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忍び寄る悪意

第22話~ゼノのお友達宣言

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 ジェスは何とか間に合い、リズの家の前で合流していた。

 「リズ、忘れ物はない?」

 「ないわ。ばっちりよ」

 心配そうに言うディルクに、頷いてリズは答えた。

 「まさかまた四人で組むなんて、嫌な予感しかしないよ……」

 「何か言った?」

 冗談で言ったジェスの言葉に、レネは軽く睨む。
 そして、皆から笑いがこぼれた。

 「もう大丈夫そうだね、レネ」

 「勿論よ! 下級魔術師に降格させられたけど、魔術師でいられたし」

 ジェスの言葉に力強く頷き、レネは言った。

 「本当によかったわ。私達もお咎めなしだったし。ゼノさんって本当に、凄い人だったのね」

 「呼びましたか?」

 リズの語りが終わると、頭上から声がした!

 「うわぁ、びっくりした! って、出たな!」

 四人が頭上を見上げると、白い魔術師の服ではなく、黒系の服を着たゼノが浮いていた。その彼に、ディルクは身構える。

 「こんにちは。元気そうで何よりです」

 四人の前に降り立ち、ゼノは挨拶をした。

 「出たな! リズは渡さない!」

 リズを庇うように、ディルクは前に出る。

 「別にあなたの大切なお姉さんを奪ったりはしませんよ。先ほど、ジェスさんにお会いしたので、ちょっとご挨拶に伺っただけです」

 「どうだか……」

 「もう、ディルク!」

 リズは、呟くディルクを軽く睨むとゼノに頭を下げた。

 「ディルクがこんなで、ごめんなさい。ゼノさん、本当にお世話になりました。お礼が遅くなりましたが、ありがとうございました。ほら、ディルクも!」

 「……どうも」

 リズに言われ、渋々ディルクも頭を下げる。

 「ゼノさんのお蔭で、魔術師のままでいられます。ありがとうございます」

 続いてレネもお礼を言う。

 「先ほどは失礼しました。本当にありがとうございました」

 ジェスも頭を下げる。

 「そんなに、かしこまらなくても宜しいですよ。私は、善処するようにお願いをしただけですので」

 ニッコリと言うゼノに、四人全員、そんなはずはないと思った。
 妖鬼を捕らえたが、城から遣わされた者、つまりゼノさんを騙し、勝手な行動をした事にお咎めなしだったのだから普通ならあり得ない。

 「どうしてもお礼をという事でしたら、是非あなた達のお友達にして頂けませんか? あなた達を呼び捨てで呼んでも構いませんか? 勿論、私の事も呼び捨てで構いません」

 突然のゼノの提案に、四人は驚く。しかも内容がお友達だ。
 ジェスは何か裏があるかもと思うも頷く。

 「呼び捨て? 別に俺は構わないけど?」

 「僕も構いませんが、ゼノさんの事は今まで通りさん付けで呼ばせてもらいます」

 「私も構わないわ」

 レネも頷く。

 「私も。リズでいいです。宜しくお願いします」

 リズがそう言ってほほ笑むと、ゼノは目をきらんと光らせる。

 「ではぜひ、中級魔術師になりましたら私の研究室においで下さい! 一緒に研究を致しましょう!」

 「ちょっと待て! 何を言っているんだ! リズは中級魔術師になれなかったら研究者になるって言ったんだろうが! っていうか、さっきと言ってる事と違ってないか!」

 ゼノの言葉に、ディルクが速攻返す。

 「おや? そう言えばそう言っておられましたね。では、気が変わったら声をお掛け下さい。いつでも歓迎いたしますので……」

 「気なんて変わらない!」

 「もう、ディルクったら……」

 ゼノに食って掛かるディルクに、リズは呟く。

 「本当に目を付けられちゃったんだ、リズ……」

 その風景を眺め、ジェスも呟いた。

 「そうでした! これから仕事始めとか。リズ、おめでとう。頑張って下さいね」

 「はい。ありがとうございます!」

 嬉しそうにゼノにリズは返す。

 「っち。話を替えたな」

 「ディルクも見届け役を頑張って下さいね」

 「……おう」

 ゼノを睨んでいたディルクだが、ゼノにそう振られ満更でもなさそうに返した。

 「乗せられてるし……」

 「あ、そう言えば、レネも二度目の下級魔術師の仕事始めだよな!」

 レネの呟きを聞きとがめ、ディルクは意地悪く言った。

 「ちょっと!」

 レネが睨むもディルクは知らんぷり。

 「ディルク、もう、やめなさい」

 「二人共頼むから、出掛ける前から喧嘩しないでくれるかな……」

 やれやれとジェスも声を掛けた。

 「そうでした。ジェス」

 「え? 僕?」

 ゼノから声を掛けられ、ついジェスは身構える。

 「ムチをお持ちですよね? 見せて頂いて宜しいですか?」

 「え? ムチ……ですか? いいですけど」

 ジェスは、何をする気だろうと思いながらも、ムチをポーチから出してゼノに手渡した。
 ゼノは受け取ると、自分のポーチから白いムチをを出した。皆はそれに注目する。

 「これは、私からのプレゼントです。どうぞ」

 「え? いや、でも……。今までので十分なのですが……」

 ジェスは狼狽える。
 意味がわからなかった。プレゼントと言いながら、持っていたムチを取り上げた。これは交換と言う。

 「これは、私が造った魔力を吸い取るムチ。マジックアイテムなのですよ!」

 「え! それって、僕に魔力を供給されるって事ですか!?」

 ゼノの言葉につい、白いムチに手が伸びた。

 「いいえ。吸収するだけです。でも欲しいのであれば、後で魔力をその水晶にでも入れて差し上げましょうか?」

 「いえ、結構です。ありがとうございます」

 その水晶とは、魔術師の証の水晶の事。ジェスは、出した手を引っ込める訳にはいかず、そのまま白いムチを受け取った。

 ――なぜ、僕まで目を付けられた……。

 ジェスは、こんな事ならムチでトラと対戦したなどと話すのではなかったと後悔する。ため息をつきながらもムチをポーチにしまう。
 それを満足げに、ゼノは見ていた。

 「さて、私はもう一か所寄る所がありますので、これで失礼しますね。引き留めてしまって、申し訳ありません。確か、馬車での移動ですよね?」

 ゼノに問われ、四人はそうだったとハッとする。

 「そうだった。馬車だった!」

 ディルクは叫ぶ。いつもは飛んで移動の為、その気分でいた。
 今日は下級魔術師の仕事の為、移動は馬車だ。

 「あの、色々とありがとうございました! 私達は行きます」

 リズが頭を下げると、三人も頭を下げ、四人は一斉に走り出す。

 「頑張って」

 そう声を掛けると、ゼノもその場を飛びだった。彼は鈴の件で、これから村長の家を訪ねに行くのだった。
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