46 / 83
第46話
しおりを挟む
「うーむ。それは本当に風が出ているのかね?」
きゃぁ。話しかけないで! もしかしたら今日達成できるかもしれないんだから!
問いを投げかけて来たのは、ガムン公爵。なぜか急に魔学の授業を見学したいと言い出した。
魔学の授業を始めてから二か月程経ち、教室を覗く生徒もいなくなり、見学者はクラスメイトだけになっていた。
今日こそ、魔法を十分間出し続けてもらえると思ったのに。
ガムン公爵がいたら緊張して続かないかもしれない。
この授業の目標は、魔法を十分間出し続けられる事。
そうすれば、授業は終わりなのよ!
でもガムン公爵に言われて気づいたけど、風魔法はわかりづらいかもね。
フロール嬢の火魔法なら見てわかるけど、風は普通の人には見えないし。
私だって、魔法でなければ風なんて見えません。
仕方ないわね。これ以上邪魔されたくないわ。
ノートを引っ張り出すと一枚破り裂く。
「ベビット様。集中なさっていて下さいね」
そう声を掛けつつ、右手に持った裂いたノートをベビット殿下が繰り出している風魔法に近づける。
ノートは、その風によって裂いた先がはためいた。
これで文句はないでしょう。
「なるほど。それならわかる」
ガムン公爵も納得してくれた様子。
「あぁ。今日もダメだったわ」
チラッとフロール嬢を見ると、シュンとして俯いている。
彼女、思ったより持続性ないのよね。不思議だわ。安定して魔力は出せているのに、いつもこれぐらいで精神力が切れてしまうみたいね。
ベビット殿下は、安定感はフロール嬢よりはないけど、まあ一般的な感じかな。
順調に伸びてきていて、今日こそは十分いくわよ!
私は、砂時計に目をやる。
この世界には、時計はあるけど高級品なのよね。だから時間を計る時は、砂時計を使う。
この砂時計はもちろん、十分間砂時計。
後少しで落ちきるわ!
そして、とうとう砂時計が落ちきった!
「やったぁ!」
「おめでとうございます!」
教室内に拍手が巻き起こる。
ガムン公爵も満足そうに、拍手をしていた。
「いやぁ。凄い物を見せて頂いた」
「いやぁ。二か月は長かった」
つい、本音が漏れる。
だってやっと解放されるんだよ。
「ファビア嬢は、どれくらいでマスターしたの?」
ベビット殿下が、興味津々で聞く。
「えーと、どうだったかなぁ。私達は、目標が一時間だったし」
「一時間!? うわぁ。ただこれだけを一時間って拷問だね」
そうなのよ! 集中云々より慣れてくると暇で。
「まあね。私はどちらかと言うと、暗記に戸惑って」
「え? 君が?」
何せ五種類だからね。
「もっと詳しく聞きたいなぁ」
「それは……」
そう言われましても。困ったなぁ。
ガムン公爵もいるし、下手に話して五種類全部できますとかバレたらやっかいよね。
本当に相手が王子様だと、断るのが大変だわ。
「合格もしたようですし、やる気がないのならお帰りになったらいかがですか」
ちょっとガムン公爵も居るのに、その言い方!
「あ、すまない。授業の邪魔したね。ガムン公爵。私達、今日は切り上げていいでしょうか。彼女が帰るまでの時間、彼女と語り合いたい」
「はい!?」
まさかのバビット殿下の発言。超直球デスネ。
しかもなぜ、トリカリト先生ではなく、ガムン公爵に許可を求めるのですか。
「いいでしょう。頑張って成果を出したのだし。ご褒美として。宜しいですな。トリカリト先生」
「も、もちろんです」
そうよね。ガムン公爵が良いって言うのに、トリカリト先生がダメって言えるわけないわよね。
「じゃ行こう」
ガシッと腕を取られ、教室の外へとバビット殿下が、私を引っ張る。
「ちょっと待ってください。私は……」
「そ、それなら私達も今日は――」
「私は、授業を続けたいです。レオンス先生」
レオンス様に振り向けば、フロール嬢がレオンス様の言葉を遮った。
もう止めてくれる人はいない……。
仕方なくベビット殿下についてく。
生徒会室の隣にある応接室。そこに連れていかれた。
応接室だけど、ここは王族が使っている部屋だったはずだけど、私が入っていいのかしら。
「どうぞ。そこに座って」
応接室は、王族が使うだけあってそれなりの広さと逸品の家具が置かれていた。
座ってと言われたソファーも、王宮で座ったソファーより質がいいのが見ただけでわかる。
畏れ多いのですが!
