偽りステータス冒険者は神秘級ステータス

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
36 / 50

035 ★侮れない相手★(リー視点)

しおりを挟む
 ムイさん達を捕まえる為に俺をここに送り込んだと思ったら、まさか俺を嵌める為だったとは……。
 これじゃグレイブさんに、知らせに行ってもらった意味がないだろう……。
 ちゃんと俺の意図がわかって、彼が知らせてくれたのに!

 どうせファビオンさんが着た後に乗り込むつもりだったんだろうけど、時間稼ぎして待っているんじゃなかった!
 逃げ出そうと思えば建物から逃げる事は出来た。でもそれじゃ、こいつらを捕まえられないと思って残ったのに、裏目に出た!

 こういう風に誘導されたら、俺には逃げ場はない……。

 「で、リー。反論はないのか?」

 反論? なんだいきなり?
 俺に何を言わせたい?

 「おぉそうだ。忘れていた。リーはこれをどうやって描いていた?」

 アーチさんはそうニッコリと、まだ怯えている三人に聞いた。

 「………」

 三人は答えない。まあ答えられないよな。俺、描いてないんだし。

 俺は魔法陣の所まで歩き屈んだ。そして魔法陣に触れてみた。
 これか、言わせたい台詞は……。

 「普通に描いてます。MPを消費して……」
 「だそうだが、ムイ間違いはないか?」

 顔だけムイさんに向け、アーチさんが聞く。

 「あぁ、そうだな」
 「ファビオンさんは如何です?」
 「私はそういう事は、わかりかねます」

 さっき口を滑らせて学んだのか、はいとは言わなかった。

 「なるほど。では彼が一人で全て描いたのでしょうか?」

 アーチさんの問いにファビオンさんは頷く。
 アーチさんがムイさんを見ると、彼もそうだと頷く。
 そして最後に俺を見た。

 「だから描いてないと言っている……」

 立ち上がりながら、一応最後のあがきを言ってみた。

 っぷ。
 何故かアーチさんは、吹き出した。

 「お前、本当に魔法陣の事には疎いな」

 何だいきなり! 今、それ関係あるか? って、そう思っていてこれ描いただろうって、矛盾しているだろう!

 「仕方がない。お前に弁解するチャンスやろうと思ったが俺がするか」
 「え……」

 どういう意味だ?

 「リー。お前魔力6だった」
 「そうですが。それが何か?」

 そう答えると、アーチさんは頷いた。

 「魔法を持っていない魔力6のMPの初期値はいくらだ?」
 「魔力5以上は、100だと思いますが? あとは熟練度が上がると、職業やスキルなどによって上がり方が違います」
 「そういうのはわかっているか」

 何なんだ一体。何を試されている?

 「あのさ。悪いんだけど、お勉強会は他でやってくれないか? お客様も待たせているし」

 俺をバカにしたような目つきで、ムイさんがそう言った。

 「俺はリーじゃなくて、おたくらに説明をしているんだがな」

 そうムイさんに、ニヤッとしてアーチさんが言う。
 この人一体何を考えているんだ?

 「失礼ですが、私にその話をされましても……」

 ファビオンさんが、困り顔でアーチさんに言った。

 「いえ、必要な事なので」

 そう返すと、真下に向けてアーチさんは指差した。つまり魔法陣を指した。

 「この大きさを描くのに最低MP500は必要なんです。それにこの魔法陣の線は、細さが均一です。素晴らしい腕前だ」
 「よかったな、リー。褒められたぞ」

 まるで茶化す様にムイさんが俺に言った。
 この人だって、アーチさんの言いたい事がわかっただろうに……。
 俺には描くのが不可能だって事が!

 「さて、普通の鑑定師の場合、五、六年職業鑑定をした所で、最大MPはほぼ増えません。何せ鑑定に来る人はそんなにいないので、MPを使わないですから。リー、お前今まで何人鑑定した?」
 「覚えている訳ないじゃないですか。でもまあ、百人ちょっとだと思いますけど……」

 普通なら最大MP100のままだろうな。俺は千超えてるけど……。

 「この程度なら100のままだ。さてMPが100しかないリーが、これを一人で描く事が出来たかって事だけど……」

 ギロリとアーチさんは、ムイさんを睨む。

 「MPを回復すればいいだけの話だろう?」
 「回復ねぇ……」

 ボソッとアーチさんが言う。

 「リー、お前が回復薬用意したのか?」
 「自分に必要がないモノを持っている訳ないでしょう」
 「こっちで用意した」

 ムイさんがそう言った。
 バカだな。そう言わせたいから俺に振ったのに……。

 「リー、教えてやれ」

 そこだけ俺にかよ……。
 はぁ……。

 「魔法を扱える冒険者がいるカムラッドには、MP回復薬が無償で支給される。だが、それを他に譲ったり売ったりすれば罰せられる。また使用するのも仕事の時だけで、私用で使う事も禁じられている」
 「買えばいいだけだろ?」

 俺が説明すると、案の定そう返って来た。

 「それ、どこで買った?」

 アーチさんには笑顔はない。真剣な顔つきで聞いた。
 ムイさんは平然を装っているけど、そう聞かれたのだから、自分の答えが不正解だったのに気付いたはずだ。

 「まずこの国では、そこら辺に売ってませんよ、ムイさん。見かけた事ないでしょう? 魔法を乱用されないように、この国では管理されているんです」
 「さっきお前、剣士しかいないって言ったよな? まずはその回復薬の出所を聞こうか。まさか今更ファビオンさんが持っていたなんて言わないよな?」

 俺が更に説明すると、アーチさんが畳みかける。

 「ま、まさか。私はそんなモノは見た事もありません! あ、私の疑いは晴れましたよね? 解放して頂いても……」

 ファビオンさんが今がチャンスとアーチさんに言う。
 マズイ! このままでは、こいつに逃げられる!

 俺が口を開きかけると、俺を制するようにアーチさんが手を俺の前に出した。

 「ファビオンさん。我々はあなたがここに入ったのを確認してから突入致しました。この魔法陣の大きさだと、十分足らずで描けるモノではないんですよ。申し訳ありませんが、あなたも一緒に来て頂きます」

 ファビオンさんは愕然とした顔つきになった。

 「何だよそれ……」

 そうだったら最初から言えばいいだろうが!!

 「お前、それすら知らなかったのか……」

 俺の呟きを聞いたアーチさんは、呆れた様に俺に振り向き言った。

 「連れて行け!」

 アーチさんがそう言うと、ムイさん達は連行されていく。

 「お前達も来いよ」

 そう俺に言って、アーチさんも出口に向かう。

 「よかったぁ! リーさんが捕まっちゃうかと思った~」

 フェアルが目に涙を溜めて近づき言った。
 確かに俺もそう思ったけど……これ、恥かいただけじゃないか!?

 はぁ……。
 ――やっぱりあの人は侮れない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...