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第五章 その鑑定、偽りあり!

第三八話

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 「すげぇ!」

 「勇者様だ!」

 「ち、違うから!」

 横で喜ぶ二人に、速攻否定する。

 『ピピ、どうなってるんだ?』

 『私にもよくわかりませんが、キソナ様の魔王の力を勇者の力と読んだのかもしれません。強い力ですので』

 『そんな……。面倒な事になった! どうしたらいいんだ!』

 ため息しかでないな、これ。勇者と対等の力って知れれば、必然的に魔王じゃないか! やばいだろう!

 「補正が凄いと思ったら!」

 「裏に勇者ってあるんだよね?」

 「ないから!」

 否定しても二人は俺を勇者だと決めつけている。確証めいた物があるので仕方はないが。

 『ピピ、このままでも大丈夫なのか?』

 『そうですね。少し何か対策を立てた方が宜しいかもしれません。王の耳に届けば、露呈する可能性があります。まだこの世には勇者は召喚されていないのですから。まずは、二人に口止めを!』

 『なんて口止めするんだよ!』

 ピピは少し考え込んだ。あぁ、まさかこんな事になるなんて!

 『こうしましょう! ランダムで種族を選んだが、勇者の職業はもらっていませんと。もしかしたら人間になった者全員にその資格を与えたのかもと。不確定にしておくのです』

 『そんなんで誤魔化せるか?』

 『大丈夫だと思われます! これは、グッドラックランダムの特権という事にしておけばいいのです。今のところ確認のしようがありませんので!』

 『わかったそうしてみる……』

 と言ってもなぁ。他の人間が勇者鑑定したらバレバレだよなぁ……。でも、一緒に二人がこなければ大丈夫か。

 「おーい。戻ってこーい」

 「あ、わりぃ……」

 二人は俺の顔を覗き込んでいた。

 「あ、あのさ。本当に勇者は引き当ててないんだ」

 「やっぱり~! 種族ランダムにしたんだ!」

 俺はルミさんの言葉に頷く。そして、ワザと小さな声で話す。

 「ここだけの話しな! 絶対内緒にしてくれるなら話す」

 「俺は口は堅いぞ!」

 「私も! 秘密大好き!」

 秘密大好きって……。まあ、いいか。

 「じゃ、こっち」

 俺は誰もいない場所へ二人と連れて行く。そして、ワザとらしく辺りを見渡した。

 「あのな。グッドラックランダムの特権として、勇者にもれた人間にもチャンスを与えますって言われたんだ。でも、それだけだったから意味わかんないでいたんだよ。で、さっき考えてたんだ」

 さっきトリップしていたのを思い出していた事にした。二人共凄く驚き、顔を見合わせる。

 「マジか! じゃ、お前勇者になれるぜ!」

 「すっご~い! それならランダムしてみるんだった!」

 こいつら簡単に信じるんだな。他の人間で確かめようという発想はないのか? いや、試されたら困るんだけどさ。

 「でも、俺はならいぞ!」

 「なんでだ? 勇者だぜ!」

 「いやいや。思い出せよ。この世界の設定! 俺が勇者になったらおかしいだろ?」

 二人は暫く黙り込む。

 「あぁ、俺達勇者を召喚しようとして失敗した召喚されし者か……」

 「そうそう」

 「え~。でもなれるならなればいいじゃん! もったいない」

 ルミさんが言うと、ガイさんも頷く。

 「面倒くさそうだし。それに俺、錬金術師になりたいんだよな」

 「あぁ、それで魔法を覚えたのか」

 ガイさんの言葉に俺は頷く。

 「でも、たぶんその資格持ってるのキソナさんだけだと思うよ」

 「え!」

 俺はドキッとして、ルミさんを見据えた。
 なんでそう思うんだ? 嘘がバレたか?

 「そうだな。少なくともこの国ではそうかもな」

 「え? どういう事?」

 ガイさんまでそう言いだした。

 「気づいてないのか? この国ではたぶん、人間はキソナさんだけだぜ」

 「私もそう思う。見かけた事ないよ」

 「へ?」

 そう言われれば、人間にお目にかかった事ないな。なんでだ?

 『人間って俺だけなのか?』

 『それはわかりませんが、私も二人と同じ意見です。予測ですが、選んで人間になるメリットはございませんので、人間としてこの世界にいる者は、ランダムで選ばれた者でしょう。そして、ランダムを種族に使うものは、勇者になりたい者のみだと思われます』

 いや俺、勇者希望じゃなかったんだけど使いましたが……。

 『ランダムを使ったとしても、人間になる確率は九%。そうなると、今現在キソナ様しか見当たらないのは、当然の結果と言えます』

 いや俺、人間の姿しているけど、人間じゃないから。魔族だから。って、じゃこの国には、人間がいない事にならないか?
 まあ最初からなりたい職業あるなら、その職業に適した種族選ぶよな。勇者になる為にランダムにしたとしても人間になる確率も低く、しかも人間になっても勇者になる確率は限りなく低いし。
 変な話、魔王になる確率と同じぐらいなのかもしれない。

 そう言えば、普通のランダムでは、勇者の資格が与えられるだけだっけ? じゃ、あの鑑定師は俺がそれだと思ったって事か……。

 「取りあえず、俺には荷が重いから無理!」

 「荷が重いって、勇者になりたくてランダムにしたんだろう?」

 ガイさんの言葉に俺は首を横に振った。

 「実はさ、テスターの時、のほほんと過ごしていたから、種族の事何も知らないでいて、適当に種族にグッドラックランダムを使ってしまったんだ。そうしたら運悪く、人間になったみたいだ。人に聞くまで、人間に有利な職業がないと知らなくて、聞いて驚いたぐらいなんだ……」

 流石にこれには、二人共呆れ顔だった。

 「あり得ないな。何の為にテスターしたんだよ。変だと思ったんだ。塔にも行ってないって言っていたから。……勇者はやめとけ! キソナさんじゃ無理だわ」

 ありがとう。そう言ってくれて! 普通はムッとするかもしれないが、今の俺には嬉しい言葉だ。

 「あぁ、宝の持ち腐れ! でも、気が変わったら言ってね!」

 「わかった。だから誰にも内緒な!」

 俺がそうもう一度お願いすると、二人はわかったと頷いだ。
 二人を信じるしかないが、俺が目立つ事しなければ大丈夫だろう……。人間ってだけで目立ちそうだけどな。
 こうして俺達は、タード街に戻りパーティーを解散した。
 そして、俺は今日はログアウトしたのだった。
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