上 下
3 / 4

第3話最後と最初の日

しおりを挟む
 久しぶりの実家。そうよ。私の家よ!
 お母さんも笑顔で迎えてくれた。おかえりって。
 夢だったの夢。

 「これが最後になるのね……」

 でもぼそりと言ったお母さんの言葉が、現実だと語った。

 とりあえず、お母さんにも話を聞いてきてと言われ帰って来たけど、そんな言葉を聞くなんて……。

 「私は、お母さんが本当のお母さんでなくても親子でいたいわ」
 「私もそうよ。でもここに戻って来たという事は、侯爵の娘だったのでしょう? 侍女でいるわけにもいかないでしょう。もうお金の心配もする必要もないわ」
 「お金は、私が王宮入りしてから困ってないでしょう。それにお母さんに私、親孝行してないわ」
 「ありがとう。でも本当の親元に帰りなさい。私の心配は何もいらないわ。私は、ミリルイナの命恩人。たんまりお金を頂けるから……」

 うつむいてそう言うお母さん。そうよね。お母さんもつらいよね。
 私が行かないとお母さんを困らせる。普段、こんな風にたんまりなんて言わないもの。

 「わかったわ。でもお母さんは、一人だけよ。命の恩人でもお育ての親でもない。私のたった一人の母親よ!」
 「ミリルイナ!」

 私たちは抱き合って泣いた。
 嫌だと私が断ったところで、事実は変わらない。それどころか、どうにかしようと策を立てて来るに違いない。それに侍女として働く事もできなくなった。だって、解雇されて戻ってきたのだから。

 次の日、街へ二人で買い物に出た。いつもはウィンドショッピング。見てるだけだけど、最後のお給料も貰って帰って来たからそれでお母さんにプレゼントするんだ。



 「おかえりなさい。ミリルイナ」
 「おかえり、待っていたよ」

 夕方に迎えに来た馬車に乗り込んでグレンパール侯爵宅へ着くと、ご夫妻が出迎えてくれた。

 「……ただいま戻りました」
 「もう。堅苦しいわね」

 くすりと夫人が笑う。
 このお二人は、私を娘として受け入れているの? 舞い上がっているだけで、落ち着いたらやっぱりってならないかな?
 それはそれで、怖い気がする。

 「大丈夫だ。何も心配いらない。君の部屋はちゃんと用意してある。それとこの二人が君のお世話をする侍女だ」
 「いいこと。自分でしてはだよめ。あなたが今までやっていたことをしてくれるのですからね」

 夫人がぼそっと耳打ちしてきた。

 「よ、宜しくお願いします」
 「「はい。ミリルイナ様」」

 侍女の二人は、頭を下げて返事をしてなんだか変な気分。
 案内された部屋は広く、サラディラ様のお部屋に匹敵するほどで驚いた。

 「ひ、広いですね」

 部屋は三階にあり、寝室、浴室、そして客間まであった。

 「普通ですよ。ドレスも用意しておきました。明日、王宮へ赴きましょう」
 「え?」
 「サラディラ様が会いたがっているの。ご挨拶に参りましょう」
 「はい……」

 そういえば、同年代は数人で新しく配属になった私によくしてくださった。今度は、令嬢としてのお付き合いか。む、難しいかも。

 夕飯はかなり豪勢な食事だった。侍女の仕事をしていたので、見たことはあるものの食べたことがないものばかり。それなのに……。

 「今度、お祝いしましょうね」

 これより豪勢な食事だよね!?
 美味しいはずの料理は味わうところじゃなく、緊張して食べていた。こればかりは、侍女をしていてよかったわ。使った事がなくてもわかるもの。

 「明日、王宮に行く前にこれからの事を話し合いましょう。今日はゆっくりおやすみなさい。ミリルイナ」
 「おやすみ、ミリルイナ」
 「おやすみなさい」

 そんな期待に満ちた目で見ても、お父様、お母様なんて呼べないから。
 部屋に戻ったところで、侍女と一緒なので気も休まらない。

 「今日は疲れたからもう寝ます」

 必ず一人付いていた侍女が部屋を出ていった。
 ふうっと肩の力が抜ける。
 必ず誰かが付くように言ってあるんでしょうね。一人になったとしても三階では逃げようもないけどね。

 窓から見える景色は、落ち着かない。
 真っ暗闇の果ては、逆に街の明かりが見えて明るかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

ヒロイン、悪役令嬢に攻略をお願いされる

えも
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したのには気付いていたけど、スルーして養父のおじさんと仲良く暮らしていたフィービー。 でもある日、ざまあ寸前の悪役令嬢がやってきて王子の攻略を依頼されてしまった。 断りたかったけど悪役令嬢が持っている前世の知識が欲しくて渋々承諾。 悪役令嬢と手を取り合い、嫌々乙女ゲームの舞台である学園へ入学することになってしまったヒロインの明日はどっちだ!

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...