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忍び寄る悪意
忍び寄る悪意~エピローグ
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査問会議から一夜明けた次の日、またもやジェスは中級魔術師総隊長の部屋を訪れ、あの黒いソファーに座っていた。
その向かい側に座っているのは、勿論アルドヘルムではない。
新たに着任した元研究員のウリエンだ。
そしてジェスの横には、ゼノも座っている。
何故自分が呼ばれたのか、ジェスにはわからなかった。
自分の疑いも晴れ、やっと一息ついたと言うのに、安らげない。
「そんなに緊張しなくてもいい。まあ名前ぐらいは昨日あったから知っているだろうが、私はウリエンと言う。今日を持って中級魔術師総隊長に任命された」
「はい……」
ジェスはなんと返したらいいかわからなかった。おめでとうございますも違う様な気がして、そっけない返事だけ返す。
「でだ、君にお願いあがる」
「え……」
総隊長のお願いには、ジェスはいい思い出が無い! 嫌な予感がして身構える。
「君は邪気が見えるのだろう?」
「……はい。まあ……」
ウリエンの問いに、ジェスは俯いて答えた。
邪気が見える者は少なく、それも貴重で本来なら初級魔術師になった時点でわかっていたのなら報告していなくてはいけない。
ジェスは、邪気が怖かった。だから報告せずにいたのだ。報告をすれば、それに関する任務を振り分けられる。
「そうか。なら、君には……」
ジェスは自分が何故呼ばれたかわかった。
邪気の事を黙っていた事を咎める為だ。そして、罰を科すのだろう。
洞窟で邪気で描かれた魔法陣があった事は報告してある。もう言い逃れは出来ない。
「マジックアイテム回収特別部隊の所属を命じる」
「……え?」
ウリエンの言葉に、ジェスは顔を上げジッと見つめた。
罰せられると思っていたが、そうではなく、部隊に入れと命じられたのだ。
また初めて聞く部隊だった。
「部隊長は、私だ。隊員は二人。君と隣にいるゼノ」
ウリエンは、そう驚く内容の事も付け加える。
このマジックアイテム回収特別部隊は、対アルドヘルムの部隊だった!
アルドヘルムは、魔女の能力を受け継いだリズを必ず狙ってくる。そこで彼女を守り、アルドヘルムを捕らえる為に作られた部隊だ。
ゼノは、邪気が見えない。そこで事情も色々知っていて、邪気が見えるジェスを引き入れる事になった。
勿論、この部隊に所属する事で、邪気が見える事を黙っていた事は帳消しになるという条件だ。つまり断れば、罰が待っている。
ジェスは、「はい」と頷き承諾するしかない。
ちゃんとマジックアイテム回収特別部隊として、名の通りマジックアイテムに関する仕事もするらしい。勿論、邪気に関する事は、ジェスに回ってくる。
「あの、ゼノさんは、特殊警ら隊でもあるんですよね?」
「いえ。そちらは脱退しこちらに配属になっています。研究員はそのままです」
「大変ですね」
「いえ。私は研究をさせて頂く代わりに、特殊警ら隊に所属していたのです。今度はマジックアイテム回収特別部隊に加わる事が条件になっただけなので……」
ゼノの返事にジェスは目を丸くする。
彼は、研究をしたいがために、部隊に入るのを引き受けたらしい。
人それぞれだが、そんなに研究は楽しいのだろうかと思うジェスだった。
「リズアルが魔女の能力を持つ者として、狙われた場合は密かに我々が動く事になる。君はリズアルにも気づかれない様に動くように」
「リズが狙われているという事は、本人には伝えないのですか?」
「ディルクに知れたら面倒ですからね」
ジェスの問いには、ゼノが答えた。確かに彼が言う通り、ディルクに知られれば、今以上にリズにべったりになるだろう。
「それにもし、彼女が魔女の能力を持った者として知れ渡れば、彼女を監視する対象として監禁しなくてはいけなくなる。悪意ある者が近づき、彼女をそそのかさない様に。あるいは、アルドヘルムの様な者に命の危険にさらされないようにする為にな」
魔女の能力は、妖鬼を捕らえる能力だと言った所で、魔女は魔術師としての頂点として崇められる存在だ。ゼノが推測した話を聞かせても誰も納得しないだろう。
それに魔女と言う称号が存在する以上混乱を招く。
「わかりました」
「いつも通りにしていればいいのですよ」
ジェスが頷くと、ゼノが隣でそう言った。
話は終わり、ジェスは総隊長の部屋を後にする。
ジェスは、どうしてこうなったのだろうと考えていた。
レネが妖鬼に乗っ取られた事から始まっている。――いや違う。
リズが魔女に選ばれた事から始まったのだ。しかも妖鬼の様に追い出すような事は出来ない。
騒ぐディルクを止める方が楽だった!
