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5話
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「さすが、新しい馬車ね。今までと乗り心地が違うわ」
「お母様、三人並んで座ってもゆとりがありますわね」
「しかし、これを買う金はいったいどこから?」
目の前に座る三人は、物珍しそうに馬車の乗り心地を確かめていた。
何となくだけど、私の隣に座るレイモンドをいないものとしているような感じ。
せめてもの反発かしらね。
これから王家のパーティーに出席する。その為に向かっていた。
別々の馬車で行こうと思ったのだけど、なんと三人は先に乗り込んだのよ。扉を開けたレイモンドもびっくり。
「きっと今年は、交際を申し込まれると思うの」
「まあ、どなたが?」
「それが、殿下に公爵子息を筆頭にかしら」
「まあ、それは悩むわね」
本当にばかばかしい。早く縁を切りたいわ。
馬車は、パーティー会場に近づくとスピードが落ちた。会場に向かう馬車の行列に並んだからだ。
「あら止まったわ」
ガチャリとドアが開く。
御者が開けてくれた。
「どうぞ」
レイモンドがそう言うと、三人が次々と降りる。
「え? まだ会場にほど遠いようですが」
どうしてここに止まったのだろうと、メーラ夫人が馬車に乗ったままの私達に振り返った。
「ここからは歩いて下さい」
「まあ、酷いではありませんか?」
すかさずレイモンドが言えば、三人は憤る。
「仕方がないでしょう。私達は、王家にきちんとご招待頂いているので、入り口が違うのです」
「勝手に乗り込んだ、あなた達が悪いのでしょう? 普通は、一言あると思いますの。では失礼しますね」
ひらひらと招待状を見せていたレイモンドが、ドアをバタンと閉めれば馬車は走り出す。
叫ぶ三人が、みるみる小さくなっていく。
「本当に遠慮がない方々だ。結局二人っきりの時間が減ったではないか」
「これから嫌になるほどあるから大丈夫よ」
「え? 嫌なの?」
「い、嫌ではないわよ」
「よかったぁ」
そう言って、ギュッと抱き寄せられた。
遠慮がないのはどちら様かしらね。誰も見ていないけど、恥ずかしいのだけど。
「あそこからだと一時間ぐらいかかるかな? きっとダンスなんて踊る体力も気力もなくなるだろうね」
「踊るも何も、誰も相手になどしないでしょう」
「確かにね。悪いけど、帰りは辻馬車で帰ってもらう事になるね」
「悪いなんて微塵にも思ってない癖に」
「あ、バレた?」
レイモンドは、子供っぽい笑顔で笑う。
たまに見せるいたずらを楽しんでいる様な顔。
前世では18歳だとまだ子供って感覚だけど、この国では十分大人なのよね。
というより、学園を卒業すればちゃんと大人扱いされる。
なので、お父様がいたけど承諾なしに婚約を結べた。だからレイモンドも、私が卒業するまで待ったのでしょう。
「どんな顔するかな? 僕達が呼ばれたら」
5分ほどでパーティー会場に着き、馬車を降り私にほほ笑みかけて言った。
とても嬉しそうなこと。
「さあ。気が付くかしらね。その意味に」
「本来ならあの降ろされた時に気づかないとね」
「それが出来れば、もう相手に見限られていると昨年気づいているわよ」
人が近づいてきたので、私達は会話を止めた。
「グルーンご夫妻でしょうか」
「はい」
「本日は誠におめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
「お部屋にご案内します」
王宮の使用人に着いて行き、豪勢な部屋へと案内される。
「今日は会場にてパーティーをお楽しみ頂いた後、陛下からお話があるとの事です」
「わかりました。パーティー後伺いますわ」
「では、お呼び致しますまで、お寛ぎ下さいませ」
私達がソファに座ると使用人が、ティーを入れ置いた。
「何かございましたらベルでお呼び下さい。私は外で控えております」
「わかりました」
使用人は、礼をすると部屋から出て行った。
今日私達は、陛下の招待客といて招かれている。
この王家が開催するパーティーに参加するのには、2通りある。一つは、招待状なしで会場入りする。この為には伯爵以上でなければならない。
なので本来ならメーラ夫人もシャーロット嬢も入れないはず。
もう一つは、招待状を頂いて祝ってもらう側として参加する。
社交シーズン以外でも年に何回か行われる王家主催のパーティーでは、陛下に招待された者を祝う場でもあった。
社交デビューや結婚、そして功績を称えてなどだが、それは陛下に選ばれた者として名誉ある事。
招待された私達は、名を呼ばれ入場する事となる。
「順番が参りました」
使用人に言われ大きなドアの前で待機する。
「グルーンご夫妻の入場です」
その言葉と同時にドアが開き、煌びやかな会場が目の前に広がった。先に呼ばれた者が二組、陛下の傍にいる。
