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第33話
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「やあ。今日も来ていたんだね」
トントントンとノックの後に「はい」と返事を返せば、研究室にアマート様がそう言いつつ入って来る。
「兄上もここを与えて放置だなんて……」
婚約式の数か月後に私専用の研究室が完成した。レオンス様は貴族学園に行っているので、一人で研究している。
まあ、それが私の仕事なのだから一人で当たり前なのだけどね。
「アマート様。こんにちは。今日もお邪魔しておりますわ。レオンス様は、学園での活動がお忙しいのですから仕方がありませんわ」
貴族学園が、どんな成績でも卒業できると言ってもテストがあり、伯爵家以上なら上位を目指す。なにせ、順位でクラス分けしているから。
優良クラスと普通クラスがあり、優良クラスになれる者は10名しかいない。他の者は普通クラスで、これも順位で普通1クラス、普通2クラスと分けれていて、レオンス様の学年は普通3クラスまである。
もちろんレオンス様は、優良クラス。勉強が嫌いだといいながら一位を獲得して、優良クラスに在籍。
ちなみにアマート様は、普通3クラスらしい。
両親がレオンス様を後継ぎにしたいと思うはずだわ。
だってアマート様は……。
「忙しいねぇ。居残りをしているだけだよ」
なんて言うし。
なんというか、向上心がないみたいなのよね。
双子の片割れが優良クラスで自分が普通3クラスなのに悔しくないのかしら。
すねているわけでもなさそうだし、自分にはレオンス様は関係ないって感じよね。
侯爵家を継ぎたいのではなかったのかしら?
「居残りではありませんわ。後継ぎとしての勉強を更に受けていると聞いています」
「跡取りね。残念だけど、彼は跡取りではないよ」
「はい!? ですが私はそう聞きましたが……」
そう言うとムッとした顔つきになった。
「知っているよね? 兄上は、一度婚約を解消しているのを。兄上と呼んでいるけど、僕も同じ年齢だ」
レオンス様が言っていたように、本当に自分が跡を継ぐと思っているのね。私から見てもレオンス様に継がせようとしているとわかるのに。
そもそも婚約者うんぬんって言うけど、アマート様には婚約者がいないじゃない。
貴族学園入学前には、跡取りなら婚約者がいるって聞いたけど?
「ですから私が侯爵家の養女になって、レオンス様の婚約者になったのではありませんか。そうでなければ、ココドーネ侯爵家の養女になる必要はありませんもの」
「な、何を言う……」
「それに、アマート様には婚約者はおりませんよね?」
「う、うるさい! で、出ていけ! 敷地内に入るのを禁じる!」
「はい!?」
怒ってドアを閉めて出て行ってしまった。
まあいいわ。彼にはそんな権限はないのだし。
それに私も学園に通う様になれば、研究は暫くしないつもりだから。入学まではあと一週間。
今日は、後片付けをしに来た。いやそれはついでかな。ここに来ている目的は……。
「ファビア、休憩にしましょう」
タカビーダ侯爵夫人からお声が掛かった。
目的は、これよ!
三時のおやつのケーキよ!
