【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)

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第65話

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 「あなたは一体何がしたいのよ」
 「何っていいところに嫁に行って幸せになりたいのよ」
 「その先が、爵位を継ぐはずのアマート様だったというの?」

 そう言うと、ふーんと言いながらニヤリとする。

 「ハーモニカで演奏させたりしているから知っているのかと思えば、そうよね。彼はスペシャルモードだものね」

 スペシャルモードですって? アマート様の事を言っているの?
 スペシャルって言うぐらいだから特別なのだろうけど。

 「はじめは、四人の攻略対象の誰かが目的で、優良クラスに入って来たのかと思ったわ」

 フロール嬢は、チラッとソファーに横になるルイス様を見た。
 やっぱり彼も攻略対象者だったのね。

 「でもタカビーダ侯爵家の片割れと婚約していて違うかもと思った。様子を見ていて、そんな気がないとわかった。魔法博士になって自由を手に入れようとしたのよね。前世の記憶があれば、貴族なんて窮屈だもの」

 その通りだわ。その為に結婚をしたくなかった。そして、ケーキも食べたかった。

 「けど、レオンス様と出会って欲が出たのでしょう? 彼は、あなたも転生者だと気づき近づいて来たのでしょう? あなたは、上手く行けば侯爵家と同等の爵位を手に入れられると思ったはず。まさか侯爵家を継ぐなど知らなかった。だけど、彼は爵位も手にしたかった」
 「違うわ! 手にしたかったのではなく、そうせざるを得なかったのよ。レオンス様は、爵位を継ぐ事を条件に魔法博士になったの!」

 そう言うと、フロール嬢は少し驚いた様子を見せた。

 「ゲームの内容を知っているからあなたはそう思ったのでしょうけど。レオンス様は、使になりたかったのよ。でもそれを許してもらえなかった」
 「あはは。逆だったらよかったのにね」

 逆って何?
 さっきから微妙にわからない事を言っているわ。

 「でもあなたは、貴族にならない為に魔法博士を選んだのに、結局は侯爵夫人を選んだのよね」
 「そうね。魔法博士になっても結婚はしないといけないようだったから」

 まあ外堀を埋められて逃げられなくなっていたんだけどね。

 「彼も結婚はしたくなかったみたいだから、あなたを選んだのでしょうね。チャンスを上手くつかんだのよね。あなた達は。だったら私もこのチャンスを掴んでもよくない?」
 「この場の事を見逃せと言うの?」
 「言ったでしょう。嫁に行って幸せになりたいって。あいつは彼と結婚などさせる気はないわ。けど私にとってはチャンスなのよ」

 何を言っているのかしらね。
 幸せな結婚を望むのなら、このやり方で結婚してなれるわけないじゃない。

 「どうしてそれで幸せになれるのよ。嵌めたあなたと仲良くするとでも思っているの?」
 「彼の事を知っているもの。彼の高感度を上げられる」
 「上げられるって、これはゲームではないわ」
 「そんな事はわかっているわよ! だから必死になっているんじゃないの。形振りなんて構っていられないわ。自分の幸せを願って何が悪いのよ。あなただって、彼を利用しているじゃない」
 「違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――」

 バン!

 私が叫んでいる所にドアが勢いよく開いた。
 あり得ない。魔法がキャンセルされるなんて……って、レオンス様!?

 スタスタとレオンス様が私に近づいてくる。
 そして、がばっと私を抱きしめたと思ったら恥ずかしい事を口走った。

 「俺も君を幸せにする!」
 「はい!?」

 ぎゃぁ!! 聞かれていたぁ!!

 「もう部屋を間違えるから喧嘩になったんだろう。しかしそこで、私を取り合うなんて」
 「してないから!」

 『わかっている。退場するぞ』
 『待って。見えないかもしれないけど、ソファーにルイス様が寝ているの。このまま二人にしたら……』
 『わかった』

 風魔法を使って知らせる事ができた。
 どう? レオンス様に出来て私に出来ない事なんてないんだから!

 「あぁ。すまない。ここでの事は内緒で頼む。後は私が何とかするから……」

 たぶん王宮の兵士だと思うけど、私達を見てため息をつかれた。
 迷子の末、クラスメイトと婚約者の取り合いをしていたと思われたのよね。
 兵士は、パタンとドアを閉めた。

 ――◆――◆――◆――

 俺は焦っていた。戻ったらファビアが消えていたからだ。
 ベビット殿下の時の様な目に遭っていたらと思うと、冷静ではいられなかった。
 だから探している最中に兵士に声を掛けられ、婚約者がいなくなった。かどわかされたかもしれないと言ってしまった。

 二人の兵士も一緒になって探し始めた時に、ファビアの魔法が見えた。慌てて近づくと言い争う声が聞こえてきて違う意味で焦る。
 好感度だとかゲームだとかという単語が聞こえたからだ!
 声がダダ洩れだ!

 ここら一帯は、侯爵家以上に割り当てられている部屋だし、王宮内の部屋だ。ドアをちゃんと閉めていれば、声が漏れるなどあり得ない。
 ドアが開いている!

 魔法の無効化は、持続系の魔法なら簡単だ。
 相手の魔力を一旦切る。それだけで魔法は解除されるので、魔法陣より簡単だ。
 まあ、こういう魔法の使い方をするのは俺とファビアしかいないけどな。

 『違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――』

 え! ファビア! 俺もだ!
 気が付けば、抱きしめていた。
 で、俺の事で喧嘩していたとほのめかせ、何とかこの場をやり過ごす。
 これで、話の内容は俺の事になっただろう。
 だがまずは、これから聞かないとダメだろうな!

 「で、これを緩めたのはどっちだ?」

 ファビアの背中の紐は緩まっていた。
 ルイスだったら許すまじ!!
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