「シャルル・グルーン殿とレイモンド・グルーン殿の功績と婚姻を祝いましょう」
礼をして私達は会場へと進む。その私達を拍手と驚きの声が包む。
「まあグルーンって、グルーン伯爵? では、あちらの方は?」
「令嬢はお一人ではなかったのですか?」
「どうなっておりますの?」
私達とグルーン伯爵一家を名乗ったお父様達を見比べる者達。
普通なら小娘など名乗った所で歯牙にもかけないでしょうけど、トンネル事業の事は王都にも噂が広まっている。
いえ、広めたのよ。知らないと使ってもらえませんからね。
物流が動くようなプロジェクトは、国のもとい陛下の許可がいる為、もちろん陛下もご存じよ。
そして、開通して約一年、滑り出しは順調。
私達は、プロジェクトのパートナーだったが、この度婚姻する事になりましたとご報告申し上げたのです。
もちろん、こうやって社交シーズンに開催されるパーティーで祝ってもらえる為に、王都デビューはまだですと添えて。
功績を祝って頂けるのなら社交シーズンに呼ばれるだろうと言う目論見は当たり、招待状が来たのだった。
三人は青ざめて固まっていた。針の筵でしょうね。
お祝いムードだから追い出されないけど、騒げば追い出されるどころではないわよ。
お父様達と目が合ったので、最高の笑みを返した。三人は、引きつった顔になる。
「皆も知っていると思うが、グルーン伯爵家はトンネルを開通し、王都への新たなる道を切り開いた。彼女は母の意思を継ぎ、ネポーヌ子爵家と共に見事にトンネルを開通させた。そして、彼らの絆は友情から愛情へと変わり、めでたく二人は結婚する運びになった。おめでとう!」
「「ありがとうございます」」
また、盛大な拍手が私達に送られる。送ってないのは、家族だと名乗っていた三人のみ。
三組目の私達の紹介とお祝いが終わると、招待された私達がダンスを披露するのが仕来り。
大勢に祝われながら踊るダンスは最高よ!
「やっぱり君が一番美しい」
危なくステップを間違う所だったじゃない。急に変な事を言わないで欲しいわね。
「そんな事を言うのはレイモンドだけよ」
「そりゃそうだよ。愛を囁く特権は僕のものだ」
どうしてそんなキザなセリフが言えるのかしらね。慣れていないからやめて~。
「僕が支えるから好きなだけ寄りかかっていいからね」
「ありがとう。そうするわ」
軽やかにステップを踏みながら、この後の事を考えると少しだけ、そうほんのちょっぴりだけ悲しい気持ちになるのだった。
「お母様、三人並んで座ってもゆとりがありますわね」
「しかし、これを買う金はいったいどこから?」
目の前に座る三人は、物珍しそうに馬車の乗り心地を確かめていた。
何となくだけど、私の隣に座るレイモンドをいないものとしているような感じ。
せめてもの反発かしらね。
これから王家のパーティーに出席する。その為に向かっていた。
別々の馬車で行こうと思ったのだけど、なんと三人は先に乗り込んだのよ。扉を開けたレイモンドもびっくり。
「きっと今年は、交際を申し込まれると思うの」
「まあ、どなたが?」
「それが、殿下に公爵子息を筆頭にかしら」
「まあ、それは悩むわね」
本当にばかばかしい。早く縁を切りたいわ。
馬車は、パーティー会場に近づくとスピードが落ちた。会場に向かう馬車の行列に並んだからだ。
「あら止まったわ」
ガチャリとドアが開く。
御者が開けてくれた。
「どうぞ」
レイモンドがそう言うと、三人が次々と降りる。
「え? まだ会場にほど遠いようですが」
どうしてここに止まったのだろうと、メーラ夫人が馬車に乗ったままの私達に振り返った。
「ここからは歩いて下さい」
「まあ、酷いではありませんか?」
すかさずレイモンドが言えば、三人は憤る。
「仕方がないでしょう。私達は、王家にきちんとご招待頂いているので、入り口が違うのです」
「勝手に乗り込んだ、あなた達が悪いのでしょう? 普通は、一言あると思いますの。では失礼しますね」
ひらひらと招待状を見せていたレイモンドが、ドアをバタンと閉めれば馬車は走り出す。
叫ぶ三人が、みるみる小さくなっていく。
「本当に遠慮がない方々だ。結局二人っきりの時間が減ったではないか」
「これから嫌になるほどあるから大丈夫よ」
「え? 嫌なの?」
「い、嫌ではないわよ」
「よかったぁ」
そう言って、ギュッと抱き寄せられた。
遠慮がないのはどちら様かしらね。誰も見ていないけど、恥ずかしいのだけど。
「あそこからだと一時間ぐらいかかるかな? きっとダンスなんて踊る体力も気力もなくなるだろうね」
「踊るも何も、誰も相手になどしないでしょう」
「確かにね。悪いけど、帰りは辻馬車で帰ってもらう事になるね」
「悪いなんて微塵にも思ってない癖に」
「あ、バレた?」
レイモンドは、子供っぽい笑顔で笑う。
たまに見せるいたずらを楽しんでいる様な顔。
