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35話

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 「宿題はきちんとしたようね」

 私達の婚約が決まってすぐに、本格的に勉強が始まった。私にはなぜかブレナ夫人が教えてくれる事になって、厳しい教育が施されている。
 イヴェットも妃教育も一緒に行う為に、王城に週に6日通っていた。
 なんだかブレナ夫人が、私達に対する態度が変わったのよね。

 「聞いているのかしら、アイデラ」
 「は、はい!」

 今までは私達と仲良くしようとしている様子だったのに、今は私とイヴェットを競わせようとしているように感じる。
 事あるごとに、イヴェットはもうここは覚えたようだと。イヴェットは、やる気になれば、覚えが早いみたい。

 「いい? イヴェットは、妃教育を受けながら今あなたがしている事も覚えているのよ。悔しくないの? あなたは比べられる存在なのだから。彼女に劣ってはダメ!」
 「……はい」
 「わかっていないようね。彼女と違ってあなたは、一つも・・・魔法を扱えないでしょう? この国では魔法が全てなの。他の王子と婚約したとしても見下されるのよ!」
 「………」

 返事をして俯けば、私は劣っているのだと言うようになった。
 これは生まれ持ったモノだから仕方がなくない?
 というか、小説通りにいびられる様になるとは。覚悟をしていたけど、思ったより精神的にきついわ。何せ、イヴェットと比べられるのだから。

 そこが小説と違うのよね。小説なら父親が誰かわからないから、どこの馬の骨ともわからない子と言わるはずだったんだけど。
 そう言われるなら精神的にもっと楽だっただろうな。なにせ私には、両親に対する思い入れはないから。

 こうして数か月が過ぎた頃、事件が起きた。

 「ひどいわ。アイデラ!」
 「え……それ、私がしたと思ってるの?」

 アイデラが王城から帰って来て、凄い勢いで部屋に来たと思ったら、ボロボロになったドレスを手に怒鳴ったのだ。
 手にしているドレスは、昨日王城に着ていったドレスみたい。

 「お待ちください。アイデラお嬢様がそれを破くはずありません」

 イヴェットにソフィアがそう言ってくれた。
 今日は、ブレナ夫人がお茶会にお呼ばれして一日自習だったので、確かにそういう事を行う時間がある。けど、私がそれを行う理由がないでしょう。

 「何を騒いでいる」

 エインズワイス侯爵がちょうど帰宅したらしく、騒がしい私の部屋に入って来た。

 「それが、アイデラ様がイヴェット様のドレスを裂いたようで」

 認めていないというのに、マリアがそうエインズワイス侯爵に説明をした。

 「そう言えば、アイデラがイヴェットの部屋の近くに居たのを見ました」

 そう証言したのはブラインだ。
 大体、私の部屋の隣がイヴェットの部屋なのよ。そこの前を通って移動するじゃない。
 それに今、マリアとブラインが目くばせをしたように見えたんだけど。まさか二人の仕業って事はないわよね。

 「アイデラ様が、なさるわけがございません。いえ、そんな事をする理由がないでしょう」

 ソフィアが私に代わりそう言ってくれた。

 「アイデラ、どうなのだ?」
 「何もしておりません。イヴェットの部屋の近くに居たという事ですが、移動時にはその前を通るのですから。それに、イヴェットのドレスを破く理由がないでしょう」
 「あるもん! 私が王子様と婚約して王妃になるから! 嫉妬しているんでしょう」

 はぁ? 嫉妬? 私がいつ羨ましいとか言った?
 この数か月で、イヴェットも何だか雰囲気が変わったと思っていたけど、変な入れ知恵をされているようね。私が行ってない証拠もないし、困ったわ。
 でも、私が5歳児という概念で答えるのよ。

 「なんで? 私も王子様と結婚するんだよ。私も王妃様になれるもん」

 みんなはミチェスラフ王子が第二王子だから次期王にはならないと思っているだろうけど、彼は王を目指すと言っていた。それはエインズワイス侯爵が知っている。
 だったら私がそう思っているとエインズワイス侯爵が証明してくれるでしょう。

 「第二王子は普通は王にならないんだ」

 ブラインがそういうと、エインズワイス侯爵が「いや」と否定する。

 「この国ではそうだが、グランチェック魔術王国は指名制なので彼にも王になるチャンスはある。それは、アイデラも知っている。だからそういう意味で嫉妬はしないだろう」

 詳しい説明は避け、エインズワイス侯爵がそう言って、私をかばってくれた。
 よかった。これで私ではないとわかってくれたはず。
 ただそうなると、誰がドレスを裂いたかよね。
 一番怪しいのはブラインだけど、私を貶める為にそこまでするかよね。
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