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第56話
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「ただいま」
「お帰りなさいませ。ファビアお嬢様。お庭でリサ大侯爵夫人がお待ちです」
「わかったわ」
私が侯爵家の養女になった後も専属侍女はローレットのままだった。彼女とは、良好な関係。意地悪する理由がないからね。
ゆったりとした部屋着に着替え、待っている庭園へと向かう。
ブレスチャ子爵家から持参したドレスの様な感じだけど、質は全然違うお高い部屋着。楽でいいわぁ。
「やぁ」
「へ? レオンス様!?」
私を見つけ笑顔で軽く手を振るレオンス様が、リサおばあ様の隣に座っていた。
エメリック様は、同席しているだろうとは思ったけど、謹慎はどうしたのよ。
でも、顔を見て安心したわ。元気そう。
「そこまで驚く? 学園は大丈夫だった?」
「ただいま帰りました。リサおばあ様。エメリック様。昨日ぶりです。レオンス様」
「「おかえり」」
私が、席に着くと紅茶が目の前に置かれる。
そして、レオンス様がコーヒーケーキを取っておいてくれた。
でもそれ、暫く見たくないかも……。
「どうした? あ、ごめん……。こっちな」
新しくイチゴケーキを私の前に置きなおす。
レオンス様は、コーヒーがどこの国の特産物か知っていて、察したのね。
「ありがとう」
「ケーキは、ファビアが来るまで食べないで待っていたんだ」
「さあ、食べましょう」
リサおばあ様の掛け声で、皆パクリとケーキを口に運ぶ。
しばし、無言の時間。いつもなら楽しい会話が飛び交うのだけど。
「明日も学園に行けそうかい」
リサおばあ様が、心配そうに聞いてきた。
昨日屋敷に戻った時、青ざめた顔でリサおばあ様が出迎えてくれて、抱きしめられた。
本当は、今日は休むように言われたけど、休んだらずっと学園に行けなくなりそうだったので、行ったのよね。
「大丈夫ですわ」
「食べ終わったら部屋で休みなさい」
「はい」
「お供します」
お供しますって。部屋についてくるのですか。レオンス様。
それに対して、リサおばあ様が何も言わないから、最初からそう話し合っていたようね。
レオンス様って、リサおばあ様から信頼されているのよね。
庭園での静かなお茶会が終了して、私室へとレオンス様と戻った。
ローレットが脇に控えている中、並んでソファーに私達が座ると、彼女からの視線が突き刺さる。
「本当に大丈夫か?」
「はい」
「学園では何も言われなかったか? フロール嬢は来ていただろう」
「えぇ。おはようと挨拶しかしていないわ。ベビット殿下が突然帰国して、ルイス様もお休みだったので妙に静かだったわよ」
「そうか」
ローレットが淹れた紅茶を飲みつつ、会話を交わす。
たぶん、魔法を展開していて彼女には会話は聞かれていない。
「一つ聞きたいのだが、ノーモノミヤ公爵と何か取引したか」
「っげっほ」
突然聞くものだから咽ちゃったじゃないの。
「その様子だとしたんだな?」
「えーと。ノーモノミヤ公爵とはしていないかな」
「は? じゃガムン公爵としたのか?」
「えーと……」
やっぱり話した方がいいのよね。
「ちゃんと答えろ。今、俺達に必要なのは情報だ。俺も何があったか話すから」
「あ、うん。交渉を持ち掛けて来たのはルイス様よ」
「何だって!?」
レオンス様が凄く驚いた様子を見せた。
「それって、ノーモノミヤ公爵の代理とかではなくて、本人自体がって事か?」
私はそうだと頷く。
「では本当に、彼が何らかの意図を持って盗聴器をしかけたというのか。どこでそんなものを手に入れたんだ」
声が大きくなっているけど、これもかき消されているのかしらね。
「落ち着いて聞いてね。彼の自作みたいよ」
「は? 自作? 自分で魔法アイテムを作ったのかよ」
「魔法アイテムって言うか、魔法陣をね。しかも闇魔法」
「闇魔法だって……。そんなのどうやって調べたんだ」
「……えーと。闇魔法の素質があれば、書物は貰えるの。誰にも見せないって約束で」
「何だって!? 知らないぞ。それ」
へえ。レオンス様は知らなかったんだ。
「もしかして、君も持っているのか」
「まあ、卒業する時と言うか魔法博士になる時にね」
「ではルイスはどうやってそれを手に入れたんだ」
「彼は、闇属性持ちだった。でも闇属性だけだと、魔法学園には入れないらしい。けど書物だけはもらえたみたいね。独学であそこまで出来るのだから凄いわ」
レオンス様が、急に真顔を私に向けた。
「盗聴した内容をネタに揺すられたのか?」
「……そうとも言うかな」
「どの辺の内容だ? ベビット殿下との会話中のものか?」
鋭いわね。
そうだと私は頷く。
「何を話した」
「聞かされたのは、ベビット殿下に全種類扱えますって言ったところ……」
「何、話しちゃってるんだ! それガムン公爵に知られたかもしれないぞ」
「う……ごめんなさい」
俯くと、なぜか頭を撫でられた。
「怒鳴って悪かった。でも、それはもう誰にも言うな。元から素質がある者が使えるのと、必死に使える様になったのでは質が違うだろう」
「必死にって……そんな風には見えませんが」
「他の者はそう捉えるって事だ。実際、俺が使ったとガムン公爵に行った時に、そういう感じだっただろう。そもそも属性持ちの者達だって、それ以外使えないと思い込んでいるのだからな」
まあそうだけどさ。
「それで、ルイスは何をしろって言ってきた」
「それが、魔物退治をして皆に認められたいみたいなの」
「え?」
レオンス様がキョトンとした顔になった。滅多に見れないレアな顔よ!
「お帰りなさいませ。ファビアお嬢様。お庭でリサ大侯爵夫人がお待ちです」
「わかったわ」
私が侯爵家の養女になった後も専属侍女はローレットのままだった。彼女とは、良好な関係。意地悪する理由がないからね。
ゆったりとした部屋着に着替え、待っている庭園へと向かう。
ブレスチャ子爵家から持参したドレスの様な感じだけど、質は全然違うお高い部屋着。楽でいいわぁ。
「やぁ」
「へ? レオンス様!?」
私を見つけ笑顔で軽く手を振るレオンス様が、リサおばあ様の隣に座っていた。
エメリック様は、同席しているだろうとは思ったけど、謹慎はどうしたのよ。
でも、顔を見て安心したわ。元気そう。
「そこまで驚く? 学園は大丈夫だった?」
「ただいま帰りました。リサおばあ様。エメリック様。昨日ぶりです。レオンス様」
「「おかえり」」
私が、席に着くと紅茶が目の前に置かれる。
そして、レオンス様がコーヒーケーキを取っておいてくれた。
でもそれ、暫く見たくないかも……。
「どうした? あ、ごめん……。こっちな」
新しくイチゴケーキを私の前に置きなおす。
レオンス様は、コーヒーがどこの国の特産物か知っていて、察したのね。
「ありがとう」
「ケーキは、ファビアが来るまで食べないで待っていたんだ」
「さあ、食べましょう」
リサおばあ様の掛け声で、皆パクリとケーキを口に運ぶ。
しばし、無言の時間。いつもなら楽しい会話が飛び交うのだけど。
「明日も学園に行けそうかい」
リサおばあ様が、心配そうに聞いてきた。
昨日屋敷に戻った時、青ざめた顔でリサおばあ様が出迎えてくれて、抱きしめられた。
本当は、今日は休むように言われたけど、休んだらずっと学園に行けなくなりそうだったので、行ったのよね。
「大丈夫ですわ」
