上 下
32 / 40

第32話 緊急事態が起きました

しおりを挟む
 森の中は、思ったより静かだ。森の外はあんなに風が強いのに、ここは風が穏やかで地面はごつごつした岩が多く、太い木がまばら育っていた。
 外から見ると密林の様に見えていたが、実際は森の周囲になぜか草木が生い茂っていたのだ。

 「うーん。どれが魔鉱石だろう? 聞くの忘れちゃった」

 借りたリュックを手にマイゼンドは、辺りを見渡した。

 「とりあず、魔鉱石と思われる石を入れて行こう!」

 すっかり魔鉱石の特徴を聞き忘れていた。
 手あたり次第、魔鉱石だと思った石をリュックに入れて行く。

 ガルルル……。

 唸り声が聞こえマイゼンドが顔を上げると、オオカミの様なモンスターが彼に飛びかかって来ていた!

 「うわ!」

 驚くも、その攻撃をかわした。

 (アーシャリーさんが言った通り、簡単にかわせる)

 思ったよりモンスターの攻撃は、速く感じなかった。たぶんモンスターに自分の攻撃は効かないだろうと、攻撃をかわしつつ魔鉱石拾いを続行する。
 だが1体だと思って拾っていると、いつの間にか囲まれていた。

 「あわわわ……。いつの間にか、いっぱいになっちゃった」

 と台詞を言っている間も、モンスターは襲って来る。マイゼンドはそれをひょいとかわす。

 かわせるとはいえ、6体も居れば魔鉱石を拾う余裕がない。でも一旦引くにしても、またここに来るのが面倒だった。

 「あ、そうだ」

 ふとマイゼンドは、数を減らす方法を思いつく。
 モンスターが、マイゼンドを追いかけ襲ってきた時に、傍にいたモンスターを鎖鎌を引っ掛け、自分の前に持って来た。盾にしたのだ。
 予めそのモンスターに浮遊を掛け動けなくしておき、タイミングを合わせて引き寄せた。それは大成功して、攻撃してきたモンスターに盾にされたモンスターは倒された!

 「やった。うまくいった!」

 この作戦で次々とモンスターを倒して行く。数が少なくなれば魔鉱石を拾えるので、多くなるとそうやって数を減らしていた。これはこれで、結構楽しかったのだ。自分で倒しているわけではないが、何となく戦っている気分を味わえた。

 「だんだんリュックが重くなってきたな……」

 モンスターに浮遊を使うので、リュックに浮遊を使えないのだ。半分ぐらいになったので、そろそろ切り上げようかと思った時だった――

 ふと見た目の前のモンスターが、むくむくと巨大化していく。

 「………」

 一瞬何が起きたかわからないマイゼンドだったが、大きくなる=レアモンスターだと思い出した。

 「え~~!! なんで? モンスターを食べてないよね?」

 確かに食べてはいないが、モンスターを倒していたので経験値・・・がレア化したモンスターに入っていたのだ。勿論そんな事は思いつかないマイゼンドは、とにかく逃げ出した!

 走って森からポンと飛び出し、浮遊でゆっくりと……煽られながらも地面に着地する。

 「どうしよう。またレアモンスターにしちゃったよ!」

 亀のモンスターに続き、2体目だ。モンスターをレア化させた冒険者などそんなにいないだろう。しかも2回目なのだ。

 「アーシャリーさん!」

 川を渡ったマイゼンドは、泣きそうだった。

 「よかった無事だったのね。って、何かあった?」

 青ざめた顔のマイゼンドを見て、アーシャリーが聞くと彼は項垂れた。

 「また、レアモンスターにしちゃった。どうしよう……」

 「うん? レアモンスター? えぇ!! あの森にレアモンスター!? 初めて聞いたわ」

 「そうなの? ど、どうしよう……」

 「報告しに行くわよ。急がないと! あの森には魔鉱石を取りに行く冒険者しか行かないけど、その人達が強いとは限らないから!」

 「え!」

 凄く大変な事をしてしまったと、さらにマイゼンドは青ざめる。

 (余計な事をしてごめんなさい!)

 心の中で謝るマイゼンドは、ひょいとアーシャリーを持ち上げた。

 「きゃ。ちょっと何!?」

 「急がないといけないから!」

 浮遊を掛けられ逃げられないアーシャリーは、傍から見るとお姫様抱っこされて運ばれている様に見える。

 「ちょっと待って! これ、恥ずかしいから~」

 アーシャリーの悲鳴に似た言葉は、風に乗ってかき消されていった。



 「シバリさん!」

 冒険者協会に入って、ちょうど見つけたシバリにマイゼンドが声を掛けると、彼は振り向き二人を見て驚いた。二人共顔色が真っ青だったのだ。
 アーシャリーは、浮遊で浮かされ凄い速さで運ばれたからだが。

 「何があった?」

 「レアモンスターを作っちゃいました!」

 「……うん?」

 マイゼンドの意外な言葉に、色々ともめ事を解決してきたシバリも驚いた。

 「とりあず、部屋へ」

 ふらふらと歩くアーシャリーに、マイゼンドが大丈夫と聞くと軽く頷く彼女だが、今にも倒れそうだ。
 部屋の木のイスに座るとアーシャリーは、大きなため息をついた。

 「で、一体何がありました?」

 「魔鉱石の森でレアモンスターを作っちゃいました! ごめんなさい!」

 二人が座る中、立ったままのマイゼンドが深々と頭を下げるも二人は「?」が頭に浮かぶだけだ。まさか言葉通り、マイゼンドがモンスターをレアモンスターにしたなど思いつきもしなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

モモ
恋愛
私の名前はバロッサ・ラン・ルーチェ今日はお父様とお母様に連れられて王家のお茶会に参加するのです。 とっても美味しいお菓子があるんですって 楽しみです そして私の好きな物は家族、甘いお菓子、古い書物に新しい書物 お父様、お母様、お兄さん溺愛てなんですか?悪役令嬢てなんですか? 毎日優しい家族と沢山の書物に囲まれて自分らしいくのびのび生きてる令嬢と令嬢に一目惚れした王太子様の甘い溺愛の物語(予定)です 令嬢の勘違いは天然ボケに近いです 転生ものではなくただただ甘い恋愛小説です 初めて書いた物です 最後までお付き合いして頂けたら幸いです。 完結をいたしました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

スライムから人間への転生〜前世の力を受け継いで最強です

モモンガ
ファンタジー
5/14HOT(13)人気ランキング84位に載りました(=´∀`) かつて勇者と共に魔王を討伐したスライムが世界から消えた…。  それから300年の月日が経ち、人間へと転生する。 スライムだった頃の力【勇者】【暴食】を受け継ぎいろんな場所を巡る旅をする そんな彼の旅への目的はただ1つ!世界中の美味しいご飯を食べる事! そんな食いしん坊の主人公が何事もないように強敵を倒し周りを巻き込んで行く! そんな主人公の周りにはいつのまにか仲間ができ一緒に色々なご飯を食べて行く!  *去年の9月まで小説家になろう。で連載を辞めた作品です。  続きを書こうと気持ちになりまして、こちらで再開しようもおもった次第です。  修正を加えてます。  大きいのは主人公の名前を変えました。(ヒロインと最初の一文字が被っている為)  レアル→リューク  ラノベ専用アカウント作りましたー( ̄∀ ̄)  Twitter→@5XvH1GPFqn1ZEDH

処理中です...