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34話 エインズワイス侯爵視点

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 我が国は、魔法で優劣を決める。王族の銀の瞳は、光魔法以外の属性を扱える証拠なのだ。その瞳を持たなかったクロリッセ王女殿下の弟は、一つも・・・魔法を扱えなかった。
 これは、王族にとって恥なのだ。彼は学園を卒業後、メレンデレス辺境伯の婿養子になった。彼は、子を持つことも許されない。いや持つ事が不可能だと聞いた。
 メレンデレス辺境伯の一人娘は、子供が産めない体だと。だから婿探しが難航していたはず。

 そこに婿に出すのを提案したのは、クロリッセ王女殿下だと聞いた。
 彼の子が産まれて銀の瞳を持つと厄介だから、それでメレンデレス辺境伯の親戚の子を養子にしたという噂がある。

 それはクロリッセ王女殿下が王になった後、次の王を自身の息子エステバン殿下にする為に。
 だから毛嫌いする弟を後見人にしたミチェスラフ殿下に協力するわけがない。それなのに手を組んだだと。

 「私があなたの孫娘だと証明しましょう」
 「……どうやって」

 ミチェスラフ殿下の言葉にもう私の思考はショート寸前だ。彼らのしたい事がわからない。子供だからか? それとも国の違いからか?

 「メレンデレス辺境伯に聞いたのです。心当たりはないかと。そうしたらある・・とお答え頂きました。紫の瞳は一般的ですが、葡萄えび色の瞳は、そんなにいないでしょう。ずっと近くで見ていた色でしたので、彼女を見てすぐにわかりました。彼の子・・・だと」
 「い、いまなんと……」
 「お分かりになりませんか? あなたの娘は、可愛らしいお方だ。メレンデレス辺境伯のお名前はご存じですか? 彼の名は、『ラディアン』です。反対から読んでみるとわかると思いますよ」

 反対……ンアイデラ――『アイデラ』だと!!

 「普通、最初に『ン』は発音しないでしょう」
 「イリスの相手が、メレンデレス辺境伯だったというのか!」

 だったら辻褄は合う。婚約者だったベントが私にさえ言えない名前。彼同様、王族だったラディアン殿下も候補から外していた。いや調べようとしても難しいだろう。
 なぜ一線を越えたのだ。もし、銀の瞳の子が産まれていたらどうなっていたと思うのだ。イリス共々暗殺されていたかもしれない。

 あの時ベントもイリスが死んだからと言って、私の元へアイデラを連れて来られなかったわけだ。連れて行けば相手を問いただされるのだから。

 ミチェスラフ殿下は、正々堂々と王位を競い合うのではなかったのか。自分を婚約者に選ばせるようにクロリッセ王女殿下にお願いしたのはわかるが、どうしてここでそれを私に暴露したのだ。
 彼が証言したのは、アイデラがエインズワイス侯爵の隠し子だという事だ。イリスが産んだ証拠にはならない。そうエインズワイス侯爵が、相手がイリスだと言わない限りは。
 凄く嫌な予感がする。まさか私からアイデラを今、奪っていく気ではあるまいな。

 「私としては、エインズワイス侯爵家とミチェスラフ殿下との婚約は反対でした。権力が偏り過ぎるでしょう。でもあなたの孫娘でなければ・・・・問題ないのですよね」
 「え……それはどういう意味でしょうか」
 「そのままですよ。あなたは、彼女を孫娘だとは正式に発表しておりませんね。でしたらそれを貫いて下さい」
 「アイデラを孫娘だと一生言ってはならないとおっしゃっているのですか?」

 私が言わなくとも、ミチェスラフ殿下と婚約したとなればそう憶測される。光魔法持ちのイヴェットでなくアイデラを選んだ時点で、この国の感覚なら侯爵家の者との婚姻を彼が望んだと思うだろうからな。

 「そうです。彼女は、愚弟であるメレンデレス辺境伯の隠し子なのですから」
 「……なっ」

 確かにそうなるが……。

 「筋書きはこうです。あなたは、メレンデレス辺境伯に頼まれ隠し子であるアイデラを見つけ出した。その過程で光魔法を持つ娘を偶然見つけた。メレンデレス辺境伯が懇意にしているミチェスラフ殿下に自分の子を託す為に、あなたの孫娘として婚約させた。一応王族である愚弟が彼の後ろ盾になる事を条件にしてね」

 クロリッセ王女殿下がそう語るが、それを考えたのはミチェスラフ殿下だろう。

 「失礼します」

 宰相が戻って来た。そして、テーブルに何やら用紙を置いた。

 「まずは、その証拠を作りましょうか。アイデラをメレンデレス辺境伯の代わりに育てる契約書です。サインしていただけますね?」

 私はよろめき、契約書が置いてあるテーブルに手をついた。

 「あ、あなた……」

 ブレナが心配そうな顔つきで私を見ている。
 なんてことだ。お茶会にアイデラを連れて行ったばっかりに。
 彼が言う通り、お茶会で真相に気が付いたのだろう。

 「私とアイデラの婚約は、父であるラディアン卿に許可をとっておりますので、ご心配なさらずに」

 満足そうにミチェスラフ殿下が言う。拒否権などない私は、サインするしかなかった。

 これでアイデラは、この国でも命を狙われる事はなくなるだろう。
 ミチェスラフ殿下はわかっておいでなのだろうか。
 私の孫娘ではなく、メレンデレス辺境伯の隠し子なら銀の瞳でない限り脅威ではない。 
 だがしかし、アイデラの置かれる立ち位置は、虐げられた王族の子だ。この国では彼の味方などいないに等しい。味方をすれば、王族を敵に回す事になるのからだ。
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