【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
上 下
1 / 83

第1話

しおりを挟む
 「見ない間に、大人っぽくなったな」

 私の婚約者になる彼は、私の首の後ろに手を回し言った。
 嬉しいけど少し照れ臭い。
 本当は私、誰とも結婚する気などなかったのに、彼にほだされちゃったのよね。

 私は、前世の記憶を持っていたけど、この世界では何も役に立たない。でも恵まれた事に貴族の娘として生まれた。
 お陰でケーキを食べられる。でもこのままだと、将来が危うい。
 結婚して嫁いだ先で、ケーキが買えなくなるかもしれない。だったら結婚せずに独身でってね。

 もちろんその為の策も考えていたのだけど……。

 「では、私から。彼女を幸せにします。何があってもファビアは、守ります」

 そう皆に向かって宣言をすると彼は、優し気な瞳で私を見た。
 今日は、婚約式。めでたく? 私達は、婚約いたしました。



 前世と同じストレートの黒髪にロイヤルブルーの瞳。鏡を見る度に、自分がハーフの様で不思議な気分になった。
 けどこの世界では、黒髪もロイヤルブルーも一般的だ。

 ファビア・ブレスチャ。子爵家の一人娘だった私に、継母とその娘の義妹ができた。
 この世界の貴族は、片親だと体裁が悪いらしくお父様は私が8歳の時に再婚をした。
 その時に一つ下の義妹ができたのだ。彼女は、マリーと言って、母親と同じ銀色の髪に赤い瞳で可愛らしい子。

 どうせなら私も黒髪ではなく、銀色がよかったなぁ。

 母親も、30過ぎとは思えない程若作りをした人だった。
 大抵の令嬢は、18歳までに結婚し20歳頃までに第一子を産む。それを考えると彼女は、結婚が遅かったか子宝になかなか恵まれなかったのか。母親になった時には、25歳だったみたい。

 私は産まれた時から前世の記憶があったので、変わった性格の子として育っていて、私の私生活を見た継母は大変驚いていて、マリーと一緒に淑女の勉強をさせられた。
 彼女は、男爵家のご令嬢で最初の結婚した相手も男爵だったとか。

 「あなたが変な行動を起こせば、マリーも同じ目で見られるのよ」

 お父様がいない所で、いつもそう言うのだ。
 外に出る時は、ちゃんとしているのだから部屋にいる時ぐらい、まったりしてもいいじゃないか。
 そう言いたいけど、8歳の私には言えなかった。

 お父様は、どうやら彼女の容姿に惚れたみたい。と言うか銀髪がいいらしい。お母様がそうだった。
 そう私の黒髪は、お父様譲り。瞳は両方かな。
 お父様が紫の瞳で、お母様は碧眼。

 と言う訳で、彼女に言いくるめられていて、ドレスだ、宝石だと言われるまま買い与えていた。
 もちろん、自身の娘マリーにもドレスを新調するのを忘れない。
 一応私に「わよね?」と聞いてくるから、頷いて返せば、マリーにだけドレスを買い与えていた。
 その聞き方どうよ。と思うも、彼女と争うのも面倒くさい。

 それについて彼女はお父様に、「ドレスを作りましょうと言ったのですが、要らないと頑ななのです」と言っていた。
 元々変わった子だったので、その話をお父様は信じている。
 娘に問えよ! 本当なのかって。
 まあ別に今のドレスで十分なので、いらないけどさ。でも、彼女達にどんどんお金が使われていると思うと、勿体ないと思うのだけど。どうかしら? お父様。

 ブレスチャ家は、領地を持たない貴族で王都の隣街に屋敷を持っていて、そこで暮らしている。
 って、この世界では男爵家と子爵家は領地を持っていないのが普通だ。次男、三男が婚姻した時に頂く事ができる爵位で、もしその者達に娘しか出来なければ、嫁に行き廃爵になるのが一般的らしい。
 夫人は、爵位を継げない仕組みみたいね。

 なので、ブレスチャ子爵家もお父様の代でなくなる予定。
 この世界ではお父様ぐらいの年齢だと子は作らない。
 子連れでも男児がいる相手ならわかるけど、彼女を再婚相手に選ぶのだから、惚れこんだって事よね。
 継母となった彼女は、お父様亡き後はブレスチャ子爵夫人ではなくなる。

 まあ彼女がどうなろうと私は別にどうでもいいけど、そんな彼女が、意味不明の事を口走る。

 「ねえあなた。心配なのよ。だからマリーと同学年にしましょう」

 嫁に行けないと困るわよと継母が言い始めたのは、私が10歳になる年。
 10歳から初等科の貴族の学校に通う事ができる。これは、義務ではないので通わない貴族が多いが、無料なので男爵家と子爵家の子供達は通う事が多い。

 継母が言っているのは、私が11歳、マリーが10歳になった時に一緒に通わせましょうという事。そうすれば学年が一緒になる。4年制で、その後14歳から貴族学園に通うのが一般的。貴族学園は3年制で16歳で卒業して、大抵はその後に結婚する。
 そうなると私は貴族学園に14歳から通えない。
 なのでこの継母の案でいくと、早くても17歳の卒業後に結婚となってしまう。まあ私は、別にいいけどね。結婚する気ないし。

 「ファビアはどうしたい」

 珍しくお父様が私に問う。だから意気揚々にこう答えた。

 「私は、魔法学園に通いたい!」

 ――と。
 その答えには、流石に継母も驚いていた。きっと私は、いつも通り「それでいい」と答えると思っていたと思うからね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

処理中です...