65 / 83
第65話
しおりを挟む
「あなたは一体何がしたいのよ」
「何っていいところに嫁に行って幸せになりたいのよ」
「その先が、爵位を継ぐはずのアマート様だったというの?」
そう言うと、ふーんと言いながらニヤリとする。
「ハーモニカで演奏させたりしているから知っているのかと思えば、そうよね。彼はスペシャルモードだものね」
スペシャルモードですって? アマート様の事を言っているの?
スペシャルって言うぐらいだから特別なのだろうけど。
「はじめは、四人の攻略対象の誰かが目的で、優良クラスに入って来たのかと思ったわ」
フロール嬢は、チラッとソファーに横になるルイス様を見た。
やっぱり彼も攻略対象者だったのね。
「でもタカビーダ侯爵家の片割れと婚約していて違うかもと思った。様子を見ていて、そんな気がないとわかった。魔法博士になって自由を手に入れようとしたのよね。前世の記憶があれば、貴族なんて窮屈だもの」
その通りだわ。その為に結婚をしたくなかった。そして、ケーキも食べたかった。
「けど、レオンス様と出会って欲が出たのでしょう? 彼は、あなたも転生者だと気づき近づいて来たのでしょう? あなたは、上手く行けば侯爵家と同等の爵位を手に入れられると思ったはず。まさか侯爵家を継ぐなど知らなかった。だけど、彼は爵位も手にしたかった」
「違うわ! 手にしたかったのではなく、そうせざるを得なかったのよ。レオンス様は、爵位を継ぐ事を条件に魔法博士になったの!」
そう言うと、フロール嬢は少し驚いた様子を見せた。
「ゲームの内容を知っているからあなたはそう思ったのでしょうけど。レオンス様は、魔法使いになりたかったのよ。でもそれを許してもらえなかった」
「あはは。逆だったらよかったのにね」
逆って何?
さっきから微妙にわからない事を言っているわ。
「でもあなたは、貴族にならない為に魔法博士を選んだのに、結局は侯爵夫人を選んだのよね」
「そうね。魔法博士になっても結婚はしないといけないようだったから」
まあ外堀を埋められて逃げられなくなっていたんだけどね。
「彼も結婚はしたくなかったみたいだから、あなたを選んだのでしょうね。チャンスを上手くつかんだのよね。あなた達は。だったら私もこのチャンスを掴んでもよくない?」
「この場の事を見逃せと言うの?」
「言ったでしょう。嫁に行って幸せになりたいって。あいつは彼と結婚などさせる気はないわ。けど私にとってはチャンスなのよ」
何を言っているのかしらね。
幸せな結婚を望むのなら、このやり方で結婚してなれるわけないじゃない。
「どうしてそれで幸せになれるのよ。嵌めたあなたと仲良くするとでも思っているの?」
「彼の事を知っているもの。彼の高感度を上げられる」
「上げられるって、これはゲームではないわ」
「そんな事はわかっているわよ! だから必死になっているんじゃないの。形振りなんて構っていられないわ。自分の幸せを願って何が悪いのよ。あなただって、彼を利用しているじゃない」
「違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――」
バン!
私が叫んでいる所にドアが勢いよく開いた。
あり得ない。魔法がキャンセルされるなんて……って、レオンス様!?
スタスタとレオンス様が私に近づいてくる。
そして、がばっと私を抱きしめたと思ったら恥ずかしい事を口走った。
「俺も君を幸せにする!」
「はい!?」
ぎゃぁ!! 聞かれていたぁ!!
「もう部屋を間違えるから喧嘩になったんだろう。しかしそこで、私を取り合うなんて」
「してないから!」
『わかっている。退場するぞ』
『待って。見えないかもしれないけど、ソファーにルイス様が寝ているの。このまま二人にしたら……』
『わかった』
風魔法を使って知らせる事ができた。
どう? レオンス様に出来て私に出来ない事なんてないんだから!
「あぁ。すまない。ここでの事は内緒で頼む。後は私が何とかするから……」
たぶん王宮の兵士だと思うけど、私達を見てため息をつかれた。
迷子の末、クラスメイトと婚約者の取り合いをしていたと思われたのよね。
兵士は、パタンとドアを閉めた。
――◆――◆――◆――
俺は焦っていた。戻ったらファビアが消えていたからだ。
ベビット殿下の時の様な目に遭っていたらと思うと、冷静ではいられなかった。
だから探している最中に兵士に声を掛けられ、婚約者がいなくなった。かどわかされたかもしれないと言ってしまった。
二人の兵士も一緒になって探し始めた時に、ファビアの魔法が見えた。慌てて近づくと言い争う声が聞こえてきて違う意味で焦る。
好感度だとかゲームだとかという単語が聞こえたからだ!
声がダダ洩れだ!
ここら一帯は、侯爵家以上に割り当てられている部屋だし、王宮内の部屋だ。ドアをちゃんと閉めていれば、声が漏れるなどあり得ない。
ドアが開いている!
魔法の無効化は、持続系の魔法なら簡単だ。
相手の魔力を一旦切る。それだけで魔法は解除されるので、魔法陣より簡単だ。
まあ、こういう魔法の使い方をするのは俺とファビアしかいないけどな。
『違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――』
え! ファビア! 俺もだ!
気が付けば、抱きしめていた。
で、俺の事で喧嘩していたとほのめかせ、何とかこの場をやり過ごす。
これで、話の内容は俺だけの事になっただろう。
だがまずは、これから聞かないとダメだろうな!
「で、これを緩めたのはどっちだ?」
ファビアの背中の紐は緩まっていた。
ルイスだったら許すまじ!!
