上 下
5 / 11

第五話

しおりを挟む
 愛を受けれますわと思いましたが、まさか直ぐに二人っきりにさせられるとは思いませんでしたわ。

 広い部屋に置かれた立派なソファに二人並んで座っている。

 次の日、ソルムナード様にお呼ばれして、彼が泊まる国賓用の部屋へ訪ねると、ソルムナード様は人払いをなさったのです。

 何もなさらないとは思いますが、まだそこまでの覚悟はないのですが……。

 「怯えさせてしまいましたか」

 「いえ……」

 「婚約を受け入れてくれたとはいえ、私の事はそんなにご存知ないでしょう。その前に、今更ですが本当に宜しいのですね?」

 「え?」

 「いえ、その……国王から言われれば断れないだろうとは思っていたのですが、本当は好きな方がいらっしゃったとか。ありませんか?」

 「今更ですわ。大丈夫です。おりません」

 ホッと安堵した様子を見せるソルムナード様。
 私を気遣ってくれるのがよくわかりますわ。

 「少しずつで宜しいです。私の事を知ってほしい。あなたの事も知りたい」

 ジッと瞳を見つめてそう言って下さいました。
 涙が出そうなぐらい嬉しさが込み上げて来ます。
 聖女としてではなく、女性として扱われている。しかも愛されている。

 ちゅ。
 ソルムナード様は、私の右手をとり、甲にキスを落とす。

 「これぐらいは、許して頂けますか?」

 不意打ちですわ。
 でも嫌ではありませんでした。

 「はい……」

 そう返すのが精一杯です。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「え……」

 いつの間にか、涙が頬をつたっていた。

 「こ、これは違うのです。安堵したというか……。大切にされているとわかったものですから」

 って、私何を言っているのかしら。
 もう顔が火照って、汗も出て来そうですわ。

 「あなたは、大切にされておりますよ。この国の一部を譲渡して下さったのですから」

 うん? 譲渡?

 「それってどういう事ですの?」

 「やはり知りませんでしたか。アンドルダール国と我が国ジムナージュの境にある領土を一つ丸ごと、友好の印として頂いたのです。あなたは一般人で持って行く物が無い。なので、陛下がご用意して下さった。土地しか提供できなくてすまないと言われたが、ほとんどが農地なので大助かりです」

 まさか、そこって!
 不作が続いているところなのでは?
 ちゃんとした場所まで把握しておりませんが、ワグナー領土が一番不作だと……。

 「あの何という領土でしょう? そこにご挨拶に伺いたいわ」

 「そうですね。一緒に行きましょう。ワグナー領です。行った事はありますか?」

 「い、いいえ……」

 なんて事なの!
 私ごと、ジムナージュ国に渡すなんて!
 知れれば大変な事になると思わなかったのでしょうか……。
 対策がこれだなんて、信じられません。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

国護りの聖女と呼ばれていた私は、婚約者である王子から婚約破棄を告げられ、追放されて……。

四季
恋愛
国護りの聖女と呼ばれていたクロロニアは王子ルイスと婚約していた。 しかしある日のこと、ルイスから婚約破棄を告げられてしまって……。

全てを義妹に奪われた令嬢は、精霊王の力を借りて復讐する

花宵
恋愛
大切なお母様にお兄様。 地位に名誉に婚約者。 私から全てを奪って処刑台へと追いやった憎き義妹リリアナに、精霊王の力を借りて復讐しようと思います。 辛い時に、私を信じてくれなかったバカな婚約者も要りません。 愛人に溺れ、家族を蔑ろにするグズな父親も要りません。 みんな揃って地獄に落ちるといいわ。 ※小説家になろうでも投稿中です

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

処理中です...