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5話 エインズワイス侯爵視点
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「失礼します。旦那様。お嬢様宛にお手紙が届いております」
「何? 娘にだと?」
執事長のロアッグが持ってきた手紙には、差出人名はない。
一体、誰がどういうつもりで出したのか。
イリス・エインズワイス。私の一人娘が失踪してもう6年になるだろうか。娘を産んで直ぐに妻がなくなり、猫かわいがりしたがそれでも我儘な子には育たなかった。
それなのに、学園に通い暫くして失踪してしまったのだ。
初めは、誘拐か何かと思ったが音沙汰がない。捜索したが、行方を掴めなかった。
誰かが手引きしたとしか考えられなかったが、そんな相手がイリスにいたとは思えない。
婚約者と一緒に失踪したわけでもない。もちろん、婚約は破談になった。
政略結婚だと言え、本人は至って平然としていたのが印象的だ。その彼も、その後無事結婚し、今年子が産まれたと聞く。
やっと周りが落ち着いたと思った矢先に、それを乱す手紙が届いただと?
一体誰が送って来たのだ。……いや、もしかして娘自身が送って来たのではないか? イリス宛ならまず捨てずに、私が目を通すと思い……。
そう思うと、封を切る手が震える。
『エインズワイス侯爵、まずはイリス様宛に偽装した事を謝ります。申し訳りません。ですが、彼女についてどうしても知らせておきたい事があったのです』
私はその一文を見て驚いた。
娘からではなかったが、私に読ませる手段としてイリス宛に送って来たのだから。
『とても残念な報告になりますが、イリス様はすでにお亡くなりになっております』
「なんだと!?」
つい驚いて大きな声を上げてしまった。
『驚かれた事でしょう。嘘だとこのまま手紙を破かずにお読み下さい。重要なお知らせはこれからです。
実は、彼女は女の子を産んでおります。その子は彼女とそっくりで可愛い女の子です。齢は5歳になったはずです――』
私は、手紙の持つ手が震え泣きそうになる。
これが事実なら娘の失踪は、子を身ごもったからだろう。一体相手は誰なのだ。
姿を隠し密かに産んだとなれば、婚約者ではない。イリスが愛した相手という事になるが。
そんな相手がいたなど思いもよらなかった。し、しかも、相手と関係を持ったなど、どうしてこんな事に!
「これは、事実でしょうか」
「それを確かめなくてはならないな。もし本当に産んでいるのだとしたら孫だ。醜聞になろうと、探す出す。娘の忘れ形見なのだからな。ロアッグ、これを書いた者を探し出せ。この事が本当なら相手が知りたい」
「はい。かしこまりました」
ロアッグが執務室から出て行った。
さて、醜聞になろうとも本当なら引き取るとして、まずは本当かどうか確かめなくてはな。それは、慎重に行わなくてはならない。
出来るだけ、孫に嫌な思いをさえない為にも。
手紙によれば、ペンダントと一緒に預けたとある。それが本当ならば、ペンダントには紋章を入れているはず。
万が一の時の為に、我が家には略称紋がある。家紋を自身で描き、何かあった時の為に身分を証明するのに用いる。
預けられた少女がイリスの子なら、ペンダントにはイリスが描いた略称紋があるはずだ。
ただこれは、自身で確認しなくてはダメだ。かと言って、表立って動くのもな。
そういえば、あの区域にアーロイズ子爵の娘が住んでいたな。彼が亡くなって家名を継いだが、いい噂を聞かないが。
まあいい。その者に施設に行かせ子供を引き取ってこさせよう。借金を肩代わりしてやると言えば、喜んで引き受けるだろう。
私は、すぐに準備に取り掛かった。
アーロイズ子爵の身辺調査をすれば、噂通り散財して借金がある。このままいけば、破産だろうに。
娘が一人に、妊娠中か。
身重なら茶会にも出ないだろう。しばらくは、探していた事を伏せられるな。
私は、計画を実行する事とした。
「何? 娘にだと?」
執事長のロアッグが持ってきた手紙には、差出人名はない。
一体、誰がどういうつもりで出したのか。
イリス・エインズワイス。私の一人娘が失踪してもう6年になるだろうか。娘を産んで直ぐに妻がなくなり、猫かわいがりしたがそれでも我儘な子には育たなかった。
それなのに、学園に通い暫くして失踪してしまったのだ。
初めは、誘拐か何かと思ったが音沙汰がない。捜索したが、行方を掴めなかった。
誰かが手引きしたとしか考えられなかったが、そんな相手がイリスにいたとは思えない。
婚約者と一緒に失踪したわけでもない。もちろん、婚約は破談になった。
政略結婚だと言え、本人は至って平然としていたのが印象的だ。その彼も、その後無事結婚し、今年子が産まれたと聞く。
やっと周りが落ち着いたと思った矢先に、それを乱す手紙が届いただと?
一体誰が送って来たのだ。……いや、もしかして娘自身が送って来たのではないか? イリス宛ならまず捨てずに、私が目を通すと思い……。
そう思うと、封を切る手が震える。
『エインズワイス侯爵、まずはイリス様宛に偽装した事を謝ります。申し訳りません。ですが、彼女についてどうしても知らせておきたい事があったのです』
私はその一文を見て驚いた。
娘からではなかったが、私に読ませる手段としてイリス宛に送って来たのだから。
『とても残念な報告になりますが、イリス様はすでにお亡くなりになっております』
「なんだと!?」
つい驚いて大きな声を上げてしまった。
『驚かれた事でしょう。嘘だとこのまま手紙を破かずにお読み下さい。重要なお知らせはこれからです。
実は、彼女は女の子を産んでおります。その子は彼女とそっくりで可愛い女の子です。齢は5歳になったはずです――』
私は、手紙の持つ手が震え泣きそうになる。
これが事実なら娘の失踪は、子を身ごもったからだろう。一体相手は誰なのだ。
姿を隠し密かに産んだとなれば、婚約者ではない。イリスが愛した相手という事になるが。
そんな相手がいたなど思いもよらなかった。し、しかも、相手と関係を持ったなど、どうしてこんな事に!
「これは、事実でしょうか」
「それを確かめなくてはならないな。もし本当に産んでいるのだとしたら孫だ。醜聞になろうと、探す出す。娘の忘れ形見なのだからな。ロアッグ、これを書いた者を探し出せ。この事が本当なら相手が知りたい」
「はい。かしこまりました」
ロアッグが執務室から出て行った。
さて、醜聞になろうとも本当なら引き取るとして、まずは本当かどうか確かめなくてはな。それは、慎重に行わなくてはならない。
出来るだけ、孫に嫌な思いをさえない為にも。
手紙によれば、ペンダントと一緒に預けたとある。それが本当ならば、ペンダントには紋章を入れているはず。
万が一の時の為に、我が家には略称紋がある。家紋を自身で描き、何かあった時の為に身分を証明するのに用いる。
預けられた少女がイリスの子なら、ペンダントにはイリスが描いた略称紋があるはずだ。
ただこれは、自身で確認しなくてはダメだ。かと言って、表立って動くのもな。
そういえば、あの区域にアーロイズ子爵の娘が住んでいたな。彼が亡くなって家名を継いだが、いい噂を聞かないが。
まあいい。その者に施設に行かせ子供を引き取ってこさせよう。借金を肩代わりしてやると言えば、喜んで引き受けるだろう。
私は、すぐに準備に取り掛かった。
アーロイズ子爵の身辺調査をすれば、噂通り散財して借金がある。このままいけば、破産だろうに。
娘が一人に、妊娠中か。
身重なら茶会にも出ないだろう。しばらくは、探していた事を伏せられるな。
私は、計画を実行する事とした。
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