【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)

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3話

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 私は、翌年の王都でのデビューも見送った。

 「君が行くと思っていたから。二人もその気なんだ。去年同様……」
 「お父様。昨年は王都でデビューしたいという願いからその日だけの許可のつもりでした。ですがあなた方は、社交シーズン中戻ってこなかった。それで、タウンハウスを貸すと思いますか?」
 「困るのよ。公爵家の子息の方と今年も会う約束をしているのよ。抗議が来るわよ」

 シャーロット嬢の言葉に私は目を丸くする。
 きっと嘘ではないのだろうけど、相手が本気ならすでに彼女の事は調べられているはずよ。
 恋愛結婚が出来ると言ってもと公爵家の子息が出来るわけがない。せめてなら可能でしょうけどね。

 お父様が自分の娘だと言ったからと言って、それを鵜呑みにして何も調べないわけないでしょう。むしろ一年後と言ったのは、その間に調べるつもりだったのでしょう。

 たぶん公爵家の子息は、シャーロット嬢にぞっこんになった。伯爵令嬢なら結婚できる。両親に交際を申し込むのは待ちなさいと諭されたに違いない。

 もしOKが出たのなら一年を待たずに、申し込んでくるわよ。ぞっこんなら尚更。シャーロット嬢の美貌なら誰かに取られる可能性があるものね。
 でも誰からも打診はきていない。

 当主の座とシャーロット嬢を天秤にかけ、相手は当主の座をとった。二人はその座がどれだけのものか、わかっていないのよね。

 もし騙せたとしても、私の存在を知れば相手の知るところとなるでしょう。そうすれば、シャーロット嬢は捨てられる。
 もちろんそれは、お父様も一緒。グルーン家の籍から外される事になる。お父様は、それをわかって二人に加担しているのでしょうね。
 本当に恋は盲目とはよく言ったものよね。

 「別に一日だけ参加するのなら、タウンハウスでもなくてもよろしいでしょう?」
 「何を仰います。宿など今から手配など間に合いませんわ」

 メーラ夫人の言葉に、そんな事知った事かと思うも三人は食い下がる。
 段々、めんどくさくなってきた。
 こっちも三人が居ない方が、スムーズに事が運ぶかもしれない。

 「わかったわ。パーティーに参加する前後の三日間だけ許可するわ。それ以外の宿泊は、後日ご請求させて頂きます」
 「すまないな、シャルル」

 安堵するお父様だけど、二人は感謝の言葉すらない。それどころか……。

 「全くこんな小娘が権限を持っているなんて。プロジェクトを受け継いだとかいうけど、ただのお飾りでしょう。偉そうに」

 聞こえているわよ。許可を取り消されたいのかしら。

 三人は、意気揚々と王都へと出かけて行った。そして、約束通り、三日間だけ泊まって帰って来たのだった。

 よほどお金を請求されたくなかったのね。
 それとも当てが外れたのかしら。
 お金さえ払ってくれれば、社交シーズン中王都に居てもよかったのに。静かでよかったわぁ。いなかった20日間ぐらい。
 王都は往復で20日ほどかかる。行くのが大変なのよね。でも来年は、当主として行かなくてはいけない。

 お陰様で、プロジェクトは成功しとうとう王都でのお披露目となった。
 もちろん行くのは私とお父様の二人のはずだったのだけどね。
 でも、屋敷に二人を残しておくのも不安なのよね。という事で、昨年同様王家のパーティーの前後3日間だけの滞在を許した。

 三人が王都に向けて出発した二日後、私も王都へ向け出発。

 「馬車が間に合ってよかったわ。乗り心地は凄くいいわね」
 「そうだね。僕も乗せてもらえるなんて、ありがとう」
 「もちろんよ。旦那様ですもの」

 私の横に座る艶やかな紺の髪に、我が国では珍しい銀の瞳の彼は、レイモンド・ネポーヌ。いえ、昨日さくじつ婚姻したのでレイモンド・グルーンになったのよね。

 彼との結婚の事は三人は知らない。
 さて知ったらどんな顔をするのかしらね。彼女達が、絶望する顔を早く見てみたいわ。
 私も、擦れたものよね。

 私達は、三人より後に出たはずだけど、タウンハウスには先に到着した。
 三人が乗った馬車は、おじい様の代からある年季が入った馬車。それに乗って王都を往復など実は嫌だったのよ。
 新しい馬車は、快適だったわ。まあこの世界ではの話だけど。

 「どういう事? なぜあなたが先に着いているのよ」
 「シャルル。あの新しい馬車はどうしたのだ?」
 「まあ、その方はどなた?」

 三人は驚いている。私が先についていた事、新しい馬車がある事、そして見た事がない男性が私の隣に立っている事に。

 「馬車を新調しましたの。お陰様で移動時間を短縮できましたわ。彼は、プロジェクトのパートナーでもあり、夫でもあるレイモンドよ」
 「「なんですって!?」」
 「き、聞いていないぞ!」

 お父様は、驚きと共に憤慨する。本気で怒っている様子。

 「あら。なぜお父様に言わなくてはいけないのかしら? 私からすれば、そちらの方と婚姻した時点で、グルーン家を抜けてもおかしくないのですから、いちいち言う必要もないでしょう」
 「だとしても、父である私に結婚の報告をするものだろう」
 「ですから今したではありませんか。それに、サプライズですわ。驚きまして?」

 私がクスリと笑えば、三人は黙り込んだ。何も言い返せないのだ。もしここで何かを言って私達の機嫌を損ねれば、三人一緒に追い出される。
 そう考える頭は持っている様ね。

 「はじめまして。ラドリフーン辺境伯管轄のネポーヌ家から婿入りしましたレイモンドです。、これから宜しくお願いします」
 「まあご丁寧にありがとうございます。先ほどは驚いてしまって、取り乱し失礼したしました。私は、ゴランの妻、メーラですわ」
 「私は娘のシャーロット・グルーンです」

 シャーロットは、飛び切りの笑顔でカーテシーをした。

 「おや、おかしな事を言うね。ゴラン様は僕と同じく婿入りしたと聞いております。再婚相手のご令嬢なのですから、グルーン家を名乗るのはおかしな事です」
 「「!」」

 レイモンドが、しれっと言えば三人は絶句する。
 当主の私の配偶者であるレイモンドは、お父様より立場は上になる。その相手に、ズバッと言われれば言い返せないでしょう。

 というか、やはりそう名乗っていたのね。

 「そもそも彼女達は、なぜここに滞在しているのですか?」

 わざと不思議そうな顔つきで私に問う。
 いや、ごもっともな疑問でしょう。まあ彼は答えを知っていて質問をしているのですけどね。

 「今年もどこぞのご子息と逢瀬のお約束をしたのだとか」
 「そうですか。で? なぜここに泊まる事に?」

 彼女達が誰と会おうが、ここに泊まる理由にはならない。そう言ったのだ。私も昨年そう答えたのだけどね。

 「む、娘には了解を得ている。いいではないか! さあ、二人共疲れただろう。部屋で休もう。失礼する」

 お父様が慌てて二人を連れ、部屋へと逃げて行った。三人は、グルーン家を乗っ取る事は不可能だと悟ったはず。
 まあ、どう考えても無謀な企みだけどね。
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