「何っていいところに嫁に行って幸せになりたいのよ」
「その先が、爵位を継ぐはずのアマート様だったというの?」
そう言うと、ふーんと言いながらニヤリとする。
「ハーモニカで演奏させたりしているから知っているのかと思えば、そうよね。彼はスペシャルモードだものね」
スペシャルモードですって? アマート様の事を言っているの?
スペシャルって言うぐらいだから特別なのだろうけど。
「はじめは、四人の攻略対象の誰かが目的で、優良クラスに入って来たのかと思ったわ」
フロール嬢は、チラッとソファーに横になるルイス様を見た。
やっぱり彼も攻略対象者だったのね。
「でもタカビーダ侯爵家の片割れと婚約していて違うかもと思った。様子を見ていて、そんな気がないとわかった。魔法博士になって自由を手に入れようとしたのよね。前世の記憶があれば、貴族なんて窮屈だもの」
その通りだわ。その為に結婚をしたくなかった。そして、ケーキも食べたかった。
「けど、レオンス様と出会って欲が出たのでしょう? 彼は、あなたも転生者だと気づき近づいて来たのでしょう? あなたは、上手く行けば侯爵家と同等の爵位を手に入れられると思ったはず。まさか侯爵家を継ぐなど知らなかった。だけど、彼は爵位も手にしたかった」
「違うわ! 手にしたかったのではなく、そうせざるを得なかったのよ。レオンス様は、爵位を継ぐ事を条件に魔法博士になったの!」
そう言うと、フロール嬢は少し驚いた様子を見せた。
「ゲームの内容を知っているからあなたはそう思ったのでしょうけど。レオンス様は、魔法使いになりたかったのよ。でもそれを許してもらえなかった」
「あはは。逆だったらよかったのにね」
逆って何?
さっきから微妙にわからない事を言っているわ。
「でもあなたは、貴族にならない為に魔法博士を選んだのに、結局は侯爵夫人を選んだのよね」
「そうね。魔法博士になっても結婚はしないといけないようだったから」
まあ外堀を埋められて逃げられなくなっていたんだけどね。
「彼も結婚はしたくなかったみたいだから、あなたを選んだのでしょうね。チャンスを上手くつかんだのよね。あなた達は。だったら私もこのチャンスを掴んでもよくない?」
「この場の事を見逃せと言うの?」
「言ったでしょう。嫁に行って幸せになりたいって。あいつは彼と結婚などさせる気はないわ。けど私にとってはチャンスなのよ」
何を言っているのかしらね。
幸せな結婚を望むのなら、このやり方で結婚してなれるわけないじゃない。
「どうしてそれで幸せになれるのよ。嵌めたあなたと仲良くするとでも思っているの?」
「彼の事を知っているもの。彼の高感度を上げられる」
「上げられるって、これはゲームではないわ」
「そんな事はわかっているわよ! だから必死になっているんじゃないの。形振りなんて構っていられないわ。自分の幸せを願って何が悪いのよ。あなただって、彼を利用しているじゃない」
「違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――」
バン!
私が叫んでいる所にドアが勢いよく開いた。
あり得ない。魔法がキャンセルされるなんて……って、レオンス様!?
スタスタとレオンス様が私に近づいてくる。
そして、がばっと私を抱きしめたと思ったら恥ずかしい事を口走った。
「俺も君を幸せにする!」
「はい!?」
ぎゃぁ!! 聞かれていたぁ!!
「もう部屋を間違えるから喧嘩になったんだろう。しかしそこで、私を取り合うなんて」
「してないから!」
『わかっている。退場するぞ』
『待って。見えないかもしれないけど、ソファーにルイス様が寝ているの。このまま二人にしたら……』
『わかった』
風魔法を使って知らせる事ができた。
どう? レオンス様に出来て私に出来ない事なんてないんだから!
「あぁ。すまない。ここでの事は内緒で頼む。後は私が何とかするから……」
たぶん王宮の兵士だと思うけど、私達を見てため息をつかれた。
迷子の末、クラスメイトと婚約者の取り合いをしていたと思われたのよね。
兵士は、パタンとドアを閉めた。
――◆――◆――◆――
俺は焦っていた。戻ったらファビアが消えていたからだ。
ベビット殿下の時の様な目に遭っていたらと思うと、冷静ではいられなかった。
だから探している最中に兵士に声を掛けられ、婚約者がいなくなった。かどわかされたかもしれないと言ってしまった。
二人の兵士も一緒になって探し始めた時に、ファビアの魔法が見えた。慌てて近づくと言い争う声が聞こえてきて違う意味で焦る。
好感度だとかゲームだとかという単語が聞こえたからだ!
声がダダ洩れだ!
ここら一帯は、侯爵家以上に割り当てられている部屋だし、王宮内の部屋だ。ドアをちゃんと閉めていれば、声が漏れるなどあり得ない。
ドアが開いている!
魔法の無効化は、持続系の魔法なら簡単だ。
相手の魔力を一旦切る。それだけで魔法は解除されるので、魔法陣より簡単だ。
まあ、こういう魔法の使い方をするのは俺とファビアしかいないけどな。
『違うわ! 私は、レオンス様の幸せを願って――』
え! ファビア! 俺もだ!
気が付けば、抱きしめていた。
で、俺の事で喧嘩していたとほのめかせ、何とかこの場をやり過ごす。
これで、話の内容は俺だけの事になっただろう。
だがまずは、これから聞かないとダメだろうな!
「で、これを緩めたのはどっちだ?」
ファビアの背中の紐は緩まっていた。
ルイスだったら許すまじ!!
116
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアリスは婚約者のグリンデル侯爵から婚約破棄を言い渡された。
悲しみに暮れるはずの彼女だったが問題はないようだ。
アリスには優しい幼馴染である、大公殿下がいたのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる