【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
37 / 83

第37話

しおりを挟む
 私が披露する水魔法は、ステージの上に雨を降らせるもの。
 床に水が落ちる前に魔法陣で吸収する。降らせた水を処理させる魔法陣だったのよ。
 でも魔法陣には、風魔法が組まれていて、水を感知すると風が巻き起こる。

 ステージの脇で魔法を使う私も濡れるけど、観客として見ている生徒も、もれなくびしょ濡れよ。
 自国の王子だけではなく、他国の王子もいるというに!
 生徒達は、何も知らないから私が魔法を暴発させたとか思うかもしれないけど、魔法博士ならすぐわかるわよ。
 怪我はしないだろうけど、故意にやったのは明白。学園を首になるでしょうね。

 たかが令嬢を貶める為にする行為ではないでしょうに!
 仕方がないわね。中止にするわけにもいかないし。

 私は予定通り、ステージの脇に立つ。
 左手を上に、右手を下に向け、魔法を繰り出す。
 ステージ上空に水を発生させ、雨を降らせた。もちろんそれは、暴風雨になどならない。

 右手で水を吸収しているからね。
 発生させるより吸収する方が難しいのだけど、これは循環させているだけ。水を発生させるよりある水を使う方が簡単なのよね。
 まあこれは、学生の時にマスターしていたから楽勝だけど。

 って、何? いきなり凄い拍手が。あ……。
 魔法に集中していたから気づかなかったけど、レオンス様が光を当てていた。それにより虹がステージに架かっていた。

 先生達はもちろん、レオンス様も私が雨を降らせると知っている。もう美味しいところ持っていくんだから。

 私達はステージの脇から出て並んで軽くお辞儀をすれば、また拍手が送られた。

 「流石だな。器用な事で」

 ボソッとレオンス様が呟く。

 「もし発動しても、俺達が濡れるだけだ。ちゃんと防ぐ魔法の準備はしていた」

 もしかして魔法陣がすり替わっていた事をご存じでしたか!
 ちょっと待って。それって光魔法と火魔法では無理なのでは?
 やはりね。他の魔法も使えるのね。
 学園では一人で練習する。呪文も教科書に載っている。だったらレオンス様も全属性を使える様になっていても不思議ではないわ。

 こうして、無事歓迎会は終了するのだった。



 静まり返った講堂のステージに忍び込むように、男が上がった。スタスタ歩く彼は、中央に立ち下を向く。

 パチン。
 男が下を向いた瞬間に私は、指を鳴らす。もちろん、私にもできるのよアピールよ。

 「うわぁ!!」

 突然巻き起こった暴風雨に男は、両腕で顔を覆い隠した。

 私達は、魔法陣を消しに来るだろう犯人を捕らえる為に、ステージに立って待っていたのよ。
 けど犯人は、私達に気付かずに魔法陣へと歩み寄った。

 「凄いな。本当にバレなかった」

 私達の後ろに居たコチラビィ王国のベビット殿下が興奮気味に言えば、ハッとして犯人が私達に振り向く。
 そして、私達の存在に気が付き、驚きの表情を向けている。

 「どうも、先生。凄いですね。先生が設置した魔法陣は。あぁ、周りがびしょ濡れだ。私では、この方々をお守りするのが精いっぱいで」

 何とも嫌味な事を言ってレオンス様が、ベビット殿下達に振り向く。そこには、ベビット殿下だけではなくイルデフォンソ殿下とマルシアール殿下、レオ様が立っていた。

 「な! いつの間に」
 「いつの間にもなく、ずっとこちらにおりましたよ。私の得意属性は光なのです」

 そうレオンス様が言っても、犯人のタシデホア先生はピンと来ていない。いやわかるはずもない。光の屈折を利用して姿を見えなくしていたなど。

 ファンタジーなどでよく使われる姿を消す結界? 光魔法が得意なだけあって、色々試したみたいね。
 移動しながらは無理のようだけど、自分だけではなく王子達を含む六名も隠しちゃうんだから凄すぎる。
 しかもそれだけじゃなく、暴風雨が起きるタイミングでそれを風魔法の結界へと変えた。風圧で、風も水も結界内に入れない魔法。

 私がやった事と言えば、水魔法で作った水を魔法陣に落としただけ。指を鳴らしたのは、暴風雨が起こる合図でもあったのよね。

 タシデホア先生が、一歩下がると足元からジャリッと聞こえ下を向く。そこには、濡れた土があった。

 「魔法陣を土に?」
 「いやいや。魔法陣に土で蓋をしただけですよ。だってその魔法陣には、エンドが描かれていない。魔法陣に含まれる魔力がなくなるまで発動を続けるからね」

 エンド。言葉の通り魔法の終わりの条件の事。それが組み込まれていないと、描いた時に使った魔力が切れるまで発動し続ける。
 つまり、水を一滴でも垂らせば発動し暴風が起き、それは水が無くても発動し続けるという事。

 こういう魔法陣は、罠の役目を果たす。まあ魔物がいない今には、必要がない魔法陣でもあるのだけど。

 「わ、私は頼まれて魔法陣を消しに来ただけだ」
 「誰にですか? おかしいですね。犯人と俺以外、魔法陣が発動したと思ったはずなのですが?」

 レオンス様の声のトーンが低くなった。

 「消す必要あります? 魔法陣を消すと言う事は、魔法陣が発動しなかったと思ったからですよね?」

 魔法陣は、魔力で描くので魔力が抜ければ消滅する。

 「タシデホア先生。場所を変えて詳しくお話願いますか?」

 レオ様が鋭い視線を送り言えば、悔しそうにタシデホア先生は俯いた。

 ――◆――◆――◆――

 気に入らないからとした行為にしては、たちが悪い。
 もし魔法陣が発動すれば、王子達を含む講堂に居た人達はずぶ濡れだ。結構な勢いだったから物が飛んだ可能性もある。

 しかも、魔法陣のせいだと証明できなければファビアが責任を取らされたはずだ。
 なにせ、魔法博士である先生方の誰も、ファビアが水魔法を使って吸収しているのに気づいていなかった。

 能力魔力量が高くないと、魔力を感じ取れないという検証にもなったが、到底許せるはずもない。
 故意にやったのだから、クビになるだけではなく魔法博士剥奪になるだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...