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『レベル4―僕らは桜舞う中で杖を振るう―』

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 話は少しさかのぼる――ミーラさんは突然、髪を黒くし転校生杖野つえのミラとして僕の前に現れた! そして、言う無も言わせずにペン型にした杖を僕の胸ポケットに入れた。先日、杖を小さくすると持ち帰ったモノだ。

 受け取る気はない。そうなかったのに!
 このままだと、杖のレベル上げを引き受けた事になる……。
 いや勝手にポッケに入れられただけだし!

 帰りに文句を言おうと思ったが部活があった。
 『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場おおば幸映ゆきはると同じクラスの二色にしき愛音あまねさんがエンジョイする為に作った部だ!
 僕はその部の部長だ。やりたくないがやらされた! そしてミーラさんは、部員になった。
 そういう訳で早速、部室で自己紹介や部の説明を……って、何をどう説明すればいいのやら。僕自身、何をする部なのかわからないでいた。
 取りあえず三人は、魔法使いの話で盛り上がっている。

 そして大場と二色さんは、今日は用事があるからと二人仲良く帰って行った。――二人ってもしかして付き合っているのだろうか?
 いやそんな事は今は気にしている場合じゃない!
 ミーラさんに声を掛けようとすると、逆に彼女から声を掛けて来た。

 「話があるの」

 僕にも用事があった。杖を返品しなくてはならない。
 僕は頷いた。

 「その杖だけど元の大きさに戻すのには、キーワードを設定する必要があって、それは七生くんが手に持って一番最初に言った言葉なんだって! で、小さい状態にするのには、その言葉を逆から言うと今のサイズに戻るらしいよ……」

 ミーラさんは、僕が頷くと同時に話し出す。
 僕は、あんぐりと口を開いて驚いた。
 せっかちに話し出したのもそうだが、内容にも驚いた!

 「ちょっと待って! これ受け取ったんじゃなくて、押し付けたよね? いやその前にその条件だったら、知らずに杖を手にして何か呟いていたらどうするところだったんだよ!」
 「あ、そう言えばそうだね。でも師匠に言われた通りしたんだけどなぁ」

 ミーラさんは、僕に言われて気が付いたようだ。相変わらず何も考えずに行動している。
 せめて、杖に触れないでとか一言いってくれよ……。
 知らんぷりを決めて触らなくてよかった!

 僕は、安堵のため息をつく。

 「決まった?」
 「何が?」
 「だから、杖を大きくする言葉じゅもん!」

 そんなすぐに思いつくかよ! 小さくする時には反対から言わなくちゃいけないんだろう? 忘れない言葉であまり使わない言葉だよな。

 僕は、うーんと考えて、ハッとする。

 いや、違うだろう! 杖を返すんだ!

 「ちょっと待って! 僕、受け取るとは言ってない! 報酬も聞いていないし!」
 「杖がレベルアップして、形態が変わったらお金を差し上げますだって」

 形態ってどれくらい上がったら変わるんだよ……。じゃなくて、どんな報酬も断るんだった!

 「いやお金いらないし!」
 「あ、ダメ!」

 僕はそう言って、杖に触れようとすると、ミーラさんは慌てて叫んだ。

 「なんだよ」
 「杖を掴んだまま何か発してしまったらそれが登録されちゃうから、決まってから触らせるように言われているの!」
 「あのな。僕は断ったんだけど!」
 「でも私、それがレベルアップして形態が変わらないと、元の世界に帰れないの! お願い引き受けて!」

 なんですとー!
 どっちも嫌なんですが!

 ミーラさんなら帰れと言っても帰らないだろうなぁ。そして、強引にモンスター召喚するんだろうなぁ……。
 う、受けるしかないのか?
 くそ! あの師匠め!

 「一つ聞くけど、どれくらいのレベルで形態って変わるんだ?」
 「さあ? 何も言ってなかった」

 可愛く首を傾げるミーラさん。――可愛く傾げたって駄目だろう! 恐ろしくレベル上げなくちゃいけなかったらどうするんだよ!

 「あぁ、もう! わかったよ! だけど一つだけ約束してほしい。勝手に召喚はしない事!」
 「はーい」

 僕の条件にニッコリと嬉しそうに、ミーラさんは返事をした。本当にわかっているんだろうか? 悔しいが僕が折れるしかない。

 さて、杖を大きくする言葉はどうしようかな。

 「決まった?」
 「まだ。短すぎても何かの拍子に触っていて大きくなったら困るし、長すぎると小さくする時に、訳がわからなくなる。もし万が一、周りに人がいて聞かれても大丈夫な言葉がいいんだよ」
 「わがままだね!」
 「ミーラさんだけには言われたくないよ!」

 つい怒鳴ってしまった。ここは部室だ。あまり大きな声を出すと外に聞こえ、先生が来るかもしれない。なにせ、職員室の横にあった道具置き場を部室にしたのだから。
 これ絶対、監視下に置かれていると思うんだけど、部が認定されれば何でもOKな二人は大喜びだっだけどね。

 「ねえ、自分の氏名は?」

 珍しくミーラさんが提案してきた。なるほど。そう言うのもありかな?

 「あきらなお。お……な……ら……! 却下だ!!」

 ミーラさんは、お腹を抱えて笑っている!
 なんて奴だ!!
 さっさと杖のレベルを上げて、向こうの世界に帰してやる!

 僕は深呼吸する。

 お、落ち着こう。
 さて、どうしようか。……そうだ。回文とかどうだろうか? 『しんぶんし』みたいに反対から読んでも同じ言葉になるやつ!
 これなら大きくする時も小さくする時も同じ言葉になる!
 問題は、何にするかだよな。変な言葉だと注目されるかもしれないし……いや、杖を使う時点で注目をされるのか? ――深くそこは考えないようにしよう!

 僕は考えた抜いて決まった言葉を杖を握りしめ発する。

 「るすになにする!」
 「何それ?」

 ミーラさんは台詞に驚くも、杖は大きくなった。

 「すご。本当に大きくなった!」

 僕は、本当に杖が戻った事に驚く。じゃ、もう一度。

 「るすになにする!」

 杖は、シュッと小さくなり、僕の手のひらに収まる。ペン型の杖に戻った。

 「え? 同じ言葉?」
 「回文って言うんだ。前からでも後ろからでも同じ言葉になるんだ」
 「へえ、なるほど! でもチョイスはいまいちだね」
 「うるさい!」

 知っている言葉はそんなになかったんだ! 後知っているのは、『しんぶんし』に『わたし負けましたわ』だけだった。――負けた何て呪文にしたくない!

 そして家に帰ってから気づいたが、別にあの場で決めなくてもよかった。色々調べてからでも問題がなかった。急かされてその場で決めた事が悔やむまれる。

 どうしてもミーラさんのペースに乗せられてしまうんだよなぁ。
 はぁ……。
 僕は、ミーラさんと出会ってから多くなったため息の数をまた更新するのであった。
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