私が突っ立っているからか、ベビット殿下が私の手を引きソファーに座らせた。そして、自分も私の隣に座る。
「あの、なぜお隣に」
「ほらこのテーブル大きいでしょう。だから向こう側のソファーに座ると話が聞きづらくて」
さいですか。
護衛の二人が、紅茶を淹れてくれている。
学園には、侍女も執事もいないからこれは彼らの仕事らしい。
「あ、二人は、隣の部屋で休んでいていいよ」
紅茶を置いた護衛にバビット殿下がサラッと言うけど、二人っきりはまずいのではないですか!?
「では、控えておりますので、何かありましたらお声掛け下さい」
「え! あの、別に二人がいてもいいのでは?」
「君の話を二人が聞いてもいいの? 僕は結構、根掘り葉掘り聞きたいのだけど。もちろん、興味があるからで他言はしないから、ね」
ね。って言われても……。
ベビット殿下がじーっと私を見つめる。
これって、話してくれるよねって事よね。
うーむ。たぶん、他言はしないでしょう。ただ二人っきりになったのをレオンス様に知られると、いやリサおばあ様にも知られたら、大目玉なんだよねぇ。
「大丈夫。ここにはずっと四人でいた事にすればいい」
「わ、わかりました」
「やったぁ!」
護衛の二人は、私達を置いて隣の部屋へと行き二人っきりになった。
そう言えば、レオンス様以外の男性と二人っきりなんて初めてかもしれない。
だ、大丈夫よね? 魔法の話をするだけだものね。
――◆――◇――◆――
まさかベビット殿下から話を持ち掛けて来るとは思わなかった。
なかなかいい作戦だ。これで、ファビアもレオンスも私の手中となる。
まあ、フロールの手に余る様なら、レオンスを権力で押さえつければいい。彼女もレオンスに惚れているようだからな。
ファビアが、魔法博士でよかった。
きゃぁ。話しかけないで! もしかしたら今日達成できるかもしれないんだから!
問いを投げかけて来たのは、ガムン公爵。なぜか急に魔学の授業を見学したいと言い出した。
魔学の授業を始めてから二か月程経ち、教室を覗く生徒もいなくなり、見学者はクラスメイトだけになっていた。
今日こそ、魔法を十分間出し続けてもらえると思ったのに。
ガムン公爵がいたら緊張して続かないかもしれない。
この授業の目標は、魔法を十分間出し続けられる事。
そうすれば、授業は終わりなのよ!
でもガムン公爵に言われて気づいたけど、風魔法はわかりづらいかもね。
フロール嬢の火魔法なら見てわかるけど、風は普通の人には見えないし。
私だって、魔法でなければ風なんて見えません。
仕方ないわね。これ以上邪魔されたくないわ。
ノートを引っ張り出すと一枚破り裂く。
「ベビット様。集中なさっていて下さいね」
そう声を掛けつつ、右手に持った裂いたノートをベビット殿下が繰り出している風魔法に近づける。
ノートは、その風によって裂いた先がはためいた。
これで文句はないでしょう。
「なるほど。それならわかる」
ガムン公爵も納得してくれた様子。
「あぁ。今日もダメだったわ」
チラッとフロール嬢を見ると、シュンとして俯いている。
彼女、思ったより持続性ないのよね。不思議だわ。安定して魔力は出せているのに、いつもこれぐらいで精神力が切れてしまうみたいね。
ベビット殿下は、安定感はフロール嬢よりはないけど、まあ一般的な感じかな。
順調に伸びてきていて、今日こそは十分いくわよ!
私は、砂時計に目をやる。
この世界には、時計はあるけど高級品なのよね。だから時間を計る時は、砂時計を使う。
この砂時計はもちろん、十分間砂時計。
後少しで落ちきるわ!
そして、とうとう砂時計が落ちきった!
