上 下
33 / 36
忍び寄る悪意

第32話~悪夢の査問会議

しおりを挟む
 ジェスは薄っすらと目を開けた。まだ何となく、体がだるい。それもそのはず、魔力をかなり消耗したのだ。
 五星封印の魔法陣を半径三メートル程で描けば、魔力もあっという間に消費されるというもの。だが、あれしか方法がなかった。自分では倒せる相手でも逃げる事も出来ない相手。
 アルドヘルムの油断を誘い、動きを封じるしかなかった。後は運しだい。

 「目を覚ましましたか? 気分はいかがです?」

 横から声が聞こえ振り向くと、イスに座ってジェスを伺うゼノがいた。
 二人がいる部屋は、窓がなく、部屋の中心に光を淡く放つ水晶体が浮く何もない部屋だった。

 「ここは……」

 「待機室です……」

 その言葉に、ジェスはどこだと思った。
 病院ではないだろう。

 「申し訳ありません。アルドヘルムがあなたに嵌められたと訴えた為、査問会議を開く事になりました。反論はしたのですが、力及ばず……」

 そうゼノは、静かに語った。
 どうやらアルドヘルムが言った捨て台詞が本当になったようだ。

 査問会議とは、訴えている事が本当か検証する会議で、嘘だと判断されれば、そこで処罰が決まる。決まってしまえば、余程の事がなければ、覆る事はない。
 殺される事はないが、下手すれば魔術師で居られなくなるかもしれない。

 ジェスは体を起こす。傷は癒され治っていた。

 「僕が、その査問に掛けられるのですか? アルドヘルム総隊長は?」

 「今回は、アルドヘルム総隊長と我々です」

 二方のどちらの主張が正しいか聞くようだ。

 ――それってかなり不利だ!

 立場的にアルドヘルムの方が有利だった。信頼も向こうの方があるだろう。

 「すみません。僕のせいでゼノさんまで……」

 「あなたのせいではありませんよ。私の詰めが甘かったのです。彼を完全に追い詰める事が出来なかった!」

 ゼノは、アルドヘルムがマジックアイテムの横流しに関与していると踏んでいる様子だ。
 水晶を持っていた事で追い詰めたつもりだったが、そうならなかった。

 「会議の用意が出来ました」

 突然一方の壁の一部がフッと消えて、男性が現れた。
 紫の衣装を着た男性だ。
 彼は鋭い紫の瞳で二人を見ると去って言った。

 ――え? ゼノさんのお兄さん?

 雰囲気は全然違うが髪が黒く、容姿が似ていた。

 「えっと……今の人は?」

 「彼ですか? 彼はロベルさんと言ってエミリアーノ様の側近です」

 「え!?」

 ジェスは、エミリアーノと言う名に驚いた。
 このイーバール国は、力ある者が支配する独裁主義国で、今はドニーノ・フェオリッソ総統が治めている。その息子が、エミリアーノだ。
 その側近がいるという事は、査問会議には、エミリアーノも出席するという事を示す。

 「行きましょうか」

 ゼノの言葉にジェスは頷き、ベットから降りた。
 あまりにも凄い展開にジェスは頭がついてこなかった。


 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆


 査問会議の部屋は、窓のない部屋で思ったより広くなかった。
 部屋に入ると一番奥に通される。
 驚く事に、アルドヘルムは束縛も何もされていなかった!
 ジェスとゼノ、アルドヘルムに一人ずつ特殊警ら隊が付き、目の前には議長のエミリアーノが立っていた!
 エミリアーノは、銀に近い灰色の髪で衣装も銀。瞳は黄金で一人華やかだ。
 そして彼の横には、先ほど呼びに来た側近のロベルが立ち、その横に白いローブを着た深緑の髪と瞳の風格のある四十代ぐらいの男性が立っていた。
 彼らは、ジェスとは対面で立っている。
 イスなどはなく、全員起立したまま行うようだ。

 エミリアーノとジェス達の間には、証言席があった。
 あの場に立ち、証言する事が出来る。

 「ではこれから査問会議を始める」

 全員揃い、エミリアーノのがそう宣言をして、査問会議が始まった。

 「今回は、三名の審議をする。一人は、中級魔術師総隊長のアルドヘルム。彼の容疑は、マジックアイテムの不正取り扱いお呼び、中級魔術師のジェスの殺害未遂。そして中級魔術師のジェスの容疑は、アルドヘルムにそれらの疑いが掛かるように仕向けた事。そして、その手伝いをマジックアイテム研究員兼特殊警ら隊のゼノが手伝った疑いだ」

 ジェスは、ゼノが本当に研究員だった事に驚いた。特殊警ら隊の身分を隠す為の嘘だと思っていた。

 「では、審議を始める。まず、ゼノ前へ」

 「はい」

 エミリアーノに呼ばれたゼノは、返事を返し証言席に立った。

 「話せ」

 「はい」

 頷き、ゼノは語り始める。

 「私は、総統から直接、不正取り扱いがある様なので調べる様に命を受けました。確かにどこからか、マジックアイテムが裏取引されているようで調べていた所、偶然ジェスからアルドヘルム総隊長が水晶を持っていたと聞き、その現場を押さえました。ですが彼は、いつの間にか置かれていたと主張しています」

 総統とは、この国のトップの事をそう呼ぶ。つまりエミリアーノの父、ドニーノの事だ。
 ゼノは直々に依頼を受けたと述べた。
 ジェスはその事に驚いた。ゼノは一体何者なのかと。一目置かれているのはわかる。

 「水晶とはそれだな? ウリエン」

 「はい。さようです」

 ロベルの横に立っていた男がスッと木箱を開けると、そこには水晶が入っていた。
 ジェスがあの時見た水晶だ。

 「では、ジェス。君はこの水晶に見覚えはあるか?」

 「はい。アルドヘルム総隊長が持っていた物です」

 エミリアーノの質問にジェスは素直に答える。

 「では、アルドヘルムはどうだ?」

 「はい。気づいたら置いてあった物です。今考えると彼が置いて行ったのではないかと。その後すぐに、ゼノが来て驚きました。私はその時から嵌められていたのです!」

 そう驚く内容の供述をしてアルドヘルムは、警ら隊を挟んだ向こう側にいるジェスを見て言った。
 ジェスは、まさか自分のせいにされるとは思いもよらなかった。これは立証のしようがない。ただゼノに会って、水晶の事を述べた事は事実だ。
 アルドヘルムに罪を着せようとしたと捉える事も出来る。

 「わかった。ゼノは戻れ」

 ゼノは頷くと、ジェスの隣に戻った。
 これ以上は詮索はされなかった。

 「では次は、アルドヘルム前へ」

 「はい」

 アルドヘルムは、一礼して証言席に立った。

 「あなたが、ジェスを殺そうとしたと訴えがあった。相違ないか?」

 「まさか、私が彼を殺す理由はありません」

 「では、わざわざあの丘に行った理由はなんだ?」

 エミリアーノが聞くと、アルドヘルムはジェスに振り返った。

 「彼に呼び出されたからです」

 予想外の答えにジェスは、あんぐりとする。
 あり得ない。緊急用のマジックアイテムで呼び出したのだ。これは記録に残っている。それなのに凄い言い訳だとジェスは思ったが、アルドヘルムは、平然としている。

 「彼は緊急用のマジックアイテムを使い、ランベールに襲われたように偽装したのです」

 そう語り始めたアルドヘルムの物語は、よくも思いついた物だとジェスが感心する程の内容だった――。
 緊急用のマジックアイテムが使われ、ジェスからSOSが送られてきた。
 驚いていた所、アバーテの娘、イルとミルがアルドヘルムの元に逃げ込んで来る。彼女達が、ジェスに殺されかけたと言っていた為、SOSは誤報だと伝え、丘に向かった。
 そこにはランベールがおり、彼はまだその時は息があった。
 ランベールは、イッロ宅で雇われている魔術師で、前日にジェス達を襲った者で、ジェスからは、ランベールがマジックアイテムを賊に横流ししていたと報告を受けていた。
 だが驚いた事にランベールは、首謀者はジェスで口封じで殺されると言っている最中に、目の前でジェスに殺されたと述べる。
 ジェスを問い詰めていた所、策にはまり動きを封じられた。そこへ運よくゼノ達、特殊警ら隊が来たのだが、ジェスの事を信じ切ったゼノによって捕らえられたと堂々と述べたのだった!

 あまりの事にゼノも驚いたようで、何も言わなかった。

 「イルとミルに聞いて下さると確認を取れると思います」

 そう驚く事もアルドヘルムは、付け加えた!
 多分、アバーテを脅したのだろう。それで二人に嘘の証言をさせた。
 だが二人がそう証言すると、アルドヘルムが言っている事が正しい事になる!

 「ジェスは、仲間まで騙しております。彼らを上手く使ったのです。結界が得意な者と捕らえられたフリをして、そこから脱出して、危険が迫った仲間を救出するフリをして、自分以外をランベールに殺させようとした。報告書には、ジェス一人だけ攻撃されなかったと記されています」

 確かにアルベルトとの言う通り、ディルクのお蔭で結界から脱出でき、洞窟内では、皆から一人離れていた為に、岩の下敷きにはならなかった!
 それをまさか、逆手に取ってこんな風に言われるとは、ジェスは思わなかった!
 全て本当なので、言い訳のしようがない。

 「ジェス、何か反論はあるか?」

 「確かに、アルドヘルム総隊長の言う通り、一人岩の下敷きになりませんでしたが、それは偶然です。ムチで攻撃した為に一人まえに出ていたんです! それに彼女達を殺そうなどとしていません!」

 エミリアーノの問いに、ジェスは事実を言う他なかった。

 「なるほど。彼女達は君に殺されかけたと言っているが、あくまでも違うと言うのだな?」

 エミリアーノのに問われ、そうですとジェスは頷いた。
 ジェスの心証は悪いだろう。
 このままだと、全ての罪を擦り付けられるが、全く何も策が浮かばなかった!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】大切にするってお約束しましたよね。忘れた人には⋯⋯お仕置きしたい人が大集合しました

との
恋愛
「付き合っている恋人がいるんだ。二人とも愛してる⋯⋯」 はじまりは国王の決めた婚姻だったけれど、毎日のように会いに来て『愛してる』『結婚する日が待ち遠しい』と囁いていた婚約者。 ところが、結婚式の前日になってまさかの二股報告。 とても仲良くしていた日々はなんだったの⋯⋯。 せめてもう少し早く教えてくれたらと思いつつも、婚約者に対してあまり無理を言えない過去を持つリリスティーナは、 「では、⋯⋯⋯⋯」 この決断を死ぬほど後悔した主人公と仲間達の戦い。 前作【育成準備完了しました。お父様を立派な領主にして見せます】登場人物も出てきます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済で、約九万文字程度。 R15は念の為・・

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...