偽りステータス冒険者は神秘級ステータス

すみ 小桜(sumitan)

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034 ☆駆け引き☆

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 「ムイ来たぜ」

 リーさんが解放されて十分後ぐらいに、鑑定する相手が到着したみたい。

 「おじゃましますよ」

 そう言って部屋に入って来たのは、高そうな布地の服を着た五十代ぐらいのおじ様だった。見た目は紳士。
 どうして、こんな人が?
 左手には指輪はない。冒険者ではないみたい。

 「今日は、三人ですか?」
 「あぁ、頼むよ」

 三人? おじ様の後ろを見れば、私と同じぐらいの年に見える男性が三人、青ざめた顔で立っていた。

 「おや? 彼女は?」
 「あぁ、ちょっとな。そこの奴がする」

 ムイさんは、リーさんに向けて顎をクイッとする。

 「身元は確かな奴だぜ。何せ冒険者ギルドの前職業鑑定だった奴だ。冒険者を続ける為にここに再就職だ」
 「………」

 そうムイさんに言われて、俯いていたリーさんが顔を上げた。

 「え……」

 リーさんは、眼鏡を外していた。そして礼をする。顔を上げた時には、眼鏡をしていた。
 自動鑑定を――職業鑑定をしたんだ。

 「初めましてファビオンさん。まさかあなた程の人がこのような事をなさっているなんてね。驚きです」

 そう言ったリーさんに、その場の全員が驚いた。

 「おや? お会いした事がありましたかな?」
 「いいえ。今日、初めてお会いました」

 ファビオンさんは、チラッとムイさんを見た。

 「お前まさか、彼を脅すつもりじゃないだろうな?」

 ムイさんが、リーさんを睨み付ける。

 「まさか。俺はファビオンさんを信用してるので脅したりしません。……が、あなたは信用できないんですよね」

 そう言いながらリーさんは、私の所まで歩いて来た。
 ムイさんは、顔を引きつらせている。

 「俺についてきて」

 ボソッとリーさんが私にそう言うと、床に描かれた魔法陣を指差した。

 「あなたはずっと騙されていたみたいですね。これ、偽物ですよ」

 そう言いながらドア付近にいる、ファビオンさんに近づいた。私もリーさんの跡をついて行く。

 「バカ言うな!」

 驚いてムイさんが叫ぶ。
 ハッタリなんだと思うけど、よく思いつくなぁ……。

 「何言ってるんですか。先ほど俺に、適当に言えって言ったのは誰ですか?」
 「てめぇ……」

 ムイさんは、ギロリとリーさんを睨む。……怖い!!
 ちょっと! やり過ぎなんじゃない?

 「俺、彼の言う通り元職業鑑定していたんです。魔法陣は嫌って言う程見て来たんです。それにあの魔法陣は、公開されていません。余程じゃないと描けませんよ」

 そうリーさんは、ファビオンさんに耳打ちした。

 ファビオンさんがギロッとムイさんを睨む。

 バン!
 音がした方を全員振り向いた。玄関のドアが開いた音だった!

 「はい。動かない!」

 その言葉が聞こえる前に私は、リーさんに抱き上げられた。ドアの前に立っていたラダーさん達を突き飛ばし、テーブルへジャンプする。そしてまたジャンプして衝立の向こう側に降り立った!