前世では18歳だとまだ子供って感覚だけど、この国では十分大人なのよね。
というより、学園を卒業すればちゃんと大人扱いされる。
なので、お父様がいたけど承諾なしに婚約を結べた。だからレイモンドも、私が卒業するまで待ったのでしょう。
「どんな顔するかな? 僕達が呼ばれたら」
5分ほどでパーティー会場に着き、馬車を降り私にほほ笑みかけて言った。
とても嬉しそうなこと。
「さあ。気が付くかしらね。その意味に」
「本来ならあの降ろされた時に気づかないとね」
「それが出来れば、もう相手に見限られていると昨年気づいているわよ」
人が近づいてきたので、私達は会話を止めた。
「グルーンご夫妻でしょうか」
「はい」
「本日は誠におめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
「お部屋にご案内します」
王宮の使用人に着いて行き、豪勢な部屋へと案内される。
「今日は会場にてパーティーをお楽しみ頂いた後、陛下からお話があるとの事です」
「わかりました。パーティー後伺いますわ」
「では、お呼び致しますまで、お寛ぎ下さいませ」
私達がソファに座ると使用人が、ティーを入れ置いた。
「何かございましたらベルでお呼び下さい。私は外で控えております」
「わかりました」
使用人は、礼をすると部屋から出て行った。
今日私達は、陛下の招待客といて招かれている。
この王家が開催するパーティーに参加するのには、2通りある。一つは、招待状なしで会場入りする。この為には伯爵以上でなければならない。
なので本来ならメーラ夫人もシャーロット嬢も入れないはず。
もう一つは、招待状を頂いて祝ってもらう側として参加する。
社交シーズン以外でも年に何回か行われる王家主催のパーティーでは、陛下に招待された者を祝う場でもあった。
社交デビューや結婚、そして功績を称えてなどだが、それは陛下に選ばれた者として名誉ある事。
招待された私達は、名を呼ばれ入場する事となる。
「順番が参りました」
使用人に言われ大きなドアの前で待機する。
「グルーンご夫妻の入場です」
その言葉と同時にドアが開き、煌びやかな会場が目の前に広がった。先に呼ばれた者が二組、陛下の傍にいる。
「シャルル・グルーン殿とレイモンド・グルーン殿の功績と婚姻を祝いましょう」
礼をして私達は会場へと進む。その私達を拍手と驚きの声が包む。
「まあグルーンって、グルーン伯爵? では、あちらの方は?」
「令嬢はお一人ではなかったのですか?」
「どうなっておりますの?」
私達とグルーン伯爵一家を名乗ったお父様達を見比べる者達。
普通なら小娘など名乗った所で歯牙にもかけないでしょうけど、トンネル事業の事は王都にも噂が広まっている。
いえ、広めたのよ。知らないと使ってもらえませんからね。
物流が動くようなプロジェクトは、国のもとい陛下の許可がいる為、もちろん陛下もご存じよ。
そして、開通して約一年、滑り出しは順調。
私達は、プロジェクトのパートナーだったが、この度婚姻する事になりましたとご報告申し上げたのです。
もちろん、こうやって社交シーズンに開催されるパーティーで祝ってもらえる為に、王都デビューはまだですと添えて。
功績を祝って頂けるのなら社交シーズンに呼ばれるだろうと言う目論見は当たり、招待状が来たのだった。
三人は青ざめて固まっていた。針の筵でしょうね。
お祝いムードだから追い出されないけど、騒げば追い出されるどころではないわよ。
お父様達と目が合ったので、最高の笑みを返した。三人は、引きつった顔になる。
「皆も知っていると思うが、グルーン伯爵家はトンネルを開通し、王都への新たなる道を切り開いた。彼女は母の意思を継ぎ、ネポーヌ子爵家と共に見事にトンネルを開通させた。そして、彼らの絆は友情から愛情へと変わり、めでたく二人は結婚する運びになった。おめでとう!」
「「ありがとうございます」」
また、盛大な拍手が私達に送られる。送ってないのは、家族だと名乗っていた三人のみ。
三組目の私達の紹介とお祝いが終わると、招待された私達がダンスを披露するのが仕来り。
大勢に祝われながら踊るダンスは最高よ!
「やっぱり君が一番美しい」
危なくステップを間違う所だったじゃない。急に変な事を言わないで欲しいわね。
「そんな事を言うのはレイモンドだけよ」
「そりゃそうだよ。愛を囁く特権は僕のものだ」
どうしてそんなキザなセリフが言えるのかしらね。慣れていないからやめて~。
「僕が支えるから好きなだけ寄りかかっていいからね」
「ありがとう。そうするわ」
軽やかにステップを踏みながら、この後の事を考えると少しだけ、そうほんのちょっぴりだけ悲しい気持ちになるのだった。
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