上 下
25 / 36
忍び寄る悪意

第24話~騙された四人

しおりを挟む
 ジェスは、外を見ながら御者側の壁をトントントントントンと五回叩いた。これは別行動の合図だ!
 これと同時に、猛スピードで走る馬車の左右の扉から四人は飛び出した!

 ジェス達が逃げ出したのに気が付いたのか、賊は二手に分かれ、一方は馬車を追いかけ、一方は宙に浮く四人に向かって走って来る!

 「あきらめが悪いわね。私達浮いてるのに」

 ため息交じりにレネが言った。
 賊の狙いは金銭だろう。つまり魔術師が持っている旅費だ!
 だが奪うにしても空を浮ける者相手では、どうにもならない。普通、賊は浮けないからだ。

 「あいつら何がしたいんだ?」

 「わからないけど、構わず行こう! 僕達は別に道なりに進まなくてもいいんだから」

 ジェスは、ディルクにそう答えた。
 一直線に目的地であるイッロ宅に向かえばいい。一山あるが、ジェス達には関係ない。

 「ちょっと!」

 レネは驚いて、体をひねった。賊が矢を放ったのだ!

 「もしかして命を狙ってるの?」

 「え? まさか?!」

 リズが言った言葉に、ジェスは驚いて返す。
 一般人に手出しをしない事になっているとは言え、そんな事をすれば、その賊は探し出され壊滅させられる!

 「よく、わかんないけど、あいつら正気じゃない!」

 ディルクはそう叫ぶと、リズを庇いながら都市テーバの方角に、移動を始める。
 ジェスは、ポーチからムチを出し、万が一の時は矢を払い落とす為に準備して、一番後ろを飛んでいく。

 ――まさかと思うけど、僕達だってわかっていて襲ってないよね?

 何となくそんな気がするジェスだった。


 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆


 矢の事もあり少し高めの高度を飛び四人は移動した。
 本当は、次の朝に着くはずが、一時間程で到着し、イッロ宅の近くに降り立った。

 「結構寒いのね」

 リズは両手にはぁっと息を吹きかけ呟いた。

 「大丈夫?」

 ディルクは、寒がるリズの両手を握ると温めようと擦る。はたから見ると恋人同士のようだ。
 見慣れているジェスとレネは、特段何も感じないが、通りを行く人たちはチラッと手を握り合う二人を見ていた。

 「どうしようか。前日になっちゃったけど……」

 「そうねぇ。伺ってみましょうか?」

 ジェスの問いにレネが答え、そのまま訪ねる事にした。
 最初から承諾は得ていない。ただ向こうはそれでも、明日来るだろうと身構えてはいるはずだ。

 「しかし、金持ちってどうしてこう大きな家に住むんだ?」

 ディルクは目の前のイッロ宅を見て感想を述べた。
 イッロ宅は、本宅と別宅に分かれていた。別宅は主に、魔術師が寝泊りしている建物だ。客人もそちらに泊まる。
 そして奥には、マジックアイテムが保管してある倉庫もある。

 「何か御用ですか?」

 後ろから声を掛けられ驚いて四人は振り向いた!

 紫を薄めた色の藤紫色の髪と瞳の魔術師が立っていた。
 凄くわかりやすく、腰に杖をさしている。雇われ魔術師は、魔術師だとわかるように暗黙のルールで、杖を持ち歩く事になっていた。

 「僕達は明日伺う事になっていた、魔術師隊の者です。イッロさんはいらっしゃいますか?」

 「それはご苦労様です。私はランベールと申します。イッロ様は、外出中ですが……。そうご連絡を入れてあったはずです。戻りは明後日になります」

 ジェスがそう言うと、イッロが雇ったと思われるランベールがそう答えた。
 さて、どうしたものかと、四人は顔を見合わせる。

 「うんじゃ、帰るか?」

 「え? ここまで来て?」

 ディルクがリズの仕事始めだとしても気乗りではない為、帰るを選択をするもレネが難色を示す。

 「あの、本来は中級である僕達が、見届け人をするのですが、ランベールさんにその役割をして頂き、彼女達の仕事始めをさせて頂けないでしょうか?」

 「私がちゃんと管理しているのですが……」

 ジェスの提案にため息交じりで、ランベールは返す。
 彼が、マジックアイテムの管理をしている魔術師のようだ。

 「お願いします」

 リズがガバッと頭を下げた。それに続き、レネも下げる。

 「………」

 「お願いします」

 ジェスも下げる。突っ立ったままのディルクの頭をジェスが抑えて、強制的にディルクも下げさせられた。

 「痛いって!」

 「……わかりました」

 「え……」

 一応全員が頭を下げると、ランベールが承諾し、こんなにあっさりと認められると思っていなかったジェスが驚く。

 「やったぁ」

 リズが本気で喜んでいた。

 「いいのかよ。主人がいないのに……」

 納得がいかないディルクがそう質問をする。
 それに慌てたのは、ジェスだ!