「食べ終わったら部屋で休みなさい」
「はい」
「お供します」
お供しますって。部屋についてくるのですか。レオンス様。
それに対して、リサおばあ様が何も言わないから、最初からそう話し合っていたようね。
レオンス様って、リサおばあ様から信頼されているのよね。
庭園での静かなお茶会が終了して、私室へとレオンス様と戻った。
ローレットが脇に控えている中、並んでソファーに私達が座ると、彼女からの視線が突き刺さる。
「本当に大丈夫か?」
「はい」
「学園では何も言われなかったか? フロール嬢は来ていただろう」
「えぇ。おはようと挨拶しかしていないわ。ベビット殿下が突然帰国して、ルイス様もお休みだったので妙に静かだったわよ」
「そうか」
ローレットが淹れた紅茶を飲みつつ、会話を交わす。
たぶん、魔法を展開していて彼女には会話は聞かれていない。
「一つ聞きたいのだが、ノーモノミヤ公爵と何か取引したか」
「っげっほ」
突然聞くものだから咽ちゃったじゃないの。
「その様子だとしたんだな?」
「えーと。ノーモノミヤ公爵とはしていないかな」
「は? じゃガムン公爵としたのか?」
「えーと……」
やっぱり話した方がいいのよね。
「ちゃんと答えろ。今、俺達に必要なのは情報だ。俺も何があったか話すから」
「あ、うん。交渉を持ち掛けて来たのはルイス様よ」
「何だって!?」
レオンス様が凄く驚いた様子を見せた。
「それって、ノーモノミヤ公爵の代理とかではなくて、本人自体がって事か?」
私はそうだと頷く。
「では本当に、彼が何らかの意図を持って盗聴器をしかけたというのか。どこでそんなものを手に入れたんだ」
声が大きくなっているけど、これもかき消されているのかしらね。
「落ち着いて聞いてね。彼の自作みたいよ」
「は? 自作? 自分で魔法アイテムを作ったのかよ」
「魔法アイテムって言うか、魔法陣をね。しかも闇魔法」
「闇魔法だって……。そんなのどうやって調べたんだ」
「……えーと。闇魔法の素質があれば、書物は貰えるの。誰にも見せないって約束で」
「何だって!? 知らないぞ。それ」
へえ。レオンス様は知らなかったんだ。
「もしかして、君も持っているのか」
「まあ、卒業する時と言うか魔法博士になる時にね」
「ではルイスはどうやってそれを手に入れたんだ」
「彼は、闇属性持ちだった。でも闇属性だけだと、魔法学園には入れないらしい。けど書物だけはもらえたみたいね。独学であそこまで出来るのだから凄いわ」
レオンス様が、急に真顔を私に向けた。
「盗聴した内容をネタに揺すられたのか?」
「……そうとも言うかな」
「どの辺の内容だ? ベビット殿下との会話中のものか?」
鋭いわね。
そうだと私は頷く。
「何を話した」
「聞かされたのは、ベビット殿下に全種類扱えますって言ったところ……」
「何、話しちゃってるんだ! それガムン公爵に知られたかもしれないぞ」
「う……ごめんなさい」
俯くと、なぜか頭を撫でられた。
「怒鳴って悪かった。でも、それはもう誰にも言うな。元から素質がある者が使えるのと、必死に使える様になったのでは質が違うだろう」
「必死にって……そんな風には見えませんが」
「他の者はそう捉えるって事だ。実際、俺が使ったとガムン公爵に行った時に、そういう感じだっただろう。そもそも属性持ちの者達だって、それ以外使えないと思い込んでいるのだからな」
まあそうだけどさ。
「それで、ルイスは何をしろって言ってきた」
「それが、魔物退治をして皆に認められたいみたいなの」
「え?」
レオンス様がキョトンとした顔になった。滅多に見れないレアな顔よ!
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