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『レベル10―嘘は魔法使いの始まり ―』

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 どこに行ったんだろう?
 僕は、体育館に行って見たけどいなかった。
 もしかして、屋上か?
 階段を上がっていると、ガシッと腕を掴まれた! 危うく転ぶとこだった!

 「うわ。びっくりした……」
 「一体何をしてるんだ!?」

 掴んだのは、稲葉先輩だ。
 なんて、間が悪い!

 「何か杖を安達さんが持っていたけど……」
 「うふふ。知りたい?」

 ギョッとして僕達は振り向いた。
 ミーラさんが、嬉しそうにしている。

 「ちょっと待て! 変な事は言わなくていいから!!」
 「いや、言え!」

 モンスター云々って言ったって、信じて貰えないから!!

 「あのね。あの杖を使ってモンスターを出した人が、一番の権利を貰えちゃうの!」
 「一番?」
 「うんうん」
 「そうか! 安達さんと何か一番に出来るんだな! 俺も参加する!」

 うん!? 何だその一番は!
 稲葉先輩は、変な勘違いをして階段を駆け上がって行く!

 「ちょっと待って!」
 「待てるか! 君もずるいぞ!」
 「いや、だから違うから!」

 もう! なんでいつもミーラさんは、話をややこしくするんだー!!
 屋上まで行くと、ドアが開けっ放しになっている。そして、争う声がきこえる! ここで間違いない!

 屋上では、三人で杖を引っ張っていた!
 よかった! まだ、モンスターは出していなかった!

 「「「あ!!」」」

 げ! 三人に近づいていた稲葉先輩の足元に、奪い合っていた杖が転がった!
 それを稲葉先輩は、拾い上げた。

 「ありがとう。稲葉くん」

 そう言って、安達先輩は稲葉先輩に近づいて行く。
 渡してくれるもんだと思っているみたい。
 残念だけど彼は、参加する気満々です……。

 「確か、こうだっけ? スライム召喚!」

 そう言って、三人の目の前で稲葉先輩は、杖を振ってしまった!

 「えぇ!! そんなぁ……」
 「嘘だろう? 横入りなんて!」

 愕然とする大場と二色さん。
 スライムは無事召喚された! それはそれは、立派で倒し甲斐がある大きさだ!

 「どうだ!」
 「どうだじゃないわ! 私の杖~~!!」

 どういう事だと稲葉先輩は僕を見た。
 あぁ、もう、面倒だ!

 「るすになにする!」

 胸ポケットの杖を元に戻す言葉じゅもんで、杖は元の大きさに戻った。

 「すげー」

 稲葉先輩は、素直に驚いている。
 手品として凄いと思っていると思うけどね!
 この前レベルアップして、杖の形が変わった。
 最初は、先がくるっと丸まった何の変哲もない杖だったが、今はとぐろを巻いた様にねじれ、先はコウモリの様な羽の形になっていた!
 そして、羽の間には、小さなオレンジっぽい宝石がついている。

 「消滅!!」
 「おぉ!! もう始まってねぇ?」

 僕がスライムに杖を振ったと同時に、ドアの方から声が聞こえた。振り向けば、十数人の生徒が!? なんで?

 「君達かぁ。残念だったな。俺が権利を頂いた!」

 うわぁ!! 稲葉先輩! 変な事を広めないでほしい!
 後で言い訳を考えないと……。

 「何それ!! 酷くねぇ? 一人だけなのかよ!」
 「生徒会長って、かそう部に入部届出したのか!」
 「って、抜き打ちみたいの酷くねぇ?」

 うん? 何かよくわかんないけど、向こうは向こうで何か勘違いしているような!?

 「ぐわぁ!! なんだこれ!」

 げ!!
 稲葉先輩の悲鳴で振り返れば、赤くなったスライムが稲葉先輩の上に乗っている!
 今回のスライムって動けたんだ!!
 青から赤に変わったのは、ゲームでいうならある程度HPが削れると、狂暴化する状況と同じ現象らしい。本当は、赤くなるのは目なんだけどね!

 「何ぼさっとしている! 重い! どけろ!!」
 「消滅!!」

 杖を振ってスライムに攻撃するも消滅しない!!
 さすがデカいだけある!

 「消滅!! 消滅!! 消滅!!」

 やっと消えた!
 パチパチパチ!
 文句を言っていた生徒が、僕がスライムを消したのをショーだと思ったようで、拍手を頂きました。――嬉しくない!

 「まあ、生徒会長じゃ仕方ないか。元から勝てないだろう?」
 「あのさ。ここの場所誰から聞いたの?」
 「場所は聞いてないけど、今日が入部テストの日のようだって言っていたからさ!」
 「新学期の前に行うなんてなぁ……」

 あぁ! 入部試験だと思ったのか!
 これなら丸め込める!

 「そうそう。素質のある人って思ってね」
 「え? そうなの?」

 僕が、勘違いした生徒に合わせているのに、ミーラさんは不思議そうに首を傾げる。

 「そうなの!」
 「用事を思い出した!!」

 がばっと稲葉先輩は、起き上がったと思ったら杖を握りしめ走って行ってしまった!!

 「え! ちょっと杖!」

 僕の声は届かなかったようだ。
 まずい! 無意識にモンスター出されたらどうしよう。

 「俺達も帰ろうぜ」

 ぞろぞろと見学していた生徒も帰って行った。
 何か、どっと疲れた。稲葉先輩どこ行ったんだぁ。

 「あぁ……杖が……」

 ずーんとして、安達先輩が呟いた。
 そんなに欲しかったんだ杖。

 「えへへ。じゃーん!!」
 「え? 杖だわ!」
 「おぉ! 杖じゃん!」
 「ミラちゃん。最高!」
 「今日はエイプリルフールだからちょっとだけ嘘ついちゃいました! ちゃんと三人分作ったんだ。さっきの杖は、前作ったやつだよ」

 得意げにミーラさんは、三人に言った。
 三人共大喜びだ!
 はぁ。これからまた、モンスター退治かよ。

 「おぉ。これで俺も魔法使いだ!」
 「では、スライム召喚!」
 「じゃ、私もいでよスライム!」
 「俺も!」

 だぁ!! いっぺんに出すなよ!
 うん? あれ? 召喚されてない?

 「でないけど?」

 三人は、ミーラさんを見た。
 大場の言葉に、ミーラさんはえへっと笑った。

 「失敗作みたい!」
 「「「えーー!!」」」
 「いいんじゃないか? 杖は杖だろう?」

 不満そうな三人だけど、僕は助かった!
 で、稲葉先輩はどこ行った!
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