13 / 30
第十三話★
しおりを挟む
「そこまで嫌ですか? 油断させて猫になって逃げるなど……あなたがいないと、陛下がお会いするしかなくなります。無理なのはご存知でしょう?」
人間に戻った俺に、畳みかける様にビスナが責めたてた。
「わかっている。悪かった。というか、非常事態だったんだ」
「非常事態とは?」
「また毒を……」
「ピンピンしておいでですよね?」
「人の話を最後まで聞け! リリナージュが今回も毒を除去してくれた。彼女はどうやら触れるだけで、毒に侵されているかわかるようだ」
ビスナはまさかと言う顔つきから眉間にしわをよせる。
「まさか彼女に正体を明かしたりしておりませんよね?」
「そんな暇はなかった!」
「私が毒味した以外のものを口にしたのですか?」
俺は、首を横に振った。
「今回もまた、いつの間にか毒に侵されていたと……奇妙な事ばかりおきますね。彼といい……」
「彼?」
「あ、ご存知ありませんでしたか。廊下で薬師のエーネルが倒れていたのです。まあすぐに目を覚ますでしょう」
男? あの時の男か?
「彼の容姿は?」
「え? 今日は非番だったようですが、髪の色は黒。属性は土。何かありましたか?」
やはり逃げていた時にすれ違った男だ。
「そうだ。あの時、部屋に来た者の名前は?」
「あの時?」
「俺達がリリナージュの部屋にいた時に訪ねてきた者だ」
「彼女は、リリナージュと同室のアルザンヌです。もうあの時の台詞を気になさっているのですか? あの状況なら仕方がありません。それよりすぐに支度を」
ため息交じりに言われた。
あの時の台詞とはなんだ? あ、あれか! そういう関係とかいうやつか。
トントントン。
「お忙しい中申し訳ありませんが、ビスナさんはいらっしゃるでしょうか?」
「どういたしました?」
ビスナが扉を開けると、兵士が一人立っていた。
「薬師長のジェールエイトさんが、至急医務室まで来てほしいとの事です」
「わかりました。すぐに伺います。ありがとう」
「失礼します」
医務室? さっき話題に出た男に何か異変があったのか?
「俺も行こう」
「俺? 私もですよ、殿下!」
「細かいな! 二人の時ぐらいいいだろう」
「普段から気を付けなければ、咄嗟の時に使ってしまいます」
「あ~わかった。行くぞ」
「もう、今日は色々と……」
ブツブツとビスナが言っているが、まあいつもの事か。
俺はバカだな。ビスナが毒を盛るはずがない。
そう思って安心したところだったが、医務室に行って驚いた。何故か彼女がいたのだ。リリナージュが。
なぜここにいるのだ? 彼とはどういう関係だ? そう思うとなぜかちくりと心臓が痛かった――。
人間に戻った俺に、畳みかける様にビスナが責めたてた。
「わかっている。悪かった。というか、非常事態だったんだ」
「非常事態とは?」
「また毒を……」
「ピンピンしておいでですよね?」
「人の話を最後まで聞け! リリナージュが今回も毒を除去してくれた。彼女はどうやら触れるだけで、毒に侵されているかわかるようだ」
ビスナはまさかと言う顔つきから眉間にしわをよせる。
「まさか彼女に正体を明かしたりしておりませんよね?」
「そんな暇はなかった!」
「私が毒味した以外のものを口にしたのですか?」
俺は、首を横に振った。
「今回もまた、いつの間にか毒に侵されていたと……奇妙な事ばかりおきますね。彼といい……」
「彼?」
「あ、ご存知ありませんでしたか。廊下で薬師のエーネルが倒れていたのです。まあすぐに目を覚ますでしょう」
男? あの時の男か?
「彼の容姿は?」
「え? 今日は非番だったようですが、髪の色は黒。属性は土。何かありましたか?」
やはり逃げていた時にすれ違った男だ。
「そうだ。あの時、部屋に来た者の名前は?」
「あの時?」
「俺達がリリナージュの部屋にいた時に訪ねてきた者だ」
「彼女は、リリナージュと同室のアルザンヌです。もうあの時の台詞を気になさっているのですか? あの状況なら仕方がありません。それよりすぐに支度を」
ため息交じりに言われた。
あの時の台詞とはなんだ? あ、あれか! そういう関係とかいうやつか。
トントントン。
「お忙しい中申し訳ありませんが、ビスナさんはいらっしゃるでしょうか?」
「どういたしました?」
ビスナが扉を開けると、兵士が一人立っていた。
「薬師長のジェールエイトさんが、至急医務室まで来てほしいとの事です」
「わかりました。すぐに伺います。ありがとう」
「失礼します」
医務室? さっき話題に出た男に何か異変があったのか?
「俺も行こう」
「俺? 私もですよ、殿下!」
「細かいな! 二人の時ぐらいいいだろう」
「普段から気を付けなければ、咄嗟の時に使ってしまいます」
「あ~わかった。行くぞ」
「もう、今日は色々と……」
ブツブツとビスナが言っているが、まあいつもの事か。
俺はバカだな。ビスナが毒を盛るはずがない。
そう思って安心したところだったが、医務室に行って驚いた。何故か彼女がいたのだ。リリナージュが。
なぜここにいるのだ? 彼とはどういう関係だ? そう思うとなぜかちくりと心臓が痛かった――。
1
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる