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第一話

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 「リンリー。今日からあなたは、ベルと名乗りなさい。名前を受け継ぐのは、リンナールよ」

 新しい母親が出来て、妹が生まれた。そのお義母様に妹リンナールの顔を見せられてそう言われたが、まだ三歳だった私には意味がわからなかったのです。
 だから「はい。おかあさま」と答えベルと名乗っていた。

 その私を唯一リンリーと呼ぶ王太子ヘルーラド様。彼は、私の婚約者。
 彼は唯一の私の味方。

 「リンリー、私はリンナールと婚約し直す事にした」

 「え……」

 唯一、私の味方ではなかったのですか?

 「本当のせ、聖女なのが私だとご存知ですよね?」

 「あぁ、知っている。私を誰だと思っている」

 「ではなぜ……」

 「彼女を好きだからだ。フォオルソード家の娘と結婚しなければならない事になっている。聖女の血筋だと皆知っているからな。だが長い年月の間に、聖女の力は衰退したとも言われている。だったら別に形だけでいいだろう?」

 国民がそれで納得するのだからいいと仰るのですか?
 ひどすぎます!

 「問題もなかろう。婚約は、発表されておらず内々だった。明日、リンナールと婚約したと発表予定だ。彼女もようやく15歳だからな」

 そう。婚約発表は大抵二人共結婚できる年齢なってから。このアンドルダール国は、15歳で成人とみなされる。
 ヘルラード様は、私より一つ上で私もなぜ発表なさらないかと思っておりましたが、そんな事をお考えでしたのね。

 「わ、わかりました」

 抗議したところで、何も変わらないでしょう。
 だから受け入れるしかなかった。

 世間的には、私は「ベル」。「リン」が入っていない。
 聖女には、「リン」と名に入れるのが習わしだったらしく、それで私の本当の名前はリンリー。ですが世間的には、リンナールが聖女として扱われている。

 別に聖女でなくても「リン」の文字は入れても問題ない。ただフォオルソード家は、聖女が生まれる家系として知られていたから特別だった。
 私は、お義母様の策略にはまったのでしょう。

 ヘルラード様が言う通り、聖女の力は発揮できていません。数百年に一度の不作になる年があり、聖女の力で乗り切っていたとされていた。
 その兆候があり、不作が続いています。

 ヘルラード様は常々「あなたの力で何とかならないのか?」と言っておりました。陛下もそうです。
 その度に私は「申し訳ありません」と、頭を下げていた。

 私を責めるだけでなく、何か対策をすればよろしいのにといつも思っておりましたが、口になど出せません。
 特段、ヘルラード様を愛していたわけでもなかったのです。ただ、リンリーと呼んで下さるヘルラード様は、私の味方だと勝手に思い込んでいただけでした。

 もうよろしいです。
 聖女として責められる事もないのですから。
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