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33話 エインズワイス侯爵視点
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「これで婚約成立ですわね」
エステバン殿下の横に座る母親のクロリッセ王女殿下がにっこりとして言った。
恐ろしいほど何も言って来ない。アイデラの事があるから何か婚約の条件をつけてくるかと思ったのだが。
それに国王陛下は、かなり身体の状態が良くないようだ。
エステバン殿下の事をかなり可愛がっておいでただと伺っていたのだが、王城に訪ねたというのに顔を出さない。だから彼女が仕切って事が進んだ。
「あなた。これを」
「かしこまりました」
クロリッセ王女殿下の夫でありエステバン殿下の父である彼は、宰相だ。今サインした婚約誓約書を手にこの部屋から出て行く。銀色の髪の彼も王族の血を引く者だ。
「エステバン。イヴェットを庭園に案内して差し上げなさい」
「はい。母上」
嬉しそうにエステバン殿下が立ち上がる。
「行って来なさい。あまり走り回らない様にな」
「はい!」
イヴェットにしては大人しくしていたが、庭園と聞いてソワソワして私を見た。釘を刺しておかないとな。
二人を部屋から遠ざけるという事は、やはりアイデラの事を話す気なのだろうな。
「さて、もう一つ大事なお話をしましょうか。エインズワイス侯爵」
二人が出て行ったのを見届けると、クロリッセ王女殿下は立ち上がり、続き部屋だと思われるドアを開けた。
そこからにっこりとほほ笑んだミチェスラフ殿下が入って来た。
私は無意識に、立ち上がっていた。
なるほど。彼も呼んでいたのか。
「エインズワイス侯爵。あなたの孫娘とミチェスラフ殿下が婚約誓約書を交わしたようね。手元に届いているわ」
「は、はい……」
「グランチェック魔術王国の王位継承の仕様をご存じ?」
「はい。彼からお聞きいたしました」
そう返せば、クロリッセ王女殿下は、胸の前で腕を組み私をギロリと睨みつけて来た。
「そう。私達に何もなしに事を進めるなど、どういうおつもりかしら? 相手は王族でしょう。国家間の問題になるとお思いになりませんでしたか? そんなに権力が欲しかったという事でしょうか?」
「いえ、そういうわけではありません」
そう思っているならアイデラとの婚約をなかった事にすればいい。彼女にならその権限がある。いや、イヴェットを他の者の養女にするように命じればいい。権力は分散される。
私は、権力が欲しかったわけではない。アイデラをアルディネ伯爵家へ嫁がせたくなかっただけだ。
あの状況でどちらも断る事など不可能だ。
「王女殿下。私が無理を言ってその場で婚約を結んで頂いたのです」
「そうね。でも、本当に孫娘と婚約を結んだのかしら?」
どういう意味だ? まさか届け出があった婚約誓約書を偽造したのではないよな。
二人が私をジッと見つめる。
「ちゃんと証拠がございます。そうですわよね?」
ブレナがそう私に問いかけた。
そうか。証拠を出せと言ったのか。しかしなぜミチェスラフ殿下までが、問い詰める様に見つめるのだ。
「あるにはあるが、今は手元にありません」
「手元にないとは、家にあるという意味でしょうか?」
「それは……」
私が答えられずにいれば、クロリッセ王女殿下がにやりとする。
「ないそうよ、ミチェスラフ殿下。どう致しましょうか」
「私は、彼女が欲しいのです。ですので侯爵家の孫娘でなくても宜しいのですが」
「どういうおつもりです? ミチェスラフ殿下」
二人は手を組んでいたのか?
アルディネ伯爵家が送って来た婚約の打診は、彼と婚約させる為のダミーだったのか。
「どうって。言葉通りです。私は後ろ盾を得ているので、あなたの後ろ盾はいらないという事です。あぁ、彼女ではないですよ。あなたに話した通り、メレンデレス辺境伯です」
それはあり得ない! もしかして、ミチェスラフ殿下はクロリッセ王女殿下に騙されているのではないか?
メレンデレス辺境伯は、クロリッセ王女殿下の弟。疎まれ辺境に送られた王族だ。しかも彼には、王位継承権はない。それをミチェスラフ殿下は知らないでいて、クロリッセ王女殿下に協力しているのではないか。
だとしてもここでそれを言ってももう遅いだろう。
一体、クロリッセ王女殿下は、私達をどうするおつもりなのだろうか。
「私は、お茶会で彼女に会って彼女が欲しいと思いました。私は、メレンデレス辺境伯にそれを話し婚約に至ったのです。やはり確かな証拠がなかったのですね。いえ、紛失したのでしょう。だから彼女をはっきりと孫娘だと公表していない。違いますか?」
まさか気づいていたとは。
「醜聞になるから孫娘の事を黙っていると、王女殿下は思っておいでの様でしたので、そう教えて差し上げました」
「な……。あなたが私に言った事は嘘だったのですか!? アイデラを守ると言ったではないですか!」
まさか、アイデラを手に入れる為に手段を選ばないとは。そこまでアイデラに惚れているのか? いや違う。本当にアイデラに価値があるのだろう。私達にはわからない価値が。
「そうです。守る為です。大切な証拠を紛失してしまうようなあなたには、彼女を任せられませんので」
「だ、だから王女殿下にお願いしたと」
「お話を聞いていましたか? お願いをしたのは、メレンデレス辺境伯にです」
「メレンデレス辺境伯?」
一体どういう事だ。意味がわからない。彼に関わる事に、クロリッセ王女殿下も手を貸したというのか。あり得ない。それだけは!
エステバン殿下の横に座る母親のクロリッセ王女殿下がにっこりとして言った。
恐ろしいほど何も言って来ない。アイデラの事があるから何か婚約の条件をつけてくるかと思ったのだが。
それに国王陛下は、かなり身体の状態が良くないようだ。
エステバン殿下の事をかなり可愛がっておいでただと伺っていたのだが、王城に訪ねたというのに顔を出さない。だから彼女が仕切って事が進んだ。
「あなた。これを」
「かしこまりました」
クロリッセ王女殿下の夫でありエステバン殿下の父である彼は、宰相だ。今サインした婚約誓約書を手にこの部屋から出て行く。銀色の髪の彼も王族の血を引く者だ。
「エステバン。イヴェットを庭園に案内して差し上げなさい」
「はい。母上」
嬉しそうにエステバン殿下が立ち上がる。
「行って来なさい。あまり走り回らない様にな」
「はい!」
イヴェットにしては大人しくしていたが、庭園と聞いてソワソワして私を見た。釘を刺しておかないとな。
二人を部屋から遠ざけるという事は、やはりアイデラの事を話す気なのだろうな。
「さて、もう一つ大事なお話をしましょうか。エインズワイス侯爵」
二人が出て行ったのを見届けると、クロリッセ王女殿下は立ち上がり、続き部屋だと思われるドアを開けた。
そこからにっこりとほほ笑んだミチェスラフ殿下が入って来た。
私は無意識に、立ち上がっていた。
なるほど。彼も呼んでいたのか。
「エインズワイス侯爵。あなたの孫娘とミチェスラフ殿下が婚約誓約書を交わしたようね。手元に届いているわ」
「は、はい……」
「グランチェック魔術王国の王位継承の仕様をご存じ?」
「はい。彼からお聞きいたしました」
そう返せば、クロリッセ王女殿下は、胸の前で腕を組み私をギロリと睨みつけて来た。
「そう。私達に何もなしに事を進めるなど、どういうおつもりかしら? 相手は王族でしょう。国家間の問題になるとお思いになりませんでしたか? そんなに権力が欲しかったという事でしょうか?」
「いえ、そういうわけではありません」
そう思っているならアイデラとの婚約をなかった事にすればいい。彼女にならその権限がある。いや、イヴェットを他の者の養女にするように命じればいい。権力は分散される。
私は、権力が欲しかったわけではない。アイデラをアルディネ伯爵家へ嫁がせたくなかっただけだ。
あの状況でどちらも断る事など不可能だ。
「王女殿下。私が無理を言ってその場で婚約を結んで頂いたのです」
「そうね。でも、本当に孫娘と婚約を結んだのかしら?」
どういう意味だ? まさか届け出があった婚約誓約書を偽造したのではないよな。
二人が私をジッと見つめる。
「ちゃんと証拠がございます。そうですわよね?」
ブレナがそう私に問いかけた。
そうか。証拠を出せと言ったのか。しかしなぜミチェスラフ殿下までが、問い詰める様に見つめるのだ。
「あるにはあるが、今は手元にありません」
「手元にないとは、家にあるという意味でしょうか?」
「それは……」
私が答えられずにいれば、クロリッセ王女殿下がにやりとする。
「ないそうよ、ミチェスラフ殿下。どう致しましょうか」
「私は、彼女が欲しいのです。ですので侯爵家の孫娘でなくても宜しいのですが」
「どういうおつもりです? ミチェスラフ殿下」
二人は手を組んでいたのか?
アルディネ伯爵家が送って来た婚約の打診は、彼と婚約させる為のダミーだったのか。
「どうって。言葉通りです。私は後ろ盾を得ているので、あなたの後ろ盾はいらないという事です。あぁ、彼女ではないですよ。あなたに話した通り、メレンデレス辺境伯です」
それはあり得ない! もしかして、ミチェスラフ殿下はクロリッセ王女殿下に騙されているのではないか?
メレンデレス辺境伯は、クロリッセ王女殿下の弟。疎まれ辺境に送られた王族だ。しかも彼には、王位継承権はない。それをミチェスラフ殿下は知らないでいて、クロリッセ王女殿下に協力しているのではないか。
だとしてもここでそれを言ってももう遅いだろう。
一体、クロリッセ王女殿下は、私達をどうするおつもりなのだろうか。
「私は、お茶会で彼女に会って彼女が欲しいと思いました。私は、メレンデレス辺境伯にそれを話し婚約に至ったのです。やはり確かな証拠がなかったのですね。いえ、紛失したのでしょう。だから彼女をはっきりと孫娘だと公表していない。違いますか?」
まさか気づいていたとは。
「醜聞になるから孫娘の事を黙っていると、王女殿下は思っておいでの様でしたので、そう教えて差し上げました」
「な……。あなたが私に言った事は嘘だったのですか!? アイデラを守ると言ったではないですか!」
まさか、アイデラを手に入れる為に手段を選ばないとは。そこまでアイデラに惚れているのか? いや違う。本当にアイデラに価値があるのだろう。私達にはわからない価値が。
「そうです。守る為です。大切な証拠を紛失してしまうようなあなたには、彼女を任せられませんので」
「だ、だから王女殿下にお願いしたと」
「お話を聞いていましたか? お願いをしたのは、メレンデレス辺境伯にです」
「メレンデレス辺境伯?」
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