 「やっと来た……」

 リーさんは安堵したように言った。
 見ればアーチさんが居た。さっきの台詞はアーチさんだったみたい。そして、そのほかに五人程ぞろぞろと入って来た。

 「な、なんですか……」

 驚いて一番近くにいたペッダさんが言うと、アーチさんがニヤッとする。

 「ここで職業鑑定をしているとタレこみがあった……。そういう訳で、取りあえず全員確保!」

 そうサラッと説明するとアーチさんは、スッと右手を横に振った。それを合図にアーチさんの後から入って来た人達が、ペッダさん達を取り押さえる。

 「こ、これはどういう事だ!」

 そう叫んだのは、ファビオンさんだった。

 「あぁ、すみませんね。ご協力お願いします」

 アーチさんはそう言って、魔法陣が描かれた部屋に入る。

 「私は依頼をしに来ただけだ!」
 「ご依頼ってこちらを使った職業鑑定ですか?」
 「あはは。何を言っておられますやら」

 そっと遠くから見ていると、ファビオンさんはヒア汗をかいて答えていた。ムイさん達は、ムッとして何も語らない。

 「リー、これはお前が描いたのか?」
 「俺が描ける訳ないでしょう? ってこれどういう事ですか? 賊のアジトに放り込むなんて!」

 リーさんが部屋の前まで来て、アーチさんに抗議した。
 今抗議するんだ……。

 「ふん。賊? アジト? 意味がわからないな」

 ムイさんが、アーチさんたち睨み付ける様に言った。

 「こんな証拠まであるのに、シラを切ると?」
 「これが何の証拠に? ただの模様。アートだろう?」
 「そうだ! それにこの青年も本物じゃないと言った!」

 ムイさんに続き、ファビオンさんがそう言う。

 「本物だと思うけど? 出なければ職業は当てる事出来ませんよ。普通は」

 リーさんがファビオンさんにそう返すと、ファビオンさんはリーさんを睨みつけた。

 「まあ本物かどうかは後で調べるとして、どうしてそういう会話になったのか、お聞きしたいですねぇ~」

 腕を組みニヤリとしてアーチさんは、ファビオンさんに言った。
 確かにそうかも。アートなら本物か偽物かなんて関係ない。

 「この模様が賊と何の関係が? それに彼は否定したけど描いたのはリーだ。アートだと言ってな。これ、本物だったんだな」

 ニヤッとして、白々しくムイさんが言う。

 「そ、そうだ。その青年が描いたモノだ!」
 「はぁ? ちょと……」

 言い返そうと口を開くもアーチさんに睨まれ、リーさんは口を閉じる。……アーチさん、もしかしてリーさんを疑ってるの?

 「リーがこれを描いているのをあなたは見ていたと?」
 「えぇ」

 アーチさんがファビオンさんの返事を聞いて、チラッとリーさんを見る。

 「……描いてない」

 リーさんは、そう一言言っただけだった。

 「えぇっと失礼、お名前をお伺いしても?」
 「私はファビオンと申します」

 アーチさんの質問に素直に答えた。

 「後ろの子達は、ファビオンさんのお子さんでしょうか?」
 「いいえ。知り合いの子です。カムラッドに興味があると言うので今日は見学に」
 「ほう。見学ねぇ」

 ファビオンさんの後ろに怯える様にいる三人をジロリとアーチさんは見た。

 「彼らにもお話を聞いて宜しいですか?」
 「どうぞ」
 「君達は魔法陣に興味があるか?」

 アーチさんの質問に、三人は少し驚いた顔をするも揃って頷く。
 まさか私もそんな質問をするとは、思わなかった。てっきり魔法陣をリーさんが描いたのか聞くと思った。

 「そうか。ギルドにくれば本物が見れるぞ」

 一旦魔法陣に視線を向けてからアーチさんは、三人を見た。
 それって、その魔法陣は偽物ですって言っているように聞こえるんですが!

 リーさんを見れば、憮然としてアーチさんを見ている。そうだよね。リーさんを信じてないって事だもんね。
 私達最初から疑われている身だけど酷くない?

 「どうだ? これから行くか?」

 三人はどうしたらいいのかわからず、固まっていた。
 あ! 違った!?
 まずは逃げられない様に、ギルドに連れて行くつもりなのね!

 「いえ。彼らはもう満足していますので……」
 「満足? 偽物で?」
 「えぇ、描いている所を見たいと言っていただけですので……」
 「なるほど」

 アーチさんは、そう納得したように呟くと、ムイさんに向いた。

 「本来、偽物であっても紛らわしいので、魔法陣の様な物を描くのを禁じられている。以後、気を付けて欲しい」
 「それはすまなかった。剣士しかいないし、そこまで把握してなかったんでな」

 ちょっと! もしかして許しちゃうんですか!!
 って、彼らを疑っていたんじゃなかったの? そんなあっさり信じちゃうの?
 ……私達の方が信じられないって事?

 「ところでリー、お前は知っていたよな?」
 「……知っています」

 アーチさんが睨む様に言うと、リーさんは憮然として答えた。
 まさかと思うけど、リーさんじゃないとわかっていて言っている?
 リーさんを嵌める為に!! ど、どうしたらいいの?
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