 「バカ! 見せてくれるって言ってるんだから……」

 ボソッとジェスは、ディルクに言うが、フンとディルクはそっぽを見る。

 「何度も来られても困りますので。但し、初級の方だけです。女性だとお聞きしてますが。そのお二人ですか?」

 ランベールは、レネとリズを見て言った。
 ジェスが言った条件での確認なら承諾らしい。

 「ありがとうございます。では僕達はここでお待ちしています」

 「いえ。別宅でお休みください。こちらです」

 そういうとランベールは、敷地内に入って行く。
 敷地内は人の気配がなく静かだった。

 「誰もいないのですか?」

 「イッロ様について行っています。私が留守を預かったのです。ここです。お部屋にご案内しますので、お二人はそこでお待ちください」

 別邸に着くと、リズとレネを残し、ジェスとディルクは、ランベールについて行く。
 二人は、三階の一番奥の部屋へ通された。

 「こちらでお待ち下さい。一時間程で戻ると思いますので、部屋からは出ない様にお願いします」

 ランベールが軽く頭を下げ言うと、ジェスは頷いた。
 二人が部屋に入ると、ランベールが扉を閉めた。ランベールが遠ざかって行く気配がする。
 部屋は、窓もありここに閉じ込める気かと思っていたジェスは、拍子抜けする。

 「もしかして、ジェスは気づいてないのか? ここ結界が張られている」

 「え? 張った気配あった?」

 突然のディルクの言葉にジェスは驚く。

 「これ、最初から張ってあったんだと思う。言うなればトラップ的な結界」

 「嘘だろう?」

 驚いてジェスは、窓を開ける。窓は開くが手を伸ばせば、バチッと弾かれた!
 ディルクの言う通り、結界が張られていた。

 「どういう事?」

 今日来た事は想定外のはず。しかも主はいない。普通は通さないだろう。
 最初から用意していたという事は、来たらここに閉じ込める手はずになっていたって事だ。前日から準備をして待っていた!

 ――何の為に? って、僕達だけ?

 「ねえ、ディルク。何故僕達だけ閉じ込めたの?」

 「……確かに! だー!! 出るぞ! 今すぐここから出る! いいよな!」

 ランベールは、レネ達に何かするつもりかもしれない!
 そしてこれは、もしかしたらランベールの独断かもしれない。レネ達に何かをすれば、イッロはこの国には居られなくなる!
 拒む事があっても手は出さない!

 「この結界壊せそう?」

 ジェスがディルクに聞くと、彼は頷いた。

 「けど壊さないで、ここから出る! 壊してバレてリズに何かあったら大変だ!」

 リズが一番のディルクらしい選択だ。
 ディルクは性格は攻撃的だが、術で得意なのは守りだった。

 「取りあえず、俺の結界をねじ込んで、そこから出る!」

 「うん。お願いするよ」

 ジェスは頼もしいと思う反面、ため息が出る。ディルクは、ジェスより年下だと言うのに、自分に出来ない事を臆する事無く実行しようとしている。

 ディルクは、ジェスが開けた窓に手をかざす。

 「よし、準備OKだ! 行くぞ!」

 ディルクは窓の部分だけ自分の結界をねじ込み、その結界に穴を開けた。そこから飛んで、外へ出た! ジェスもそれに続く。

 「どこに行った?」

 「倉庫には連れて行かないよね? 強い魔力も感じないからまだ何もされてないと思うけど……」

 ジェスはそう言って辺りを空から見渡した。
 レネも飛べない事になっているので、三人は歩いて移動しているはずだ。
 本来は倉庫に案内されるはずだが、ジェスがいる場所から倉庫は見えるが人の気配はない!

 「やっぱり帰ればよかった!」

 怒鳴るようにディルクが叫んだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...