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6話

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 ダンスが終われば、人々に囲まれた。

 「素敵ですわ。こんな事ってあるのですね」
 「おめでとうございます」

 集まった方々から祝いの言葉を頂く。

 「あの、こんな時になんなのですが、あの方はご家族ですか?」

 私達は、お父様達に目を向ける。
 壁の花になるべく、恥によりもとい端により小さくなっている三人。パーティー中は、施錠されている為に会場を抜けられないからそうするしかないのでしょうね。

 「まあ、あんなところに。お父様ですわ」
 「では、お母様の意思をとは……?」

 陛下が言われていた意味はどういう意味だと言う顔つきになる。母親は死んだのではないかという事でしょう。

 「お父様は、あの方と再婚なさりましたの。本来なら子連れと再婚などあまりないので、どう対応したらよいのか……」
 「まあ! 彼女達に遠慮して今まで参加なさっていなかったのですか? 確か記憶が確かなら昨年度もいらっしゃっておりましたよ」

 そう説明してくれるご婦人が、チラッと三人を見れば皆一斉に振り向く。
 二人は、美人親子ですもの印象に残るでしょうとも。まあそれだけではないとは、思いますが。

 「もしかして何かご迷惑を。でしたら謝りますわ」
 「いいえ。私達は何もただ……公爵家の子息に言い寄っていらしたので、少し目立っていたのですわ」
 「まあ」

 私はさも、今知ったかのように驚いてみせた。
 もちろん彼女達が仕出かした事など知っているわ。でもこのまま追い出しても、不名誉が私達に降りかかる可能性があるからね。

 パーティーは約2時間ほど開かれる。施錠は1時間半経ったところで解除されているが、お父様達はまだ残っていた。
 私達が出て行く所で話しかけようとしているのでしょうね。でも残念ね。私達は陛下に呼ばれているので、ドアからは退場しないのよ。

 私達が歩き出せば、三人も移動を始めた様子。
 さてどうするのかしらね。

 「シャルル! これはどういう事だ」

 通路を歩いていれば後ろから怒鳴り声が響く。
 静かな場所なのだから大きな声でなくても聞こえると言うのに、恥ずかしい。

 「まあ、お父様。お二人もどうなさりましたの?」
 「おや? どうやってこちらへ」

 許可がなければ、ドアを通してもらない。

 「そ、それは、お前の父親だと言って通った」

 やっぱりそう言って通ろうとしたのね。本来、それでも通れないのだけどわかっているのかしら?
 私が、もしお父様が来たら通して欲しいとお願いしたからなのだけど。これ以上奥には、私が言っても無理だけどね。

 「そうですか。それでどのようなご用件でしょうか」
 「僕達は、陛下に呼ばれているので待たせるわけにはいかないんだ」
 「よ、呼ばれているだって。どうして」
 「さあ? 行かないとわかりませんわ」
 「ねえ、シャルル。殿下にお会いできるかしら?」

 シャーロット嬢が目を輝かせて聞いてきた。
 一緒について行けると思っているの?

 「呼ばれたのは私達なので、あなた達はいけないわよ」
 「そんな事、言わなくても承知しているだろう」

 何か言いたげな顔つきでシャーロット嬢が睨みつけて来た。

 「あなた達が殿下達に何か告げ口したのでしょう!」
 「告げ口?」
 「へえ。君たちは告げ口をされるような事をしたと言う事かい?」

 シャーロット嬢の言葉にレイモンドが言い返せば、お父様が慌てた様子を見せる。

 「するわけないだろう」
 「そうよ! 私が言っているのは、私宛に来た手紙を握りつぶしたのでしょうって事よ。返事がなかったから嫌われちゃったのよ!」
 「あら、そう言われたの? 手紙を出したけど返事をくれたなかったって」
 「い、言われてはいないけど……。でも、お付き合いするはずだったのよ! それなのに!」
 「何をしている!」

 突然声が掛かり、ハッとして振り向けば騎士隊長と第二殿下が立っていた。今、噂をしていた相手だ。

 「殿下! あの……」

 シャーロット嬢が声を掛けようとすると、騎士隊長がギロリと睨む。

 「ちょうどよかったよ。三人を召喚しようと思っていたところです。こちらへどうぞ。お二人も」

 あら思わぬ事態だわ。ここで追い返すつもりだったのに。
 どうやら三人の行為は、目に余った様ね。

 私達は、別々の部屋に案内された。というより、私達は予定通り陛下のいる部屋へ案内されたようだ。

 「遅くなり申し訳ありません」
 「よい」
 「父上……」

 一緒に部屋に来た第二殿下が陛下に耳打ちしている。
 さっきあった事を報告しているのでしょうね。どこから聞いていたのかしら。

 「全く。実の父親だと言うのに水を差すような事をするとはな。君達の功績は大いに評価している。宝石ラリーと言ったか。あれを他の管轄領土でも行う事となった」
 「まあ。ブームになるといいですわね」
 「この国の観光名物にね」
 「こほん。そう言っていただけるとありがたい。本来なら発案者として称えたいところなのだが、ただ一方で変な噂も立ってしまっているのでな」
 「ありがとうございます。では、発祥の地として紹介していただければ、嬉しいですわ」
 「個人としての表彰はいらぬと?」
 「えぇ。私はトンネルを掘って頂く為にそれらを提案したにすぎません。成功したのは、宝石を加工する腕のよい職人達のおかげでしょう」
 「わかった。その様に致そう。では次に、かの者達を呼べ」
 「っは」

 三人を裁くのね。
 しばらくすれば、三人が部屋に連れて来られた。
 シャーロット嬢が浮ついた顔つきではないところを見ると、三人と一緒に部屋に入った騎士隊長に何か言われたのね。

 「ゴラン・グルーンに問う。君と一緒に来た二人は、グルーン家の者か?」
 「それは……」

 ここで違うと言えば、伯爵家の者ではないものを連れて入場した事になる。グルーン家の者だと嘘をつき、バレれば嘘の申告をした事により罰せられるでしょう。
 そもそもこの場でそれを問いただされているのだから、知れているとわかっているはず。

 「答えられぬか?」
 「あなた、話したのね!」

 メーラ夫人がキッと私を睨みつけ言った。
 この場で、口を開くなんて怖いもの知らずね。

 「彼女達は何も言っておらん。それと、そなたに発言を許可していない!」
 「ひぃ」
 「申し訳ありません。彼女は、私と再婚した妻とその子です」
 「では、シャーロットはそなたの子ではないのだな」
 「……いえ、私の子です」

 え? 何を言っているのよ。
 お父様は、顔を上げ陛下を見つめ答えていた。その顔は嘘を言っている様に見えない。

 「では、血の繋がりはあると?」
 「はい。私がグルーン家に婿に入る前にお付き合いしていたのがメーラです。私の子がいたと知ったのは、数年前。彼女とは愛し合っていたのです。ですが、家の事情があり彼女が身を引いたのです。それが、妻が亡くなり落ち込んでいた時に彼女に再会したのです」

 落ち込んでいたって……その言い方だとお母様が亡くなって悲しみにくれていたみたいに聞こえるけど、仮当主になれなくて凹んでいたのでしょう。
 お父様が、彼女達の言いなりなのがやっとわかったわ。もう偶然なわけないでしょう!
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