英雄になんてなりたくないから!

すみ 小桜(sumitan)

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振り出しでスタート 2

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 カウンターに置かれた剣をガーナラルドは受け取った。

 「これでいいか?」
 「………」
 「ギルドも自分達で稼いで設立する。キャンセルしておいてくれ」
 「は、はい……」

 カウンターのお姉さんがまた困り顔で頷いた。
 ふんと、デモンガリーが歩き出す。

 「待ってデモンガリー!」

 僕が呼び止めると、ピタッと止まって彼は振り向いた。

 「ありがとう。君のお蔭で僕は少し強くなれた。ちゃんと教科書読み直すよ」
 「ふん。好きにすればいい。甘ったれはどうせ死ぬ。せいぜい共倒れしないように頑張ればいいさ」
 「うん。頑張るよ」
 「君は、お人好しだな。そこを利用されたとは思わないのか?」

 隣に来てガーナラルドが言った。
 そうかもしれない。でも彼が言った事も事実だ。全くダンジョンハンターになる気がなかった僕が王子に気に入られ、思った以上にヘタレだったら恨みもする。

 それより、とばっちりを受けちゃったけど大丈夫かな?

 「すみませんでした。その剣……」
 「いや、ちょうどよかった」
 「え? ちょうどよかった?」
 「私もみんなと同じスタートを切りたかったのだが、どうしてもダメだと言われて、この格好だったからな。彼のお蔭で、剣だけでも交換できてよかった。ただギルドは言われるまで気がつかなかったよ。私もまだまだだな」
 「はあ……」

 なんでまたよわよわの剣にしたいのか?
 やっぱりMっけあり?

 「君はまた……前に話しただろうに。どうしてそういう顔になるんだ」

 あ、また引いている顔になっていた!?

 「ギルドは、お金を貯めて設立するつもりなんですか?」
 「そのつもりだ。頑張ろう」

 頑張ろうって。僕は別にギルドは設立しなくてもいいんだけどなぁ。
 まあ凄くお金がかかるから直ぐには無理だな。僕とじゃ人より時間がかかると思わないのかな?
 そうだ、お金と言えば!

 「さっきの治療代っていくらになるの?」
 「治療代?」
 「だから回復魔法代」
 「……そこからなんだな。無料だぞ」
 「え!? タダ!?」
 「当たり前だろう。でないと、ダンジョンに入れない者が続出だ。全く怪我なくと思ったら、ダンジョン攻略などできるか」
 「そうなんだ」
 「だが持って行く傷薬は買うからな。大事に使えよ」
 「はい。うん? あ!」
 「どうした?」
 「デモンガリーが全部持って行っちゃった!」
 「なぜ彼が、君の傷薬を持っているんだ」
 「訓練の時に取り上げられて、そのまま……」
 「なぜそこで変だと気づかないのだ、君は」

 いや、石をリュックに入れたりしたから。
 でも普通は使うとか言っていたし、奪ったのは間違いないのか?
 今度いつ会えるかな? って、言ったら返してくれるのか?

 「はぁ。君は本当に手が掛かるな……」
 「すみません。怪我をしないように気を付けます」
 「そうしてくれ」
 「あの、もしよろしければ、我々もお供しますが……」

 僕達の会話に近くにいたダンジョンハンターの一人が、そう言って割り込んできた。

 「いや結構だ。お供などいらないからな。クラド行くぞ。今度は10階を目指す」
 「え? また行くの?」
 「当たり前だ! 薬代を稼ぐぞ」

 え~。帰って寝たかった!
 って、スタスタとダンジョンへと向かって行く。

 「ちょ……置いて行かないで!」

 僕の後ろからは、「なぜあんな小僧が」と言い合う声が聞こえる。それには僕も同感だ。
 一体僕の何が気にいられたのだか……。
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