「やったぁ!」
「おめでとうございます!」
教室内に拍手が巻き起こる。
ガムン公爵も満足そうに、拍手をしていた。
「いやぁ。凄い物を見せて頂いた」
「いやぁ。二か月は長かった」
つい、本音が漏れる。
だってやっと解放されるんだよ。
「ファビア嬢は、どれくらいでマスターしたの?」
ベビット殿下が、興味津々で聞く。
「えーと、どうだったかなぁ。私達は、目標が一時間だったし」
「一時間!? うわぁ。ただこれだけを一時間って拷問だね」
そうなのよ! 集中云々より慣れてくると暇で。
「まあね。私はどちらかと言うと、暗記に戸惑って」
「え? 君が?」
何せ五種類だからね。
「もっと詳しく聞きたいなぁ」
「それは……」
そう言われましても。困ったなぁ。
ガムン公爵もいるし、下手に話して五種類全部できますとかバレたらやっかいよね。
本当に相手が王子様だと、断るのが大変だわ。
「合格もしたようですし、やる気がないのならお帰りになったらいかがですか」
ちょっとガムン公爵も居るのに、その言い方!
「あ、すまない。授業の邪魔したね。ガムン公爵。私達、今日は切り上げていいでしょうか。彼女が帰るまでの時間、彼女と語り合いたい」
「はい!?」
まさかのバビット殿下の発言。超直球デスネ。
しかもなぜ、トリカリト先生ではなく、ガムン公爵に許可を求めるのですか。
「いいでしょう。頑張って成果を出したのだし。ご褒美として。宜しいですな。トリカリト先生」
「も、もちろんです」
そうよね。ガムン公爵が良いって言うのに、トリカリト先生がダメって言えるわけないわよね。
「じゃ行こう」
ガシッと腕を取られ、教室の外へとバビット殿下が、私を引っ張る。
「ちょっと待ってください。私は……」
「そ、それなら私達も今日は――」
「私は、授業を続けたいです。レオンス先生」
レオンス様に振り向けば、フロール嬢がレオンス様の言葉を遮った。
もう止めてくれる人はいない……。
仕方なくベビット殿下についてく。
生徒会室の隣にある応接室。そこに連れていかれた。
応接室だけど、ここは王族が使っている部屋だったはずだけど、私が入っていいのかしら。
「どうぞ。そこに座って」
応接室は、王族が使うだけあってそれなりの広さと逸品の家具が置かれていた。
座ってと言われたソファーも、王宮で座ったソファーより質がいいのが見ただけでわかる。
畏れ多いのですが!
私が突っ立っているからか、ベビット殿下が私の手を引きソファーに座らせた。そして、自分も私の隣に座る。
「あの、なぜお隣に」
「ほらこのテーブル大きいでしょう。だから向こう側のソファーに座ると話が聞きづらくて」
さいですか。
護衛の二人が、紅茶を淹れてくれている。
学園には、侍女も執事もいないからこれは彼らの仕事らしい。
「あ、二人は、隣の部屋で休んでいていいよ」
紅茶を置いた護衛にバビット殿下がサラッと言うけど、二人っきりはまずいのではないですか!?
「では、控えておりますので、何かありましたらお声掛け下さい」
「え! あの、別に二人がいてもいいのでは?」
「君の話を二人が聞いてもいいの? 僕は結構、根掘り葉掘り聞きたいのだけど。もちろん、興味があるからで他言はしないから、ね」
ね。って言われても……。
ベビット殿下がじーっと私を見つめる。
これって、話してくれるよねって事よね。
うーむ。たぶん、他言はしないでしょう。ただ二人っきりになったのをレオンス様に知られると、いやリサおばあ様にも知られたら、大目玉なんだよねぇ。
「大丈夫。ここにはずっと四人でいた事にすればいい」
「わ、わかりました」
「やったぁ!」
護衛の二人は、私達を置いて隣の部屋へと行き二人っきりになった。
そう言えば、レオンス様以外の男性と二人っきりなんて初めてかもしれない。
だ、大丈夫よね? 魔法の話をするだけだものね。
――◆――◇――◆――
まさかベビット殿下から話を持ち掛けて来るとは思わなかった。
なかなかいい作戦だ。これで、ファビアもレオンスも私の手中となる。
まあ、フロールの手に余る様なら、レオンスを権力で押さえつければいい。彼女もレオンスに惚れているようだからな。
ファビアが、魔法博士でよかった。
167
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる