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第45話
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この退屈な時間。隣には真剣な顔で風魔法を出し続けるベビット殿下。放課後の魔学を始めてから半月。
5分ぐらい出せる様になった。
あれなのよねぇ。トリカリト先生が、連続はダメだと言うから一回しか魔法を出す練習が出来ない。
最終的に十分間出せるようになれば、授業は終了の予定だったから余裕だと思ったのに、一回の授業で一回しか魔力を出す練習が出来ないから全然進まないのよ。
しかもそれは毎日ではない。結局、毎日の授業にはならなかった。
こうなるのなら毎日の方が早く授業は完了したかもしれない。
そんな事を思いながらベビット殿下を見ていたら、ふいに目が合った。
って、なぜそのまま見つめるのよ。
「そんなに見つめられたら照れるなぁ」
いやこれは、考え事をする時の癖よ!
パッと目線を外す。
うん? 何か視線が……。
振り向けば、レオンス様の鋭い視線が突き刺さっていた。
なぜかわからないけど、ご立腹?
あ、殿下の不敬を買ったから?
今度から考え事をする時は、目を瞑ろうかしら。いや授業中だと、居眠りになっちゃうわね。
「レオンス様。今日は強めに火を出していますの」
「あぁ。そのようだな」
「褒めて下さらない?」
「……すごい。すごい」
フロール嬢が気持ちがこもっていないレオンス様の言葉にも嬉しそうにしている。
待って、フロール嬢。彼に恋してはダメよ。私の婚約者なんだから。というか、二度も三度も婚約解消などしたら流石に、家名に傷がつく。
一応円満に婚約に至ったのだからそれはあり得ない。
彼女には諦めてもらうしかないわ。
「ふう。疲れた」
「あ、お疲れ様でした」
風魔法が消え、疲れた手をフルフル振っているベビット殿下に振り向けば、何かご不満な様子。
「あっちばかり見て、私はなおざりか?」
「え? いえ、申し訳ありません」
「そんなにあの二人が気になる?」
「いえ……」
「だったらこっちに集中してほしいな」
「はい……」
「魔法陣の授業お願いするよ」
私は、戸惑いながら頷いた。だってずっと私の目を見て言うのだもの。
ベビット殿下が言う魔法陣の授業とは、残りの時間の授業の事。魔学の時間は一時間だからね。
教科書に沿ってただ教えるだけだし、教える事はそんなにない。
ただ、ベビット殿下は、かなり熱心だった。
疑問を私にぶつけて来るし、風魔法以外の授業も望むので他のも教えている。使えなくとも、覚える事は無駄にならないからね。
彼は本当に魔法に関心があるようで、いつも真剣だ。
◇
「今日も熱心だったな」
この頃魔学が終わった後一緒に帰る時は、いつもこんな風に機嫌が悪い。
「そうね。ベビット殿下は魔法にかなり関心があるみたいね」
「お前にだろう?」
「は? 私に? そんなわけあるわけないでしょう」
「見つめ合ったりしちゃって」
見つめ合うって何よ!
「そっちだって、フロール嬢に言い寄られて、鼻の下を伸ばしていたじゃない」
「はぁ? ガキ相手に鼻なんて伸びないよ! それはそっちだろうが! ぴったりくっついて!」
ぴったりくっついてなんて……あれ? そう言えば肩が何度か触れたような。
って、なんでそんなに近くに?
教えるのに夢中になっていて、気にしていなかったわ。
だとしても、真面目に教えているのにそんな言い方ないんじゃない!?
「彼もあなた同様、魔術にかなり熱心なのよねぇ。惚れちゃいそう」
「はぁ! アイツだってお前同様優秀だ。惚れちゃうかもな!」
「ふん。どうそご自由に。好きになったところで、私との婚約は破棄できないでしょう。リサおばあさまにお願いしてまでこぎつけた婚約でしょう」
「あぁ。そうだよ。あのな、あいつに興味はあるが、惚れる事なんてないよ」
興味があるですって!!
「お前が心配なんだ。ベビット殿下に気を許すなよ」
「あのね。私だって惚れるわけないでしょう」
「そうじゃない。彼の国は、魔法が禁止されているんだ。だから本当は学んだって意味がない」
「え?」
使えないのに習っているの? そう言えば、魔法ってあるのに付近の国では魔法を使える人はいないって習ったわね。
私は、時間がなかったから他国の事はサラッとしか習ってないけど。
「そうなんだ。魔法にどんなに興味を持っても今だけなんだね」
「変な同情なんて持つなよ。相手は王族なんだ」
「へ? どういう意味?」
「お前を俺から奪う事が可能な相手だって事だ」
「はい!?」
魔法の為に婚約者がいる相手を自分のモノにするって事? いやそんな事をしたどころで、意味はないでしょう。
私がコチラビィ王国に行った所で、魔法を使えるようになるわけでもないわ。
でも何だか胸騒ぎがする。何かがうごめいている予感。
ベビット殿下の国の事を調べてみようかしらね。
――◆――◆――◆――
はあ。フロール嬢だけではなく、ベビット殿下にも注意しなくてはいけなくなりそうだな。
フロール嬢は、ガムン公爵の隠し子かもしれない。
彼女は、マルン子爵家の実子となっているが、そうではなくガムン公爵の姉であるルナイリー侯爵夫人が手配したようだ。
しかもその後、マルン子爵家はルナイリー侯爵夫人からバックアップを受けている。まあこっそりだけどな。
そして、その金の出所がガムン公爵家からだった。
つまり、ルナイリー侯爵夫人を通してガムン公爵がマルン子爵家に、お金を渡していたって事だ。
だからフロール嬢は、それなりの教育を受ける事ができ、優良クラスに入る事ができた。
少なくともガムン公爵にとって、フロール嬢はそうするぐらいの相手という事になる。
もし、彼女が、自身とガムン公爵との関係を知っているのなら厄介だ。
彼女が何かお願いすれば、それをガムン公爵が実行に移す可能性がある。
はあ。なぜこう次から次へと、面倒な奴が出て来るんだよ!
5分ぐらい出せる様になった。
あれなのよねぇ。トリカリト先生が、連続はダメだと言うから一回しか魔法を出す練習が出来ない。
最終的に十分間出せるようになれば、授業は終了の予定だったから余裕だと思ったのに、一回の授業で一回しか魔力を出す練習が出来ないから全然進まないのよ。
しかもそれは毎日ではない。結局、毎日の授業にはならなかった。
こうなるのなら毎日の方が早く授業は完了したかもしれない。
そんな事を思いながらベビット殿下を見ていたら、ふいに目が合った。
って、なぜそのまま見つめるのよ。
「そんなに見つめられたら照れるなぁ」
いやこれは、考え事をする時の癖よ!
パッと目線を外す。
うん? 何か視線が……。
振り向けば、レオンス様の鋭い視線が突き刺さっていた。
なぜかわからないけど、ご立腹?
あ、殿下の不敬を買ったから?
今度から考え事をする時は、目を瞑ろうかしら。いや授業中だと、居眠りになっちゃうわね。
「レオンス様。今日は強めに火を出していますの」
「あぁ。そのようだな」
「褒めて下さらない?」
「……すごい。すごい」
フロール嬢が気持ちがこもっていないレオンス様の言葉にも嬉しそうにしている。
待って、フロール嬢。彼に恋してはダメよ。私の婚約者なんだから。というか、二度も三度も婚約解消などしたら流石に、家名に傷がつく。
一応円満に婚約に至ったのだからそれはあり得ない。
彼女には諦めてもらうしかないわ。
「ふう。疲れた」
「あ、お疲れ様でした」
風魔法が消え、疲れた手をフルフル振っているベビット殿下に振り向けば、何かご不満な様子。
「あっちばかり見て、私はなおざりか?」
「え? いえ、申し訳ありません」
「そんなにあの二人が気になる?」
「いえ……」
「だったらこっちに集中してほしいな」
「はい……」
「魔法陣の授業お願いするよ」
私は、戸惑いながら頷いた。だってずっと私の目を見て言うのだもの。
ベビット殿下が言う魔法陣の授業とは、残りの時間の授業の事。魔学の時間は一時間だからね。
教科書に沿ってただ教えるだけだし、教える事はそんなにない。
ただ、ベビット殿下は、かなり熱心だった。
疑問を私にぶつけて来るし、風魔法以外の授業も望むので他のも教えている。使えなくとも、覚える事は無駄にならないからね。
彼は本当に魔法に関心があるようで、いつも真剣だ。
◇
「今日も熱心だったな」
この頃魔学が終わった後一緒に帰る時は、いつもこんな風に機嫌が悪い。
「そうね。ベビット殿下は魔法にかなり関心があるみたいね」
「お前にだろう?」
「は? 私に? そんなわけあるわけないでしょう」
「見つめ合ったりしちゃって」
見つめ合うって何よ!
「そっちだって、フロール嬢に言い寄られて、鼻の下を伸ばしていたじゃない」
「はぁ? ガキ相手に鼻なんて伸びないよ! それはそっちだろうが! ぴったりくっついて!」
ぴったりくっついてなんて……あれ? そう言えば肩が何度か触れたような。
って、なんでそんなに近くに?
教えるのに夢中になっていて、気にしていなかったわ。
だとしても、真面目に教えているのにそんな言い方ないんじゃない!?
「彼もあなた同様、魔術にかなり熱心なのよねぇ。惚れちゃいそう」
「はぁ! アイツだってお前同様優秀だ。惚れちゃうかもな!」
「ふん。どうそご自由に。好きになったところで、私との婚約は破棄できないでしょう。リサおばあさまにお願いしてまでこぎつけた婚約でしょう」
「あぁ。そうだよ。あのな、あいつに興味はあるが、惚れる事なんてないよ」
興味があるですって!!
「お前が心配なんだ。ベビット殿下に気を許すなよ」
「あのね。私だって惚れるわけないでしょう」
「そうじゃない。彼の国は、魔法が禁止されているんだ。だから本当は学んだって意味がない」
「え?」
使えないのに習っているの? そう言えば、魔法ってあるのに付近の国では魔法を使える人はいないって習ったわね。
私は、時間がなかったから他国の事はサラッとしか習ってないけど。
「そうなんだ。魔法にどんなに興味を持っても今だけなんだね」
「変な同情なんて持つなよ。相手は王族なんだ」
「へ? どういう意味?」
「お前を俺から奪う事が可能な相手だって事だ」
「はい!?」
魔法の為に婚約者がいる相手を自分のモノにするって事? いやそんな事をしたどころで、意味はないでしょう。
私がコチラビィ王国に行った所で、魔法を使えるようになるわけでもないわ。
でも何だか胸騒ぎがする。何かがうごめいている予感。
ベビット殿下の国の事を調べてみようかしらね。
――◆――◆――◆――
はあ。フロール嬢だけではなく、ベビット殿下にも注意しなくてはいけなくなりそうだな。
フロール嬢は、ガムン公爵の隠し子かもしれない。
彼女は、マルン子爵家の実子となっているが、そうではなくガムン公爵の姉であるルナイリー侯爵夫人が手配したようだ。
しかもその後、マルン子爵家はルナイリー侯爵夫人からバックアップを受けている。まあこっそりだけどな。
そして、その金の出所がガムン公爵家からだった。
つまり、ルナイリー侯爵夫人を通してガムン公爵がマルン子爵家に、お金を渡していたって事だ。
だからフロール嬢は、それなりの教育を受ける事ができ、優良クラスに入る事ができた。
少なくともガムン公爵にとって、フロール嬢はそうするぐらいの相手という事になる。
もし、彼女が、自身とガムン公爵との関係を知っているのなら厄介だ。
彼女が何かお願いすれば、それをガムン公爵が実行に移す可能性がある。
はあ。なぜこう次から次へと、面倒な奴が出て来るんだよ!
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