」

 男性は座ったまま膝に手をつき頭を下げてリーフに謝った。

 (まさか取得日で、はねのけられるとは思ってもみなかった!)

 リーフはここで素直に帰るわけにはいかなかった。これを逃したら後がない! 何とか採用してもらおうと力説する事にする。

 「大丈夫です! 二年間、おばあちゃんのお手伝いをしていてそれなりに出来ます!」

 アピールが聞いたのか、ふむふむと男性は頷く。が――

 「おばあさんですか。もしかして出稼ぎに? でしたら魔術師団に入るのをお薦めします。ここより、はるかに給料がいいですよ」

 その薦めには、首を横に振る。
 リーフは、一時的にここで仕事が出来ればいいのである。ずっと王都にいるつもりはなかった。

 「いえ、出稼ぎではなくて。その……村に帰るお金がないんです。数か月……いえ、先ほど言っていた仕事だけでもいいので、させてもらえないでしょうか?」

 男性は、驚いた顔をして、リーフを見ている。

 「村はどちらで?」
 「あ、村はすぐそこのカルムン村です。言いたい事はわかってます! 魔術師なら飛んで帰れって事ですよね。でも有り金を全部持って出て来たので、帰ったところで生活をしていけないんです!」
 「その話、どこまで本当で?」
 「え?」

 リーフは焦りのあまり、力説しすぎたようだ。余計な事を言った。
 男性は鋭い目つきで、リーフを見ている。

 「おばあさんがいるのに、有り金を全部持って来た?」

 まさか話を疑われるとは思っていなかったリーフは慌てた。

 「あ……亡くなって……。いえ、もういいです。すみません」

 完全に嘘をついているという目つきで見られ、リーフは諦める事にした。わかってもらうより、次を探した方がいいと思ったからだ。

 「あ、そう言えば、騎士なのですよね?」

 男性の格好は、騎士というよりは研究者が着るような淡い水色の衣服に、剣を下げていた。マントがあるから騎士に見える感じだ。
 だから確認したのである。

 「えぇ。それが何か?」

 リーフの行動を伺う様に聞いて来た。

 万が一に誰かを頼らなくてはならない状況になった時にと、祖母から聞いていた名前があった。
 その方を頼る事にする。

 「えっと、バル……バルバ……ちょっと待って下さい」

 聞いた名前を覚えていなかった!

 リーフは慌てて巾着を取り出し、それを開けた。中には、少しのお金と折りたたんだメモ紙が入っていた。
 そのメモ紙の方を取り出す。祖母がメモをしてくれていた。

 「あ、バルバロッサさんだ! その方をご存知ありませんか? 確か騎士だと……」
 「その名前……それ、お見せなさい!」

 男性の言葉にメモ紙から顔を上げると、怖い顔つきでリーフを見ていた。そしてリーフの手からメモ紙を取り上げた!

 「え?」

 メモ紙には、こう書いてあった。


 バルバロッサ 紹介状 チェリ


 「何です……これは?」

 単語しかないメモ紙を見て、男性は眉をひそめる。

 「か、返して下さい! これでも、おばあちゃんの形見なんですから!」

 リーフは叫んだ! 本当に数少ない形見の一つだった。まあ文字だけしかないが。

 男性はリーフに、素直にメモ紙を返した。
 そして驚く事を言った。

 「形見でしたか。わかりました。今回の仕事だけお願いします」

 リーフは一瞬ポカーンとするのだった。
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