【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
78 / 83

第78話

しおりを挟む
 嘘でしょう! 何がどうなってるのよ!

 「ファビア! 馬車の周りに水の結界を張れるか」
 「え……」

 あ、落下速度が緩やかになっている。馬車を風魔法でゆっくり降ろしてるんだわ。

 「できるわ」

 馬車全体に水魔法で結界を張った。
 馬車は、川にザブンと落ちるも水が入って来る事はない。

 「ふう……」

 川の深さは思ったよりあり、横になった馬車の天井がぎりぎり出るぐらいだった。

 「すまないが、もう少しそのままで。まず俺がドアを開け、上から出て引っ張り上げるから、馬車から出よう」
 「うん。私は大丈夫。これくらいなら30分は持つ」
 「羨ましい事で。よっと」

 ドアを魔法で強引に開けると、そこからレオンス様はよじ登った。

 「まずは、フロール嬢」

 レオンス様が手を伸ばすも、フロール嬢は青ざめ震えている。

 「まさかもう、仕掛けて来たの……」

 小さくそう呟いたのが聞こえた。
 仕掛けて来た? 事故ではないの? いやそれより今は脱出が先よ。

 「フロール嬢! しっかりして! レオンス様に捉まって」
 「あ……うん」

 フロール嬢を何とか馬車の上に上げると、今度は私を引っ張り上げた。

 「はぁはぁ……」

 珍しくレオンス様が、息を切らしている。

 「レオンス様、大丈夫? 顔色悪いけど」
 「いやぁ。魔力切れかな……」
 「え!?」

 数分風魔法を使っただけなのに? 今までだって普通に使っていたよね?」

 「不思議そうな顔をするなよ。当たり前だから。適性がない属性をあんな風に使えば、こうなるんだ。10倍ぐらい魔力を消費するからな」
 「なんと!」

 そうだったんだ。10分は大丈夫みたいな事を言っていたけど、時と場合によるって事ね。

 「おーい。大丈夫かぁ」

 橋の上から誰かが叫んでいる。
 近くに居た人かもしれない。

 「今、警ら隊を呼んだ!」
 「ありがとうございます」

 レオンス様が返す。

 「フロール嬢、大丈夫か」
 「………」

 フロール嬢は、フルフル震えなたらも頷く。
 大丈夫そうには、見えないわね。

 「馬も無事……じゃない? おなかに怪我?」

 レオンス様が、横になった馬を見て驚いた。
 私も見てみると、お腹から血が出ている。

 その後、警ら隊により私達は、川から救助された。
 御者がいないと思ったら、馬車が落ちそうになったあの時、勢いよく反転した為に、橋の上に投げ出されていたのだ。
 怪我をしたけど、別々に川に投げ出されたわけでなくてよかったわ。
 川から落ちたのに、誰も死なずに済んだ。
 それは、私とレオンス様がいたから。どちらかだけだったら死んでいたわね。

 「ねえ、フロール嬢。しばらく、私の家に来ない?」
 「え……」
 「よく考えたら今の家に居づらいでしょう? それにまだ全部話を聞いていないし、守って欲しいって言っていたし」
 「でも……侯爵家に居候なんて」
 「ヒロインが何言ってるのよ」
 「……ありがとう。本当にお人好しなんだから」

 こうして、三人で一緒にココドーネ侯爵家へと行くのだった。

 ◇

 「話を聞いた時には、生きた心地しなかったわ。本当によかった」

 リサおばあ様に、ギュッと抱きしめられた。

 「ご心配をおかけしました」
 「まずは、湯を浴びなさい。あなたもね」

 リサおばあ様は、優しくフロール嬢にも話しかける。

 「ありがとうございます」
 「行きましょう」
 「あなたも休んで行きなさい。顔色が悪いわよ」
 「レオンス様。大丈夫ですか?」

 リサおばあ様とエメリック様が心配そうに言うと、大丈夫と令息スマイルで返事を返すレオンス様。
 本当は、横になりたいぐらい疲労感があると思うのだけど。

 「素敵な方たちね」
 「えぇ。一時期でも家族になれた私は幸せ者よね」
 「ふう」
 「大丈夫?」
 「えぇ。だいぶ落ち着いたわ」

 湯を浴び、ローレットに入れて貰った紅茶を飲みながら一息ついていた。
 レオンス様は大丈夫かしら。湯を浴びたらすぐ来るかと思ったけど、来ないし。先にちょっと聞いておこうかな。

 「ねえ、馬車の中で言っていた話の続きなのだけど……」
 「それは……」

 フロール嬢が壁に立つローレットをチラッと見た。

 「大丈夫よ。私も音を遮断する事が出来る事を知っているでしょう」
 「本当に凄いわね。あなた達は」

 フロール嬢は、紅茶をごくんと一口飲むと意を決した顔つきになる。

 「アマート様との出会いは、命を狙われたところを助けてもらうイベントなの」
 「え!」
 「アマート様は、あなた達みたいに魔法に興味を持ち色々と使える様になっていた。稀なる才能を持った魔法博士と言われていたわ。まあまだ卒業はしていなかったけどね」

 私達の様に扱えることを隠す事はせず、注目を浴びたのね。

 「王女の子だとバレたって事なの?」

 そうだとフロール嬢は頷いた。
 という事は、エイデース帝国の者が犯人? もしかしてマルシアール殿下とか?
 でもそもそも15年前の戦争って何が原因だったのかしら。

 「ねえ、ゲームに出てきているかわからないけど、15年前の戦争のきっかけって何?」
 「ディードアウト王国は、闇魔法が得意な国でその闇魔法で魔物を封じた。そして、管理していた。だけど、魔物を解き放そうとしているという疑惑があがり、エイデース帝国によって制裁が下された」
 「それって本当なの? 魔物はどうなっているの?」
 「ゲーム通りならエイデース帝国の管轄の元、そのまま封印されているはずよ」
 「そうなのね……」

 ゲームシナリオだとしても、フロール嬢に罪はない。それなのに、殺そうとするなんて。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアリスは婚約者のグリンデル侯爵から婚約破棄を言い渡された。 悲しみに暮れるはずの彼女だったが問題はないようだ。 アリスには優しい幼馴染である、大公殿下がいたのだから。

処理中です...