【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
49 / 83

第49話

しおりを挟む
 馬車の中では、私達は無言だった。
 ただなぜか、レオンス様は私の手を握ったままだったけど。嫌ではなかった。助かったんだって実感する。
 あのままだったらやばかった。

 「ごめんなさい。レオンス様に言われていたのに私……」
 「本当にな。俺もお前達についていけばよかった。気づくのが遅くなった。今日はこのまま……」

 はあ、安堵したらケーキが惜しくなってきた。ケーキなしか。まあ、応接室でケーキは食べたけど。

 「研究室へ行こう」
 「え? 研究室? ケーキは?」
 「ケーキってお前……。食べたんだろう。テーブルに皿があった。太るぞ」
 「………」

 痛いところをつくわね。
 ポンポンと私の頭をレオンス様は撫でる。

 「ケーキは、ファビアの元気の素だよな。イチゴケーキにしよう」
 「ありがとう」
 「で、その後に大切な話がある」

 レオンス様が、くうを見つめ真剣な顔つきで言った。
 何だろう。もしかして、婚約破棄するとか言い出さないよね?
 いいや。あんな恥ずかしいセリフをベビット殿下達の前で言ったのだからないよね。

 ◇

 直接離れの研究室に入った私に、冷たい濡れタオルをくれた。
 泣いたので目が腫れぼったいので、冷やせと言われて。
 危なかったわ。このまま帰ったらリサおばあ様に問い詰められるところだった。

 研究室では、レオンス様が紅茶を淹れてくれる。
 彼も私と同じで、本当なら自分で色々したいらしい。
 研究室には、休憩室があり立派なソファーが置いてある。
 そこに、いつもの如く二人並んで座り、美味しいケーキと紅茶を頂く。

 「落ち着いたか」
 「うん。心配かけてごめんなさい」
 「まさか、あんな手をベビット殿下が仕掛けてくるなんてな。彼も追い詰められていたって事か」

 よくわからない。私は転生者だから大人びたというか、大人の思考がある。だから思いつくかもしれないけど、彼は純粋な13歳だよね?
 それなのに、襲うという考えに及ぶなんて。
 まあそれに見せかけてだけど。

 「話だけど、フロール嬢が転生者だった」
 「はい!?」

 ちょっと突然すぎやしませんか? 前置きナシデスカ。

 「えーと……いつ気が付いたの?」
 「気が付いたのではなく、彼女自身がそう言って俺に接触してきた。彼女は、ベビット殿下の策に何らかの意図を持って乗っかったようだ」
 「意図? レオンス様が好きで便乗したのではないの?」
 「彼女は、俺の事など好きじゃない。それも演技」
 「え……」

 演技ですって!? どうして、レオンス様を好きなフリを?

 「この世界は乙女ゲームなんだとよ」
 「乙女ゲーム……」

 女性向けの転生物の定番ね。

 「知っているか。乙女ゲーム。そのヒロインだとよ」
 「知っているわ。けど、この世界が乙女ゲームの中だったとは知らなかったわ。あ! もしかして、私イレギュラーだった? モブですらなかったから転生者だって気づいたの?」

 あり得るわ。本来は、クラスの人数もそれなら十人だし。
 だから私の婚約者であるレオンス様を好きなフリをして様子を見ていた。

 「そうみたいだな。彼女は俺の事を知っていた。ゲームの中に出てくるらしい。ただ、ゲーム内では俺は、魔法学園には通っていなかったようだ」

 そう言えば、私の婚約者がタカビーダ侯爵令息だと聞いて驚いていたっけ。そして、レオンス様を見てもレオンス様だとわからなかった。

 「違うわ。認識としては、アマート様じゃないかしら。タカビーダ侯爵家の事を知っているようだったけど、レオンス様を初めて見た時、知らない様子だった」
 「やっぱりな。変な言い回ししていたからな」
 「変って?」
 「タカビーダ侯爵家の秘密を知っているって言いながら、私達の未来を奪ったと言っていた。アマートから爵位を奪ったというう意味だと思う。言っている事があべこべだ」

 あべこべ? ゲームではアマート様が爵位を継ぐはずだったのかしら? あのアマート様が?
 レオンス様が、転生者ではなくゲーム通りに進んだらアマート様は、レオンス様の様になっていたと言う事かしら?

 「うーん。秘密ってな――」
 「侯爵者全員のを知っているとも言っていた」

 遮られた……。

 「でしょう? トラウマとかそういうの。それぞれの問題を解決して、ハッピーエンドでしょう?」
 「彼女にとっては、彼らのそれは弱みらしい。つまり、利用する材料って事だ。ファビアの様子を見ると言っても、俺を好きなフリをする必要はない。というか、誰かを狙っているなら、俺を好きなフリはしないだろうな」
 「という事は、誰も狙っていなかった?」
 「けど、何か企みはある。俺に接触してきて、手を組もうと言ったぐらいだからな」
 「はい? そ、それってどういう類の手を組むだったの?」
 「ファビアと婚約破棄して自分に乗り換えろと言う内容だった」

 え!
 レオンス様は、私をジッと見つめ言った。

 「そ、それ――」
 「もちろん断った。そしたら手のひら返し。彼女にしてみれば、俺が敵でも味方でもいいみたいだな」

 断ったのか。よかったぁ。
 相手は同じ転生者だったし、彼女を選ぶ可能性もあった。
 でもレオンス様は、私を選んでくれた。そうよ。ベビット殿下達の前ではっきりと言っていたものね。
 渡さないって!

 なんか頬が熱い。
 あれ、そういえばあの時、フロール嬢変な事言っていなかったっけ?

 「フロール嬢、なぜかレオンス様に対して上から目線だったけど、転生者だったから?」
 「いや理由は違う。彼女は、ガムン公爵の隠し子だ」
 「えぇ!?」

 嘘でしょう。そんな隠し設定のヒロインなの?
 ベビット殿下だけじゃなくて、フロール嬢も仕掛けて来るかもしれないって事よね。
 もちろん狙いはレオンス様。
 ベビット殿下が私を狙う以上、彼女もまたレオンス様を狙うはず!
 なんでここに来て、こんな状況になるのよ!
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

処理中です...