その時はそう思ったのだが――。
☆―☆ ☆―☆ ☆―☆
ジェスは、村に戻りリズの家に向かった。
ディルクが企画した、リズのお祝いの会にお呼ばれされたのだ。
初級魔術師として華々しくデビューしたお祝いをしたいらしい。
ジェスは、ため息しかでない。
とんでもない仕事始めだったというのに、華々しいって……という所だ。
リズ宅についたジェスが、扉をノックすると、リズの母親が出迎える。
「ジェスさん、ありがとう。ごめんなさいね。ディルクがわがまま言って」
「あ、いえ」
「来た! 遅いって!」
ディルクが叫ぶ。
「ジェスこっち」
レネが開いている隣の席を指差した。ジェスは頷き、そこに座る。
もう食事は、テーブルの上に用意されていた。ジェス待ちだったらしい。
「リズ! おめでとう!」
「ありがとう」
リズの横に座るディルクが言うと、ニッコリとリズはお礼を言った。
「では、乾杯!」
このままディルクが主導権を握ると、リズの話ばかりして事が進まないのを知っている父親がグラスを持って言った。
ジェス達も既にわかっていたので、グラスを持って乾杯をする。
リズの横でディルクは、これからの事を嬉しそうに語る。
それを食べる傍ら適当に相づちを打ちつつ、ジェス達は聞いていた。
「でだ。総隊長も新しくなったし、俺とリズが班を組めるように言おうと思う!」
うん? とジェスは、顔を上げた。
普通、特別な事が無い限り、班は小隊の中で組まれる。初級と中級が合同で動く時のみ混合になる。
「何言っているのよ。無理でしょう? リズの事は私に任せて。同じ小隊だから」
レネも班の事は理解している。そうディルクを諭す。
「同じ魔術師になったんだ! 俺は、リズと一緒に任務をしたいんだ!」
「私、レネと一緒に頑張るから中級になるまで待っていて。ね」
わがままを言うディルクに、優しくリズが言うとディルクは大きく頷いた。
安堵する皆だが、ディルクは驚く事を発する。
「うんじゃやっぱり、俺と班組んだ方がいいな! その方が早く中級になれる!」
「何を言っているんだよ! 認められる訳ないだろう?」
「大丈夫だって! 今回、見届け人になれただろう?」
ジェスが言った言葉に、どや顔でディルクは返してきた。
どうやらアルドヘルムのせいで、とんでもない前例を作ってしまったようだ。
「マジか……」
ボソッとジェスは漏らす。
リズが目立てば、それだけリスクが多くなる。
ディルクが事を起こす時は、必ず隣にリズが居ると言っても過言ではない。彼を止めなくてはならない。
「頼むからやめてくれよ。自分から事を起こすな!」
「じゃ、毎回レネと組む様にしてくれるように言って来る!」
「そう言うのは、小隊長が決める事だろう? 僕達が口を出す事じゃない!」
「変な虫がついたらどうするんだ!」
やっぱりだとジェスは思った。ディルクは、他の男にリズを取られたくないのだ。
「わかったわよ。それは私がお願いするから、ディルクは大人しくしていて」
そうレネは、ディルクをなだめた。
中級であるディルクが言うより、同じ小隊のレネが言う方が理に適っている。
完全に納得はしていないようだが、ディルクはレネの言葉に頷いた。
レネが頼んだ所で、毎回同じにしてくれるとは限らないが、レネなら上手くしてくれるだろうと、ジェスは安堵する。
これは思っていたより、リズを守るのも楽じゃないかもしれない――。
その向かい側に座っているのは、勿論アルドヘルムではない。
新たに着任した元研究員のウリエンだ。
そしてジェスの横には、ゼノも座っている。
何故自分が呼ばれたのか、ジェスにはわからなかった。
自分の疑いも晴れ、やっと一息ついたと言うのに、安らげない。
「そんなに緊張しなくてもいい。まあ名前ぐらいは昨日あったから知っているだろうが、私はウリエンと言う。今日を持って中級魔術師総隊長に任命された」
「はい……」
ジェスはなんと返したらいいかわからなかった。おめでとうございますも違う様な気がして、そっけない返事だけ返す。
「でだ、君にお願いあがる」
「え……」
総隊長のお願いには、ジェスはいい思い出が無い! 嫌な予感がして身構える。
「君は邪気が見えるのだろう?」
「……はい。まあ……」
ウリエンの問いに、ジェスは俯いて答えた。
邪気が見える者は少なく、それも貴重で本来なら初級魔術師になった時点でわかっていたのなら報告していなくてはいけない。
ジェスは、邪気が怖かった。だから報告せずにいたのだ。報告をすれば、それに関する任務を振り分けられる。
「そうか。なら、君には……」
ジェスは自分が何故呼ばれたかわかった。
邪気の事を黙っていた事を咎める為だ。そして、罰を科すのだろう。
洞窟で邪気で描かれた魔法陣があった事は報告してある。もう言い逃れは出来ない。
「マジックアイテム回収特別部隊の所属を命じる」
「……え?」
ウリエンの言葉に、ジェスは顔を上げジッと見つめた。
罰せられると思っていたが、そうではなく、部隊に入れと命じられたのだ。
また初めて聞く部隊だった。
「部隊長は、私だ。隊員は二人。君と隣にいるゼノ」
ウリエンは、そう驚く内容の事も付け加える。
このマジックアイテム回収特別部隊は、対アルドヘルムの部隊だった!
アルドヘルムは、魔女の能力を受け継いだリズを必ず狙ってくる。そこで彼女を守り、アルドヘルムを捕らえる為に作られた部隊だ。
ゼノは、邪気が見えない。そこで事情も色々知っていて、邪気が見えるジェスを引き入れる事になった。
勿論、この部隊に所属する事で、邪気が見える事を黙っていた事は帳消しになるという条件だ。つまり断れば、罰が待っている。
ジェスは、「はい」と頷き承諾するしかない。
ちゃんとマジックアイテム回収特別部隊として、名の通りマジックアイテムに関する仕事もするらしい。勿論、邪気に関する事は、ジェスに回ってくる。
「あの、ゼノさんは、特殊警ら隊でもあるんですよね?」
「いえ。そちらは脱退しこちらに配属になっています。研究員はそのままです」
「大変ですね」
「いえ。私は研究をさせて頂く代わりに、特殊警ら隊に所属していたのです。今度はマジックアイテム回収特別部隊に加わる事が条件になっただけなので……」
ゼノの返事にジェスは目を丸くする。
彼は、研究をしたいがために、部隊に入るのを引き受けたらしい。
人それぞれだが、そんなに研究は楽しいのだろうかと思うジェスだった。
「リズアルが魔女の能力を持つ者として、狙われた場合は密かに我々が動く事になる。君はリズアルにも気づかれない様に動くように」
「リズが狙われているという事は、本人には伝えないのですか?」
「ディルクに知れたら面倒ですからね」
ジェスの問いには、ゼノが答えた。確かに彼が言う通り、ディルクに知られれば、今以上にリズにべったりになるだろう。
「それにもし、彼女が魔女の能力を持った者として知れ渡れば、彼女を監視する対象として監禁しなくてはいけなくなる。悪意ある者が近づき、彼女をそそのかさない様に。あるいは、アルドヘルムの様な者に命の危険にさらされないようにする為にな」
魔女の能力は、妖鬼を捕らえる能力だと言った所で、魔女は魔術師としての頂点として崇められる存在だ。ゼノが推測した話を聞かせても誰も納得しないだろう。
それに魔女と言う称号が存在する以上混乱を招く。
「わかりました」
「いつも通りにしていればいいのですよ」
ジェスが頷くと、ゼノが隣でそう言った。
話は終わり、ジェスは総隊長の部屋を後にする。
ジェスは、どうしてこうなったのだろうと考えていた。
レネが妖鬼に乗っ取られた事から始まっている。――いや違う。
リズが魔女に選ばれた事から始まったのだ。しかも妖鬼の様に追い出すような事は出来ない。
騒ぐディルクを止める方が楽だった!