「また、アマートがそちらにお邪魔したでしょう。邪魔しない様に言ってあるのですけどね」
「はい。大丈夫です。それよりこれおいしいですわ」
あの様子だと、もうこないだろうし。
「あなた好みだと思ったわ。それで昨日の試験はどうでしたの?」
昨日は、入学試験だった。入学試験と言ってもクラス分けの為の試験だから、全員入学できるのだけどね。
思ったより難しくなかった。まあ、リサおばあ様が貴族学校に入学する為に更に勉強を教えて下さったからだけど。
「優良クラスになれたらいいなぁっというぐらいには、できましたわ」
「それはよかったわ。でも優良クラスでなくてもがっかりしないようにね。今年は、王族が通うから枠が少ないのよ」
「え? 枠ですか?」
王族が通うとは聞いていた。
なんでも、第二王子が私と同じ歳なんだとか。
「王族は、どんなに頭が悪くても優良クラスだそうよ」
声を細めて言うけど、一人ぐらい増えても……あ、そっか。王子と同じクラスになりたい者達が、凄く頑張っちゃうからいつもにましてハードルが高いって事なのね。
「そうですか。まあそれなら優良クラスになれなくても、リサおばあ様は許して下さるかもしれませんわね」
「本当に手厳しいわね、あの方は」
そうなのよ。レオンス様が優良クラスになったから婚約者である私もそうあるべきだと言うのよね。
まあ頑張った甲斐があり、何とか優良クラスになれた。入学式の前日に、クラス分けの連絡が届きみんなで大喜びよ。
ココドーネ侯爵家一同に、優良クラスだった祝いをしてもらったわ。
「よかった。これで、校内イベントは一緒にできそうだね」
エメリック様がにっこりとして言った。
「校内イベント?」
「校内で行うイベントは、縦割りなんだ。だから優良クラスの1学年から3学年は同じチームなんだ」
「そうなのですね」
エメリック様もレオンス様と同じ優良クラス。私と同じ二位の成績だった。
思ったより好成績だったのよね。どうせなら一位をとりたかったわ。でもまあ、一位が王子様なら仕方がないわよね。
どんなに頭が悪くてもって言っていたけど、私より良い教育を受けているのだから一位で当たり前か。
――◇――◆――◆――
あの女は嫌いだ。優しくしてやれば自分が侯爵夫人になると宣言して来た。
初めは、僕の方が出来が良かった。
レオンスが属性持ちだと知ると態度が変わって、気が付けば家庭教師まで別になっていた。
あいつは我儘だ。婚約者が欲しいとねだるから、結局婚約破棄になった。これで諦めたと思っていたのに、新しい婚約者を作り離れまで。
婚約者がいないだって? 慌てて探してもレオンスみたいになるから、貴族学校で探す事になっているんだよ。
僕はレオンスと違って、両親に従っているのだから。
トントントンとノックの後に「はい」と返事を返せば、研究室にアマート様がそう言いつつ入って来る。
「兄上もここを与えて放置だなんて……」
婚約式の数か月後に私専用の研究室が完成した。レオンス様は貴族学園に行っているので、一人で研究している。
まあ、それが私の仕事なのだから一人で当たり前なのだけどね。
「アマート様。こんにちは。今日もお邪魔しておりますわ。レオンス様は、学園での活動がお忙しいのですから仕方がありませんわ」
貴族学園が、どんな成績でも卒業できると言ってもテストがあり、伯爵家以上なら上位を目指す。なにせ、順位でクラス分けしているから。
優良クラスと普通クラスがあり、優良クラスになれる者は10名しかいない。他の者は普通クラスで、これも順位で普通1クラス、普通2クラスと分けれていて、レオンス様の学年は普通3クラスまである。
もちろんレオンス様は、優良クラス。勉強が嫌いだといいながら一位を獲得して、優良クラスに在籍。
ちなみにアマート様は、普通3クラスらしい。
両親がレオンス様を後継ぎにしたいと思うはずだわ。
だってアマート様は……。
「忙しいねぇ。居残りをしているだけだよ」
なんて言うし。
なんというか、向上心がないみたいなのよね。
双子の片割れが優良クラスで自分が普通3クラスなのに悔しくないのかしら。
すねているわけでもなさそうだし、自分にはレオンス様は関係ないって感じよね。
侯爵家を継ぎたいのではなかったのかしら?
「居残りではありませんわ。後継ぎとしての勉強を更に受けていると聞いています」
「跡取りね。残念だけど、彼は跡取りではないよ」
「はい!? ですが私はそう聞きましたが……」
そう言うとムッとした顔つきになった。
「知っているよね? 兄上は、一度婚約を解消しているのを。兄上と呼んでいるけど、僕も同じ年齢だ」
レオンス様が言っていたように、本当に自分が跡を継ぐと思っているのね。私から見てもレオンス様に継がせようとしているとわかるのに。
そもそも婚約者うんぬんって言うけど、アマート様には婚約者がいないじゃない。
貴族学園入学前には、跡取りなら婚約者がいるって聞いたけど?
「ですから私が侯爵家の養女になって、レオンス様の婚約者になったのではありませんか。そうでなければ、ココドーネ侯爵家の養女になる必要はありませんもの」
「な、何を言う……」
「それに、アマート様には婚約者はおりませんよね?」
「う、うるさい! で、出ていけ! 敷地内に入るのを禁じる!」
「はい!?」
怒ってドアを閉めて出て行ってしまった。
まあいいわ。彼にはそんな権限はないのだし。
それに私も学園に通う様になれば、研究は暫くしないつもりだから。入学まではあと一週間。
今日は、後片付けをしに来た。いやそれはついでかな。ここに来ている目的は……。
「ファビア、休憩にしましょう」
タカビーダ侯爵夫人からお声が掛かった。
目的は、これよ!
三時のおやつのケーキよ!
「また、アマートがそちらにお邪魔したでしょう。邪魔しない様に言ってあるのですけどね」
「はい。大丈夫です。それよりこれおいしいですわ」
あの様子だと、もうこないだろうし。
「あなた好みだと思ったわ。それで昨日の試験はどうでしたの?」
昨日は、入学試験だった。入学試験と言ってもクラス分けの為の試験だから、全員入学できるのだけどね。
思ったより難しくなかった。まあ、リサおばあ様が貴族学校に入学する為に更に勉強を教えて下さったからだけど。
「優良クラスになれたらいいなぁっというぐらいには、できましたわ」
「それはよかったわ。でも優良クラスでなくてもがっかりしないようにね。今年は、王族が通うから枠が少ないのよ」
「え? 枠ですか?」
王族が通うとは聞いていた。
なんでも、第二王子が私と同じ歳なんだとか。
「王族は、どんなに頭が悪くても優良クラスだそうよ」
声を細めて言うけど、一人ぐらい増えても……あ、そっか。王子と同じクラスになりたい者達が、凄く頑張っちゃうからいつもにましてハードルが高いって事なのね。
「そうですか。まあそれなら優良クラスになれなくても、リサおばあ様は許して下さるかもしれませんわね」
「本当に手厳しいわね、あの方は」
そうなのよ。レオンス様が優良クラスになったから婚約者である私もそうあるべきだと言うのよね。
まあ頑張った甲斐があり、何とか優良クラスになれた。入学式の前日に、クラス分けの連絡が届きみんなで大喜びよ。
ココドーネ侯爵家一同に、優良クラスだった祝いをしてもらったわ。
「よかった。これで、校内イベントは一緒にできそうだね」
エメリック様がにっこりとして言った。
「校内イベント?」
「校内で行うイベントは、縦割りなんだ。だから優良クラスの1学年から3学年は同じチームなんだ」
「そうなのですね」
エメリック様もレオンス様と同じ優良クラス。私と同じ二位の成績だった。
思ったより好成績だったのよね。どうせなら一位をとりたかったわ。でもまあ、一位が王子様なら仕方がないわよね。
どんなに頭が悪くてもって言っていたけど、私より良い教育を受けているのだから一位で当たり前か。
――◇――◆――◆――
あの女は嫌いだ。優しくしてやれば自分が侯爵夫人になると宣言して来た。
初めは、僕の方が出来が良かった。
レオンスが属性持ちだと知ると態度が変わって、気が付けば家庭教師まで別になっていた。
あいつは我儘だ。婚約者が欲しいとねだるから、結局婚約破棄になった。これで諦めたと思っていたのに、新しい婚約者を作り離れまで。
婚約者がいないだって? 慌てて探してもレオンスみたいになるから、貴族学校で探す事になっているんだよ。
僕はレオンスと違って、両親に従っているのだから。
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