ステータスに攻撃力はありませんが、☆《白星》スキルで乗り切ります

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
27 / 40

第27話 舞い戻ってみると

しおりを挟む
 アーシャリーは、とりあえず今はパーティーの仲間と合流する事が先決だと、詳しくは聞かずにトンネル内に入った。
 広くはないトンネルだが、馬車一台は通れる広さはある。一応、倒れた者を助け出す為に作ったトンネルだからだ。
 走って30分で出口だった。

 「会わなかったね」

 アーシャリーの仲間が向かっていればトンネル内で出会っていないとおかしい。

 「救援隊を呼んだのかもね。私達のパーティーには回復魔法を扱える者がいないからね」

 「そういうもんなんだ」

 「ところで聞くけど、私を向こう岸に渡せる?」

 「え!?」

 マイゼンドは、仲間に出会えなかったという事は自分がアーシャリーを向こう岸へ運ばなくてはいけない事に気がついた。
 今まで浮遊をかけて移動した事はあるが、どれも手で押していたのだ。飛ばしたわけではない。

 「あ、そっか。助走をつけてジャンプしてくれれば、浮遊させて移動する事が出来ると思うけど、ただ……五分間だけなんだよね。浮かせられるの」

 「そ、そう……」

 マイゼンドから心許ない返事が返って来て、アーシャリーは不安になるも渡る方法はそれしかない。
 恐怖心はあるが、助走をつけてジャンプする。

 アーシャリーは、ふわりと浮いて横に飛ばされた!

 「きゃー!」

 「わー。ごめんなさい! 頑張れ~」

 何を頑張ればいいのよ! と叫びたくなるほどアーシャリーは風に煽られ斜めに進んだ。何とか向こう岸までたどり着いた彼女は、川辺に座り込んでいる。

 「行きます!」

 次は自分の番だと、マイゼンドも助走をつけてジャンプ。みごと、風に煽られアーシャリー同様斜めに進んだ。

 「あぁ、酷い目にあった」

 「それ、私の台詞じゃないかな?」

 川辺に降りたマイゼンドが、四つん這いになって言ったのを聞きつけ、アーシャリーが言う。

 「あ、ごめんなさい」

 「別に責めてないわよ。でも浮遊の魔法のレベルが違うと、こうも違うものなのね……」

 今回の事で、また浮遊のスキル上げをやろうと心に誓うマイゼンドだった。



 トグリップ街は、魔鉱石の森がある近くにある街だ。あの大きな川が街から見える場所にある。二人は、走って街へと向かう。
 その時にマイゼンドは思った。いつも走っているスピードよりかなり遅いのだ。他人と走った事なんてしばらくなかったマイゼンドは、自分が凄く速くなっている事に本当に驚いていた。

 走っていれば彼らに追いつくと思っていたアーシャリーだったが、よく考えれば救援隊を呼びに行ったのなら走って戻っているはずだ。しかも二人は、トンネルを抜けて来ている分、時間を食っている。

 「このままだと救援隊と行き違いになる可能性があるわね」

 パーティーの仲間は、アーシャリーを知っているので気がつくが、救援隊だと本人とすれ違っても気づかないだろう。レベル差があるので、救援隊だと発見できてもアーシャリーでは追いつけないのだ。

 「残っていればよかったかしら?」

 「うん? 何?」

 「ううん。街に着いたら冒険者協会に向かいましょう」

 「うん」

 マイゼンドはわかったと頷く。

 川を渡ってからずっと走り続けて一時間ほどで、街に到着した。
 アーシャリーは、自分の速さについて来たマイゼンドをやはりただ者ではないと思っていた。

 「あれ? マージ」

 「うん? 誰?」

 アーシャリーが街の出入り口付近にいる冒険者達を見て呟いた。
 マイゼンドが質問をするも答えずに、そっちに走って行く。

 「マージ!」

 アーシャリーが名を呼ぶと、冒険者の一人が振り返った。大きな荷物を背負い、大きな剣を下げた男性だ。
 マージは振り返りアーシャリーを見た途端、固まりおののいた。

 「お前、生きていたのか……」

 そうマージに返されたアーシャリーも三人を見て驚いていた。軽やかに笑っていたのだ。仲間が死んだかも知れないという状況には見えなかった。なので、今の台詞は、「生きていてよかった」とは聞こえない。

 「彼のお蔭で助かったわ」

 「そ、そっか」

 「救援隊は?」

 「救援隊? 頼んでない」

 「え? それって見捨てたって事?」

 マージの台詞に、更にアーシャリーは驚いた。

 「いや、だって、生きていると思わなかったから……」

 そう目を泳がしマージは答える。

 「そう、よくわかったわ! 私の荷物返してもらえる?」

 「……ねぇよ」

 「え?」

 「だからないって! 死んだと思ったから処分した!」

 「何それ! 生死も確認せずパーティー仲間の装備品を勝手に処分したの? もしかしたらこうやって帰って来るかもしれないのに、一瞬も待たずに? もう処分したって事は、戻ってすぐに売ったって事だよね? 魔鉱石は? 昨日の分までの集めた私の分!」

 「あるわけないだろう?」

 「何よそれ!」

 「おい、行くぞ」

 パーティーに声をかけマージがアーシャリーに背を向けた。

 「訴えてやるからね!」

 逃げるように去る三人に、泣きながらアーシャリーが叫ぶ。
 マイゼンドは、何が起きたかよくわからないが、荷物が全部なくなったのだけは理解したのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...