その時はそう思ったのだが――。
☆―☆ ☆―☆ ☆―☆
ジェスは、村に戻りリズの家に向かった。
ディルクが企画した、リズのお祝いの会にお呼ばれされたのだ。
初級魔術師として華々しくデビューしたお祝いをしたいらしい。
ジェスは、ため息しかでない。
とんでもない仕事始めだったというのに、華々しいって……という所だ。
リズ宅についたジェスが、扉をノックすると、リズの母親が出迎える。
「ジェスさん、ありがとう。ごめんなさいね。ディルクがわがまま言って」
「あ、いえ」
「来た! 遅いって!」
ディルクが叫ぶ。
「ジェスこっち」
レネが開いている隣の席を指差した。ジェスは頷き、そこに座る。
もう食事は、テーブルの上に用意されていた。ジェス待ちだったらしい。
「リズ! おめでとう!」
「ありがとう」
リズの横に座るディルクが言うと、ニッコリとリズはお礼を言った。
「では、乾杯!」
このままディルクが主導権を握ると、リズの話ばかりして事が進まないのを知っている父親がグラスを持って言った。
ジェス達も既にわかっていたので、グラスを持って乾杯をする。
リズの横でディルクは、これからの事を嬉しそうに語る。
それを食べる傍ら適当に相づちを打ちつつ、ジェス達は聞いていた。
「でだ。総隊長も新しくなったし、俺とリズが班を組めるように言おうと思う!」
うん? とジェスは、顔を上げた。
普通、特別な事が無い限り、班は小隊の中で組まれる。初級と中級が合同で動く時のみ混合になる。
「何言っているのよ。無理でしょう? リズの事は私に任せて。同じ小隊だから」
レネも班の事は理解している。そうディルクを諭す。
「同じ魔術師になったんだ! 俺は、リズと一緒に任務をしたいんだ!」
「私、レネと一緒に頑張るから中級になるまで待っていて。ね」
わがままを言うディルクに、優しくリズが言うとディルクは大きく頷いた。
安堵する皆だが、ディルクは驚く事を発する。
「うんじゃやっぱり、俺と班組んだ方がいいな! その方が早く中級になれる!」
「何を言っているんだよ! 認められる訳ないだろう?」
「大丈夫だって! 今回、見届け人になれただろう?」
ジェスが言った言葉に、どや顔でディルクは返してきた。
どうやらアルドヘルムのせいで、とんでもない前例を作ってしまったようだ。
「マジか……」
ボソッとジェスは漏らす。
リズが目立てば、それだけリスクが多くなる。
ディルクが事を起こす時は、必ず隣にリズが居ると言っても過言ではない。彼を止めなくてはならない。
「頼むからやめてくれよ。自分から事を起こすな!」
「じゃ、毎回レネと組む様にしてくれるように言って来る!」
「そう言うのは、小隊長が決める事だろう? 僕達が口を出す事じゃない!」
「変な虫がついたらどうするんだ!」
やっぱりだとジェスは思った。ディルクは、他の男にリズを取られたくないのだ。
「わかったわよ。それは私がお願いするから、ディルクは大人しくしていて」
そうレネは、ディルクをなだめた。
中級であるディルクが言うより、同じ小隊のレネが言う方が理に適っている。
完全に納得はしていないようだが、ディルクはレネの言葉に頷いた。
レネが頼んだ所で、毎回同じにしてくれるとは限らないが、レネなら上手くしてくれるだろうと、ジェスは安堵する。
これは思っていたより、リズを守るのも楽じゃないかもしれない――。
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